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煩いを捨てる者、呑み込む者ー北川と夏油ー
『モノノ怪-唐傘-』の北川と、『呪術廻戦』の夏油について、呪術廻戦、完結おめでとう!という気持ちでちょっと考えてみた。
煩いを捨てた北川
北川は『モノノ怪-唐傘-』に登場した、奥女中の1人である。かつては御祐筆を担うほど有能な女性であったが、あることをきっかけに彼女は自室に引きこもり、お勤めを果たせなくなった。そして、自ら大奥にある大井戸に飛び込んでしまうのだった。
『モノノ怪』の世界
『劇場版モノノ怪 唐傘』思ったこと
《唐傘》に考えたこと
①映画に出てくる北川には、北川の姿を借りて現れている《唐傘》と北川自身の思念の二通りがある。
北川の姿を借りている《唐傘》の行動理念と、北川の想いはそれぞれ別物だが、混ざり合っている…というイメージ。
②《唐傘》は乾いた者を襲う
乾いた者=大切なモノを捨て、大奥やそこでの役目に執着し縛られるあまり自分を見失った者
大奥に染まらない=乾いていないカメの危機に反応して顕
『劇場版モノノ怪 唐傘』古池に染まるということ
モノノ怪 唐傘という物語を最もよくあらわしたのが、小説版で坂下が語った上の言葉ではないだろうか。
手に職をつけたくて、煌びやかな世界に憧れて、箔をつけたくて、魚たちは濁り淀んだ古池とも知らず、大奥へ飛び込んでくる。その古池に染まるように、魚たちは濁り淀んだ水を飲み干し、大切なモノを捨てる。そうして、姿形を変え、あるいは心の在り方を変えることで、魚たちは大奥に受け容れられるのだろう。
大奥に
シャーロック・ホームズの凱旋-ただの人へ-
『シャーロック・ホームズの凱旋』を読んでちょっと思ったこと。ネタバレありです。
スランプが招くもの
読み始める前、ホームズがへっぽこ推理を披露しまくってはワトソンを振り回し、冒険しているのか怠けているのかわからないほんわか小説だと思っていた。
しかし、断じてほんわかなだけの大作ではない。物理的な厚み以上の内容の濃さ。
物語に引き込まれるほど、現実とファンタジーの境が曖昧になり混ざり合い
『有頂天家族』の弁天が生きる物語
『有頂天家族』の弁天について思いついたこと。
弁天とは
『有頂天家族』は、狸、天狗、人間を巡る物語である。そして、そのうち人間代表として登場するのが弁天である。
しかし、弁天はただの人間ではない。如意ヶ嶽薬師坊(以下、赤玉先生)に見初められ、手取り足取り天狗教育をほどこされた。その結果、彼女は天狗への階段を勢いよく駆け上り、天狗として孤高の地位にあった師である赤玉先生を踏み台に高く高く舞
小野不由美作品と理不尽との共存
最近小野不由美作品を一気読みしたので、ちょっと思ったことを。
なぜこれほど小野不由美の描くホラーに惚れ惚れするのだろう。「しっかりと怖い」以上の何か、一言では表現できないものが秘められているように思う。
私が小野不由美のホラーに出会ったのは、小学生の頃。漫画化されたゴーストハントを友達に貸してもらったことから始まる。ゴーストハントの漫画が完結したときにはそれに代わる小説や漫画を探し回った
『有頂天家族』が切り開くもの
森見登美彦の『有頂天家族』を読み返したのでちょっと思ったことを。ちなみに『二代目の帰朝』の内容はは含まない。
❝阿呆の血❞が動かす物語
『有頂天家族』を初めて読み終えたとき、とても不思議な感じがした。
この物語を大きく動かすのは、下鴨総一郎という偉大な狸の❝阿呆の血❞のしからしむるところなのである。しかし、この狸はあろうことか、実弟の策略によって狸鍋となり、人間においしくいただかれること
のぼせる我々のための『太陽の塔』
森見登美彦の『太陽の塔』を最近読み返したので、少し思ったことを。
『太陽の塔』の主人公は、水尾さんという女性にのぼせあがっている。水尾さんに理性では理解できない未知の魅力を感じ、あろうことか「水尾さん研究」まで始めてしまったのだ。
これが付き合っている男女の間で起こっていることならまだしも、彼らの関係はすでに終わっている。にもかかわらず、主人公は水尾さんを追い回し彼女をひたすら研究しまくっ
スラダン映画を観てちょっと思ったこと
最初にスラダンを読んだのは高校生の頃。
実は母がスラダンが大好きで(推しは花道らしい)、幼い頃からスラダンの背表紙を全巻眺めて育った。それでも高校生に至るまで読まなかったのは、生まれてこの方根性とは無縁に生きてきた私にとってバリバリのスポ根臭を放つスラダンに抵抗感があったからだ。
そんな私がいうのもなんだが、スラダンは単なるスポ根漫画ではない。スラダンの映画を観て感想と言うほどではないけど
「夜行」ー異界という視点ー5
大橋について
「君は長谷川さんのことが好きだったんだろう」「それはみんなそうでしょう」「……そうだね。もちろんそうだ」
この中井と大橋の会話から、大橋は長谷川に惹かれていることを自覚しながら、彼女への想いを明確に恋心だと定められないでいたことがうかがえる。長谷川失踪以前も、おそらく大橋は長谷川との距離感や関係性、あるいは長谷川という存在そのものを自分の中にどのように定位すればよいかわからなか
「夜行」ー異界という視点ー4
第四夜 天竜峡田辺について
大橋が田辺と出会ったとき、彼はすでに学生を卒業していた。その割に定職についている様子はなく、友人と立ち上げた劇団とアルバイトで生計を立てていたようだ。お世辞にも安定した生活とは言い難く、さらに「劇団の内紛やら借金やら両親の不和やら」が重なり、暗澹たる日々を過ごしていた。
しかし、「外見は豪快そうだが繊細なところもある」田辺には、そのような辛い現実を自ら乗り換えられ
「夜行」ー異界という視点ー3
藤村について
藤村は記憶だけで賀茂大橋あたりの情景を再現できるほど絵を描くことに長けている。しかし、成人してからは子どもの頃ほど描くことには興味はなく、「今は見るだけ」なのである。
芸術とは何だろうか。第四夜で岸田は「もしも芸術家というものが隠された真実の世界を描く役目を果たしているなら、こんなに筋の通った話はない。けれども僕はそんな理性的で美しい説明を信じない。ー中略ー世界とはとらえようも
「夜行」ー異界という視点ー2
第二夜 奥飛騨
武田について
一見繊細そうな武田は、相手が年上であっても臆せずに懐に潜り込めるような「図太い」「甘え上手」である。
しかし、彼自身が「踏み込んでしまえば、僕も増田さんのように-中略-美弥さんをコントロールすることができなくなるだろう」と言っていたように、あまりに心の距離が近すぎると相手に強い感情を抱かざるを得なくなることがわかっている。そこで彼は、自分から感情を切り離すこと
「夜行」ー異界という視点ー1
森見登美彦の作品を読むと、彼が描く❝異界❞の美しさとほの暗さに魅了される。日常の隙間に入り込む非日常の香りに、ぞっとするとともに懐かしくも感じるのだ。
そして、自分に森見が描く❝異界❞に共鳴する部分があることに気づく。
特に、「夜行」に現れる❝異界❞の恐ろしさと美しさは胸に迫るものがある。この胸に迫ってくるものの正体はいったい何か。
それぞれの話の概要を振り返りながら、❝異界❞について
『FILM RED』ウタと『ペンギン・ハイウェイ』アオヤマくんについてちょっと思ったこと
感想と言うほど大したものではないけれど、少し思ったことを。
今回の映画のヒロインであるウタは、優れた歌唱力とウタウタの実の能力者という絶大な力を持った外見的にも魅力的な少女だ。いや、設定上はすでに成人しているらしいが、成人しているようにはとても見えない幼さがある。
なぜ、こんなにも彼女は幼く見えるのだろうか。
その最たるが彼女の身勝手とも思える言動なのだろう。
彼女は、憧れていた男性
ペンギン・ハイウェイとハマモトさんのあれこれ3
ツラツラと妄想を書き連ねてきました。
一人であれこれ考えているとぐちゃぐちゃになるので、最初は頭の中の整理のために書き始めました。けれど、お目通ししてくださる方もいるようで、なかなかにうれしいものです。ほぼ妄想みたいな文章に付き合っていただきありがとうございます。
今回でこの話は一度最後にしようかなと思います。
引き続きネタバレにはご注意を。
ハマモトさんとお姉さん
ペンギン・ハ