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スラダン映画を観てちょっと思ったこと

 最初にスラダンを読んだのは高校生の頃。
 実は母がスラダンが大好きで(推しは花道らしい)、幼い頃からスラダンの背表紙を全巻眺めて育った。それでも高校生に至るまで読まなかったのは、生まれてこの方根性とは無縁に生きてきた私にとってバリバリのスポ根臭を放つスラダンに抵抗感があったからだ。

 そんな私がいうのもなんだが、スラダンは単なるスポ根漫画ではない。スラダンの映画を観て感想と言うほどではないけど、ちょっと思ったことを。


 宮城は幼い頃父を亡くし、父にかわって家族を支え、宮城にバスケを教えてくれた兄まで立て続けに失った。
 奇しくも、生まれた年こそ違うが同じ日に生まれた、一文字違いの兄は、宮城からすれば尊敬の対象であると同時に、自分の半身でもあったのではないか。彼は、自分という存在を意識し始める思春期を前に、自分を半分失ってしまったのだ。もっと極端な見方をすると、宮城は海へ出た兄に向かって帰ってくるなと言った。宮城は自ら半身を死に追いやったとも言えるのかもしれない。
 しかし、宮城はバスケのコートに立つときのみ半身を取り戻すことができた。母に否定されても、彼は天へと上った半身と再び繋がるためにコートに立ち続けたのだ。

 コートの外では、宮城はなぜか否応なくトラブルに巻き込まれた。
 自分の半分を失った宮城は、なぜ自分がこの世に存在するのかずっとわからないまま生きてきた。そんな彼は無意識に危険を呼び寄せ、危険を超えた先にあるもの、つまり死と向き合おうとしていたのかもしれない。宮城にとって必要なのは、死の向こう側にいる半身=兄としっかりと向き合い、繋がることだったからだ。
 宮城は死のギリギリまで行くしかなかった。そして、本当にバイク事故によって死のギリギリまで近づいた。死に近づくことで、むしろ彼は自分が生きる意味に近づこうとしたのではないか。そうして見えたのが、彼と兄のルーツである生まれ故郷、沖縄だったのだ。

 少し余談。
 兄を失い神奈川に越してきた宮城の前に、中2の頃の三井が現れた。見た目も性格も兄とは違う三井だが、それでもバスケに対する姿勢とセンスだけはよく似ていたのかもしれない。三井との1on1の最中に、宮城は三井の中に兄を見出した。
 その三井は、今度は宮城からバスケを奪い取ろうと再び現れる。宮城にとって兄は目標であり半身であると同時に、宮城の存在意義を破壊しようとしてくる恐ろしい一面があったのかもしれない。兄という存在に完全に飲まれてしまえば、宮城は宮城でなくなる。
 宮城は、兄という存在を取り込むと同時に、自分自身としてバスケを続けなければならないのだ。彼には兄や三井のような体格もシュートセンスにも恵まれなかったからだ。
 宮城は恐ろしい兄を体現している三井を打ち破ることで(さらに後の事故からも生き延びることで)、恐ろしい兄を破壊し、面倒見がよく頼もしい良い兄のみを取り込むことができたのだろう。

 事故後、宮城は沖縄へ帰った。兄と過ごした沖縄の秘密基地で、もう一度兄と出会うことで、宮城は自分が半身を取り戻したこと、そして頼りになる兄はもうこの世にいないことをようやく実感し涙を流したのだろう。

 宮城が立ったコートは、兄が立つはずだったコートでもあった。宮城は兄を排除するでもなく、兄に呑まれるでもなく、もう一人の自分として統合することで誰でもない宮城リョータとして山王戦に挑むことができた。
 そう思うと、今回のスラダンの映画は、しがない高校のしがないPGが、宮城リョータとなるまでの物語とも言えるのかもしれない。

 最後、母は存在を確かめるように宮城の身体に触れた。母にとって今までの半身を失った宮城は、触れたら消えてしまうような空虚さがあったのかもしれない。自らは危険の中に飛び込んでいっているように見える宮城は、兄を追いかけ死に向かって走りいつかいなくなってしまうのではないかという恐怖がずっと母の心に巣くっていたのだ。
 母にとっても、宮城は父や兄の代わりになってはいけなかったのだ。父や兄の代わりになればいつか宮城もいなくなってしまう。いなくならないためには、宮城は誰でもない宮城リョータとして存在しなければならない。
 山王戦を見た母は、兄の代わりではない宮城をきちんと見出すことができた。おそらく宮城自身も、頼もしい兄を取り込みつつも自分自身の存在意義を見出したことで、胸を張って母と向き合えるようになったのだろう。
 母が言った「おかえりなさい」は、全国大会から帰ってきた宮城に向けた挨拶だけでなく、宮城が彼自身を取り戻して母のもとへ帰ってきたことに対する「おかえりなさい」でもあったのだ。
 そして宮城はそんな母に兄がつけていたリストバンドを返す。もう、宮城リョータとなった彼にとって、兄は追いかける存在ではなくなったのだ。

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