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『FILM RED』ウタと『ペンギン・ハイウェイ』アオヤマくんについてちょっと思ったこと

 感想と言うほど大したものではないけれど、少し思ったことを。

 今回の映画のヒロインであるウタは、優れた歌唱力とウタウタの実の能力者という絶大な力を持った外見的にも魅力的な少女だ。いや、設定上はすでに成人しているらしいが、成人しているようにはとても見えない幼さがある。

 なぜ、こんなにも彼女は幼く見えるのだろうか。
 その最たるが彼女の身勝手とも思える言動なのだろう。
 彼女は、憧れていた男性も、一緒に遊ぶ友達も、一緒に歌う仲間も失い、孤独に育った。本来他者との間で学ぶべきことを何一つ学んでこなかった彼女は、自分の思いと他者の思いを区別できるほど心が成長していなかったのである。
 彼女は傲慢なのではなく、幼さゆえに自分の幸せはみんなの幸せだと本気で信じていたのだ。

 憧れの異性を失った…と言えば、『ペンギン・ハイウェイ』のアオヤマくんも憧れのお姉さんを失った。

 物語の最後にアオヤマくんはお姉さんとの再会を予感している。これはアオヤマくんがお姉さんを心の中に取り込んだことを意味しているのではないか。
 研究がうまくいかず挫けそうなときは一番近くで見守り、成功すれば「やるじゃないか少年」と誰よりも早く褒めてくれる存在。それが彼の心の守りとなり、立派な大人へと成長を促してくれることを予感させるのである。

 ではウタはシャンクスを心の中に取り込むことができなかったのだろうか。おそらく彼女は心の守りとしてシャンクスを取り込んでいたのではないかと思う。
 しかし自分が他者を傷つける存在であるということに気づいた絶望が、心の中に取り込んだシャンクスを根こそぎえぐっていったのではないだろうか。そうして心の守りを失ったウタは、他者を再び傷つけることを恐れて自ら望んでエレジアに、そして夢の中に引きこもったのだろう。

 ここで彼女に力も魅力もなければ世界を巻き込むことなく静かに人生を終えられただろう。なまじ強大な力と魅力があったからこそ、彼女の絶望の深さゆえに、自分も他者もわからないまま多くの人々を巻き込んで暴走するしかなかったのかもしれない。

 ウタは傷つけても向き合ってくれるルフィの存在に救われたのではないか。傷ついてもいなくならない、目の前から消えないルフィだからこそ、最後にもう一度だけウタに現実の世界を生きてみようと思わせることができた。
 気をつけていても他者を傷つけずに生きていくのはけっこう難しいものだ。ウタの絶望は、ウタだけのものではない。アオヤマくんもこの絶望を感じるときが来るかもしれない。そのときに、彼の目の前から消えず向き合ってくれるのはいったい誰だろう。ウチダくんだろうか、ハマモトさんだろうか。意外とスズキくんかもしれない。

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