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2017年1月の記事一覧

出逢いは珈琲色

出逢いは珈琲色

珈琲色の本の街 神保町。

なんて、感動的に、擽ったい見出しだろう。
アールグレイ・ショコラを飲み、喫茶店に置かれたその本を手に取る。
宇宙一居心地のいい高円寺の読書館にいながら、僕は、彼女と出逢ったあの日を思い出す。

今日神保町行ってき、「て」と彼女が言い終わらないうちに、カレー好きな僕は、ああ神保町ってカレーが美味しいよね、なんてトンチンカンな言葉を返した。
彼女

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宇多田ヒカルが登場した頃

2000年生まれの私の妹は誕生してもいなかったのか。びっくりした、自分としてはアンモナイト発掘するくらいの心持ちで記憶を手繰り寄せるつもりだったのに、昨日のことのように思い出せるんだ。比喩じゃなくてマジで。

宇多田ヒカルってコがすごいんだよ!って近所のお姉ちゃんが叫んでいた頃、私は幼稚園児だったかな。へえ~って返した気がする。それよりキティのクレヨンと落書き帳を早くちょうだいよ、って。

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まめに連絡しないんだよね、と言っていた君と週に何度もやり取りするのが自然になって、通知が届くたびに寿命が延びていた。スーパームーンが雲隠れして、距離があいて、LINEのお気に入りの欄から消しました、そっと。私はきっと短命だって、小学生のときから知っていたんだ。

#短文 #恋

‪端的に言って、苦しい。どんな慰めも枯れるほど、好きならそうだと言いたいし会いたい。相手の相手とか、愛人という響きとか、どうでもいい。真横で煙草を手渡されるのも、向かいでコーヒーを飲むのも、最高で最低だった。‬想い出ばかりじゃ弱くなる。今、会いたい

気持ちが沈んでいるとき

出来立てのコロッケパンを頬張るためには手袋を外さなきゃいけないじゃないかと文句垂れて、満月を黒いクレヨンで塗りつぶしたいとき、っていうよりはもっと煩雑で、けれども深遠な流し目が似合うあの人ほど大人びた表情にもなれない、もどかしさだけが純粋な、そんな黄昏時っていうのは、TUTAYAで全く知らないCDを引き当てて帰る微笑の喜びでは足りないし、睡眠薬も、なんか悲しい。
複雑骨折での過剰な親切も得ら

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甘えたい。マグニチュード6の地震が起きたと思ったら自分の体が震えていただけだった。脳味噌が心臓に化けたみたいにドクドク血が巡る。ドロドロとサラサラの中間のお粥を半分未満口にして、あとはそっと目を閉じて眠りたい。大丈夫?と聞かれたら、大丈夫じゃないと掠れ声で言って困らせたい。

母の誕生日に

義務感で輝く星々を真下に携えて、電車は空を駆る。慌ただしく、一度落とせばもう手にできないことを知っているから、落し物のマフラーが地上に着くより早く、だれかがスコーピオンを矢で射る。
麗しい瞳の女性は、裏メニューにもない誕生日ケーキを待ち望む。知っている、知っていたけれど、それがどうしたっていうんだ。お母さん誕生日おめでとう、なんて吐いてたまるか。永遠に敗北を期待する人の瞳孔は、迫り上がるイルカの背

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日本橋

日本橋

大塚愛のさくらんぼを従姉妹の母の車内でガンガン聴いていた小学生の頃、さくらんぼと言えば決まって二つで一つだったし、一個や三個以上のさくらんぼは怪奇現象としてイメージされることすらなかった。

私の半歩前を歩くこの人は、私がムシキングでレアカードが出ずにふくれっ面をしてその車内に揺られていたのと同じ時代には既に、ゴルフを嗜みビールはギネスで六本木や日本橋を庭としていた。

その方というのはバイト先の

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ジャズも小田急線もわからないけれど、木製の本棚の薫りとココナッツ・ミルクの美味しさにとろける。ここ良かったよと何でもないことのように言葉にして、相手が思わず行ってくれたら嬉しい。

ポテトサラダが好きで、居酒屋では決まってポテトサラダを頼む。ないと、そっと凹む。
じゃがりこに湯を注いで混ぜただけのポテトサラダがめちゃくちゃ美味しい。こんな食べ物は一人暮らし特権。さつまりこと明太子とサラダ味は絶品。

『桐島、部活やめるってよ』

ゾンビ映画を観ながら編み物するのが好きなんだ、と私の好きな人が揚々と告げたとき、当然のごとく盛大なクエスチョンマークが浮かんだ。ゾンビ映画は未知の領域すぎて、私は何も言えなかった。数秒の沈黙の後、それは面白い画だねとツッコんだくらいでしかなかった。
ロメロの名も知らなかったし、彼女が薦めるゾンビ映画の名ももちろん知らなかった。普段利用するGEOでゾンビ映画コーナーが用意されていることに驚きつ

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どこかいつか私の知り得ないところで、大切に想う相手が何らかの重大な決定をしたらしいと悟るとき、自身の予感を恨むと共に、精神がすっかり渇いて、血を貪って飲んだ虚無感だけが覆ってくる。苦しいと呟くことも叶わない。

教えてくれた喫茶店が最高だったよと告げるだけの隙もなく、冬休みと春休みに挟まれた試験期間を駆け抜けていくことは、五千本もバラが咲く惑星でぼくだけのバラを見つけ出すほど途方に暮れる話だよ。そして結局、王子さまはそこにバラを見出せないんだ。

#星の王子さま

りんごは赤いというけれど、皮を剥いたらそんな初々しさは消えるじゃないですか。だったら私はスイカですよ。深遠な緑を装っておいて、中身は真っ赤だ、熟して燃えたっている。そして所々厄介な種がある。無理に噛み砕こうものならダイヤモンドの歯を痛めますよ