気持ちが沈んでいるとき

出来立てのコロッケパンを頬張るためには手袋を外さなきゃいけないじゃないかと文句垂れて、満月を黒いクレヨンで塗りつぶしたいとき、っていうよりはもっと煩雑で、けれども深遠な流し目が似合うあの人ほど大人びた表情にもなれない、もどかしさだけが純粋な、そんな黄昏時っていうのは、TUTAYAで全く知らないCDを引き当てて帰る微笑の喜びでは足りないし、睡眠薬も、なんか悲しい。
複雑骨折での過剰な親切も得られない、好きな人の血も吸えない、ゾンビじみた大人の群れが東京を闊歩するのを、富士山が見える高層ビルで見下ろしながらも、決して優越感には浸れない。
強烈な風邪薬を流し込んだら、咳が収まった。美味いものを食ってたくさん寝ろという古代遺跡たる助言の通り、贅沢を試みる。そうはいっても体が従順すぎるのもまた心がそわそわし出すし、私の天秤はとっくに砕けている。
感情にも感覚にも正義はないと知ってなお、頭が溶けずに居座って、苦しいんだ。それならせめて、幽霊屋敷のベッドではなく真夏のビーチで眠りたい。

#エッセイ #詩

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