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日記

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あの渚が遠い

あの渚が遠い

刺し違えてでも殺してやりたい過去があるから、生傷の絶えない体に染みるぬるい風。遺影みたいな選挙ポスター、自販機の横に貼られた怪しい広告、ジャンプの新刊で取り戻す曜日感覚、文末にかけて次第に失速する詩。こんなに暑いと煙草も不味くて困る、そんなぼやきも解体現場の騒音に掻き消されて、確かにその時、私は安心したのだ。塗り潰して、重ね書きして。見たくないものの方が明らかに多いから。

サマーソニックの投稿ば

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宛らあなたは

宛らあなたは

想像する。
惰性で流れるシネアドが終わり、場内の照明が全て消えて、疎らに聞こえていた会話が静まるあの一瞬。
想像する。
ケーキに刺さっている蝋燭の火を一気に吹き消して、誰もがそれを固唾を呑んで見守るあの一瞬。
想像する。
台風が来る前の不穏な空気と、それに比例するように増していく高揚感。消灯時間で真っ暗になる夜行バス。朝日が昇る前の一番濃い夜空。機材チェックが終わって静寂に包まれるライブハウス。

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東京メトロ

東京メトロ

目をつぶった時まぶたの裏側に映るのは、ノーブレーキで赤信号に突っ込んで大破する車とか、屋上からダイブして段々と迫ってくるコンクリートだとか、何かに衝突して命が途絶える瞬間で、視界が突然真っ暗になっては、また再生される。そんな時もあれば、無限に膨張していく暗闇の中で、視覚も聴覚も奪われて、置き去りにされていくような感覚になることもある。その暗闇の中で、私自身が本来許容しえなかった怒りや悲しみ、寂しさ

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2022

2022

嵐はいつか過ぎ去る。そりゃそうだよ実際過ぎていった。
でもその余波が収まらないうちにまた次の嵐がきて、僅かな晴れ間、濡れた体を乾かす暇もなくまた雨に打たれる。泥濘んだ足場では飛べやしないし走れもしない。それでもぎりぎり身動きは出来てしまえる。息を切らしていないと不安だった。そんな風だった、2021。ようやく終わったという安心感と、もう終わってしまったという焦燥感。みなさんはどれくらいの割合ですか。

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冬の匂いがする

冬の匂いがする

日が沈むのが早くなると、夜が長くなって嬉しい。と言うより、自分の中での感覚的な夜の滞在時間と、実際の夜とのギャップが少なくなるから嬉しい、の方が若干正しいかもしれない。そしてそれと同じ理由で、私は冬の冷たさが好きだ。まだちょっとだけ、息が白くなるには足りないけれど。

こんばんは、四月です。
最近の私は、帰宅早々に電気も消さないまま気絶するように眠り、夜中や明け方に目が覚めては、タイトルもつかない

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画角から溢れたハッピーエンド

画角から溢れたハッピーエンド

言葉にできないことばかりだけど、確かに今、言葉にしなきゃいけないことがあるのもまた事実で、こういう時人はどうあるべきなのだろう、と、いつも考えている。欲しいのは正しさじゃない、最適解でもない、ただ僕の気持ちが、心が、目の前のあなたになるべくそのまま届いてほしいだけなのに、それが随分と遠い。遠いから、それに酷似した質感の温もりへと強引に持っていくために、黙って抱きしめるしかなくなる。言わば強硬策、言

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十七歳、そして日は沈む

十七歳、そして日は沈む

ウォークマンから流れる音楽が全てだった、自転車で行ける半径が世界そのものだった、あの頃に戻りたいなんて思ったこと、今まで一度だってない。ずっと居場所はここじゃなかった。どこに行っても腑に落ちない。どうせ失くすなら、せめて納得できる失くし方を。そういう風に生きてきたはずなのに、今更失ったものの所在が気になる。退屈が理由で飛び出してから、もうそれが癖になってしまっている。幸せも、不幸せも、全部を並列に

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告白、酷薄

告白、酷薄

私は夜明け頃、一瞬青くなる街が好きだ。古びたコインランドリーの少しカビっぽい匂いが好きだ。昔からある中華屋のよく分からないフィギュアとか好きだし、透明のビニール傘についた水滴も好きだ。お酒なら緑茶割りが、煙草ならハイライトが好きだ。冬の海が好きだ。物語の後書きが好きだ。紙を捲る時の感触が好きだ。タクシーのラジオで流れる、平成初期を感じるJ-POPが好きだ。

古本屋で買った本の、誰かの落書きが好き

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何となく死なないために、何となく生きる

何となく死なないために、何となく生きる

歌って、騒いで、飲んで、語って、ちょっとだけ泣いて、そうしてあまり眠れなくて、重たい瞼にも午後の日差しは容赦がない。今日の昼間は気温が三十三度まで上がった。蝉が鳴いていた。二十二歳になってもやっぱり夏は嫌いだった。

私は夏生まれだと話すと、それっぽいねと良く言われる。
かに座の人は、自分の殻の中に入れた人は絶対に守ろうとする人なんだと、友人が教えてくれた。私は占いの類いはほとんど信じないタイプの

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愛しい日々から

愛しい日々から

痛みの中でしか、事実を正しく認識できない
瞼は重いのに、思考は澄んでいて、こういう時に限って、人知れず死んでいくだけの悲しみに思いを馳せてしまう。

痛みの中でしか、自分の視界を信じられない
大切なものや人が増える度に、いつかそれを見殺しにしなければいけない自分を想像する。
この手に抱えきれないくらいの幸福、
身に余るくらいの愛情、
身の程以上を望むのは愚かだと知っていながら、それでも愛おしい気持

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幸福論

幸福論

記憶のあちこちに虫食いができていて、そこから潮風が入り込むから、錆び付いてしまっている。あなたと一緒に行った近所のCDショップの、試聴機で聴いたあの曲、なんて曲だったっけ。学校をサボって見たあの映画の結末はどんなだっけ。ジュースを賭けた線香花火、勝ったのはどっちだっけ。錆び付いているから、思い出せないでいる。

自分で自分なりに定義した言葉、感情、事実を、想定外の角度で覆してくれる何かを、ずっと探

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或る深夜

或る深夜

深夜タクシーの料金メーターが繰り上がる度に、朝が近付いていること、逃げられないこと、酩酊の中で考えていた。吐き気と浮遊感、だけど思考だけは澄んでいる。右手に握っていた500mlの空き缶を握ると、夜が潰れるような音がした。誰かに噛み付かれたみたいな三日月。夜風が冷たいと、何となく嬉しい。冬の寒さは誰にも媚びない寒さだから、私は冬が好きだ。

ハッシュタグで本当に繋がりたい人と繋がれる人などいるだろう

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ノストラダムスの大予言が的中すれば、私は生まれないはずだった

ノストラダムスの大予言が的中すれば、私は生まれないはずだった

ノストラダムスの大予言によれば、1999年の7月に、恐怖の大王とやらが世界を滅ぼしてくれるはずだったのに、その予言は話題性や期待値だけを膨らませ、その全てを台無しにして呆気なく外れた。そしてコロナで始まった2020年が終わり、2021年が始まってしまった。私は今年で、22歳になってしまう。

会いたかった人に会えなかった
行きたかった場所に行けなかった
約束が叶えられなかった
たくさんの不完全燃焼

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コインランドリーと春

コインランドリーと春

昔よく使っていたコインランドリーで、たまに鉢合わせる髪の長い女性のことをたまに思い出す。

彼女は黒の服を好んでよく着ていて、病的なほど白い肌とのコントラストが特徴的で、そして耳には補聴器を付けていた。
彼女とは、会うと軽く会釈をするくらいの仲で、それ以下でもそれ以上でもない。
その日も、私が備え付けられた椅子に座ってスマホを触っていると彼女が現れて、数秒私と目が合うと、少し微笑みながら頭を下げて

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