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中編

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少し長めの怪談です。
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#不思議な話

しんこう住宅

しんこう住宅

私は今部屋の内見に来ている。
この春から気持ち新たに生活を始めようと思い立ち、親しんだ地元を出、遠く離れた所に居を構えようと思ったのだ。

「はー、和室があるんですね」
「そうですね、日当たりも良いですし、ここで瞑想される方も多いそうですよ」
「なるほど。心が整いそうですね」
「ちなみにこの部屋は1階なのもあって、自家菜園される方もいらっしゃいます」
「自家菜園! へぇ、そういう利点もあるんですか

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神のシュトーレン

神のシュトーレン

※作中に一部差別用語が使用されておりますが、そういった意図は一切ありません。
世界より差別と貧困、虐めや戦争が無くなる事を祈って
※また、クリスマスを楽しんでしまった為、第七夜(最終話)は明日更新します🎄
皆さんメリークリスマス🎄🎅✨🎁🦌

第一夜【始まり】

 その男はかくも不憫なる人生を送っていた。
 学友恩師共に恵まれず、高校を出る事も叶わなかった。些細な食い違い嫉妬意味の無い苛め

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その息遣いを私は覚えている【後編】

その息遣いを私は覚えている【後編】

「何してんの!!!」
 言葉を聞き終わる前に襟が私の首をキュッと締め、更に後方へと引っ張る力によって体が持ち上がり、勢いそのまま今し方すり抜けて来た柵にぶつかった。
 私の行動を口汚く罵りながら消えていく車と、それに対して似たような罵声を浴びせる人影が、痛みに耐える私の面前にあった。
「ちょっと大丈夫!? あいつ全然前見てなかったしさ、ほんとじじぃはクソばっかだよ、まじで。次会ったらバンパー凹ませ

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その息遣いを私は覚えている【中編】

その息遣いを私は覚えている【中編】

 まともに見れた物では無かった。
 いや、例えまともだったとしても多種多様な花に彩られ、毎日欠かさず見ていた寝顔と何ら変わらない穏やかな顔をしているリクを、どうして私が面と向かって虹の橋へと送り出す事が出来るだろうか。
 どうにか直してくれたのだと言う。今見えている顔の反対は、飛ばされてコンクリートの上を滑ったせいでとても見られたものではなかった。
 様々な手続きが終わり、家に戻ってお気に入りの玩

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その息遣いを私は覚えている【前編】

その息遣いを私は覚えている【前編】

ハッハッハッハッ…

 枕元で聞こえる荒い息遣いが私の眠りを妨げる。
 頭だけ動かして見ようとしても、そこには暗闇が広がるだけで何もいない。
 1度母と一緒に寝て貰った事があったが、母には何も見えていないし聞こえてもいないようだった。無論、私にも姿は見えてはいない。幻聴だと思い込もうとしても、余りにはっきりとしたその音が私の心を大きく揺さぶり、震わせる。
 聞こえなくなる様にと布団を頭から被ると、

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固くもなく柔らかくもない「何か」【オカルト】

固くもなく柔らかくもない「何か」【オカルト】

夕暮れ。まだ夏の装いから衣替え途中の山々が、熱くも冷たい風を運んでくるくらいの時節だった。
その日は週末で仕事も終わり、近所の子供達が遊ぶのを眺めながら一人のんびりハイボールを呑んでいた。
毎週ではないが、こうやって一人で呑むのが楽しみでもあり、逆に言えばそれくらいしか楽しみが無いとも言える。ただ、季節の移ろいを肌で感じられるのは、この上ない幸せだった。

子供達がサッカーをしていて、確か5年生く

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揺れ【オカルト】

揺れ【オカルト】

私の実家は九州のとある山岳地帯に位置し、庭からは近隣の(と言ってもそこそこに離れてはいる)点々と存在する民家を一望出来る。かなりの田舎故にコンビニは勿論、インフラも整っていない。以前は二時間に一本あったバスも不況の影響を受けて更に減便、車頼りの生活が加速していた。然しながら年寄りが多い為、公共交通機関が無くなる事は本当に死活問題だった。

そんな私の実家で起きた不思議な体験だ。

実家はかれこれ築

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