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輪廻の風 第1章

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#眠れない夜に

輪廻の風 (25)

ラーミアとダルマインは一足先にインダス艦に乗船していた。

ラーミアが急いで操縦室に向かいドアを開けると、そこにはダルマインがいた。

「ねえ、エンディはどこにいるの?」

「エンディはいねえよ。あいつらに喧嘩売って生きて帰れるわけねえだろ?」

ダルマインはそそくさと出航の準備を整え、船は動き出した。

「まさかだましたの!?ミルドニアにはあなたの部下だってまだ残ってるんでしょ!?」

「うるせ

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輪廻の風 (15)

エンディが漂着した名も無き孤島は獰猛な獣が蔓延る密林地帯だった。
猛毒を宿す爬虫類や植物も数多く存在し、危険すぎて人間などほとんど寄り付かない。

そんな四面楚歌の"死の森"で金髪の少年は暮らしている。

密林のほぼ中心とも言える場所で、大木の上に木造の家屋を造り生活しているのだ。

驚くことに、広さ7畳ほどのその部屋には、物が何も置かれていないのだ。

部屋の真ん中で眠るエンディを、金髪の少年は

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輪廻の風 (10)

あたりは静まり返った。

一連の騒動を見ていた者、街を荒らしながらラーミアを探す兵隊たち、兵隊たちに立ち向かって返り討ちにあった者、兵隊たちから逃げ回っていた者、その場にいた全ての人間の視線がエンディに向けられた。

「エンディ、お前まだこの街にいたのか」

パウロがそう言うと、エンディは近くにいた漁師の男に、パウロを連れて遠くへ逃げるように促した。

漁師の男は一瞬、挙動不審になりながらも、すぐ

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輪廻の風 (9)

「何だあの黒船は!?」

窓際に座っていた客の男が、外を見ながらそう叫んだ。

するとラーミアは突然立ち上がり、窓際まで走った。窓から黒船を確認すると、ひどく怯えた様子だった。

エンディは急いで、ラーミアの元へ駆け寄った。エンディに続いて他の客も、店員さえも、外の様子を見ていた。

どうやらあの大きな音の正体は、黒船の汽笛のようだ。

「あれは、インダス艦じゃねえか。」

この店の名物の1つであ

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輪廻の風 (8)

「ディルゼンてどんなところ?やっぱ王都ってだけあって大都会なんだろうな〜」

「綺麗なところよ、バレラルクきっての観光都市だからね。田舎に比べると自然は少ないけど、有名な建築家が手がけた美しい建造物が街中にあるの。古代遺跡なんかもね。ただ…」

「ただ?」

「戦勝国とは言っても、つい四年前まで戦争をやっていたから、まだまだ経済が不安定で飢えに苦しむ人や失業者がたくさんいるの。年々少なくはなってい

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輪廻の風 (7)

「そう、大変だったんだね」

ラーミアは悲しげな表情を浮かべながらそう言った。

「あ、ごめん急にこんな話して。反応に困るよね。」

「ううん、大丈夫だよ、謝らないで」

エンディはハッと我に帰り取り乱した。

初対面の、それもついさっきまで療養していた女の子に、なんて重い話をしてしまったんだろうと思い、途端に恥ずかしくなった。

「ラーミアはどうして1人であんな小さい船に乗ってたの?」

早く話

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輪廻の風 (6)

4年前の夏の夜、その日はひどい嵐だった。

冷たい雨に打たれながら、エンディは意識を取り戻した。

「エンディ!おい起きろエンディ!」

目を開けると、かすれた声でそう叫びながら、自分の体を強く揺さぶっている男の存在に気がついた。

どうやら海辺の砂浜で倒れているようだった。
その時自分は眠っていたのか、それとも気を失っていたのか、エンディは今でも分からない。

そしてどういう訳か、全身がひどく痺

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輪廻の風 (5)

翌朝。
時刻は午前7時をまわった。

少女は目を覚ましすと、ゆっくりと体を起こし、あたりをキョロキョロと見渡した。
ここはどこだろうか、病院なのか?

昨日の少年がここに連れてきてくれたのか。
自分の置かれている状況を何となく理解すると、部屋を出た。

すると、昨夜自分を助けてくれた少年が、待合席の長椅子でいびきをかきながら仰向けになって爆睡していた。

あまりにも気持ち良さそうに眠っている姿に、

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輪廻の風 (4)

エンディは、なぜ自分が泣いているのか分からなかった。

少女と目があった瞬間、稲妻に打たれたような衝撃が全身に走った。

歓喜とか、感動とか、そんな言葉ひとつでは表現しえない感情だった。

心が打ち震え、鳥肌が止まらなかった。 

少女は、目の前で号泣しているエンディを見上げ、ポカーンとしていた。

そして、少女は再び、そっと目を閉じた。

「あ!」
やばい、また気絶してしまった、いや、もしかした

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輪廻の風 (1)

エンディは飛び起きた。

あまりにも奇妙な夢を見たからだ。
目が覚めると、自分の脂汗の量と息の荒さに驚いた。

宿泊先の小さなホテルを後にし、街に出る。

ボロくて殺風景な部屋だったが、久しぶりに雨風を凌げて屋根のある場所で一夜を過ごせたことにありがたみを感じながら歩き出した。

天気が良く、風が気持ちいい。
昼過ぎまで寝ていたのをもったいなく感じた。

ここは大国、バレラルク王国の端っこにある、

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