輪廻の風 (6)


4年前の夏の夜、その日はひどい嵐だった。

冷たい雨に打たれながら、エンディは意識を取り戻した。

「エンディ!おい起きろエンディ!」

目を開けると、かすれた声でそう叫びながら、自分の体を強く揺さぶっている男の存在に気がついた。

どうやら海辺の砂浜で倒れているようだった。
その時自分は眠っていたのか、それとも気を失っていたのか、エンディは今でも分からない。

そしてどういう訳か、全身がひどく痺れていて身動きが取れず、言葉を発することもままならない状態だった。

「気がついたか!良かった!」
目の前の男は、とても喜んでいる様子だった。
その男は丈の長い真っ黒な服を着ていて、フードを深く被っていた。

そのせいか、真夜中だからか、顔が全く見えなかった。

しかし男の声色と、チラッと見えた手の甲のシワから察するに、おそらく老人ではないかと、朦朧とする意識の中、エンディは考えていた。

「誰…?ここは…俺は…」
やっとの思いで、精一杯言葉を発した。
今にも消え入りそうな、か細い声だった。

エンディとは自分のことなのか、目の前の男は誰なのか、自分の今置かれている状況、自分は何者で、今まで何をしていたのか、何も分からない。

何もかもが謎で不可解、気が狂いそうだった。

「エンディ、お前…」

悲しそうな声で男は言った。

しばらく下を向いて黙りこくった後、なんとエンディを置いてそのまま立ち去ってしまった。

自分のことなんて誰も気に留めない。

いくら叫んでも、自分の声は誰にも届かない。
そんな激しい豪雨の中、エンディは1人、取り残されてしまった。

エンディはゆっくりと説明した。
この4年間、住む家もなく、頼れる人も誰1人いない、ずっと一人ぼっちで放浪していたことも話した。

ラーミアは時折深く頷き、静かに話を聞いていた。

誰かに自分の事情を話すのは初めてだったためか、エンディは話している途中で感極まって泣いてしまいそうなのをグッと堪えた。

しかし全て話し終えると、初めて誰かに本音を話せた気がして、不思議と清々しい気持ちになった。

何より、自分の話を聞いてくれたのがとても嬉しかった。


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