輪廻の風 (25)


ラーミアとダルマインは一足先にインダス艦に乗船していた。

ラーミアが急いで操縦室に向かいドアを開けると、そこにはダルマインがいた。

「ねえ、エンディはどこにいるの?」

「エンディはいねえよ。あいつらに喧嘩売って生きて帰れるわけねえだろ?」

ダルマインはそそくさと出航の準備を整え、船は動き出した。

「まさかだましたの!?ミルドニアにはあなたの部下だってまだ残ってるんでしょ!?」

「うるせえなあ、こっちだって必死なんだよ!これからはバレラルクからも旧ドアル軍からも追われる身になるんだぜ?まあ、お前を人質にとったから心配はねえけどな!ギャーハッハッハッハ!」

下品な高笑いをするダルマインに、ラーミアは冷ややかな視線を向けた。

「あなたって最低な人間ね。」

「最低で結構。オレは超絶卑劣生命体だぜ!?」

ラーミアは操縦室を出て甲板に出た。
遠ざかっていくミルドニアを見つめながら、エンディの身を案じた。


エンディはその頃、アズバールに冷酷な視線を向けられて縮み上がっていた。

無意識に後ずさりした自分に気づき、恥ずかしい気持ちになっていた。

「おいギルド、さっき下が騒がしかったが何が起こったんだ?」

「ブタ共が脱走して襲撃してきたんだ。そんなことより…ラーミアが死んだ…。」

ギルドの言葉にエンディは戦慄した。

「この襲撃はダルマインが主犯だったんだ。ラーミアを奪還したあの野郎をジャクソン達が追い詰めたら…その…ラーミア抱えたまま飛び降りたらしくて…。」

「死体の確認はしたのか?」
アズバールは冷静だった。

「いや、それはまだ…。」

「すぐに誰か確認に向かわせろ。ジャクソンは何してんだ?」

「ジャクソンたちは悪魔…金髪のガキにやられて気絶しちまってるよ…。」
ギルドは気の小ささがあからまさに露呈する程おどおどしていた。

「おいちょっと待てよお前ら、ラーミアが死んだって?適当なこと言ってんじゃねえぞ!」
頭に血がのぼったエンディが2人に向かって走り出そうとした瞬間、地面から先端が鋭利な木のツルが勢いよく伸びてきてエンディの胸部を貫いた。

「うるせえガキだな。」
アズバールがそう言うと、エンディを貫いた木のツルは縮んでいき、生えてきた地面へと戻っていった。

そして別の箇所から新しい木のツルが生えてきた。
新しいツルはエンディの首に巻きつき、エンディの体を持ち上げた。

エンディは何が起こったのか分からず混乱していた。
そして出血多量で意識がどんどん遠のいていった。

「てめえバレラルクの回し者か?」
アズバールの質問に答える体力はなさそうだった。

「クックックッ、まあいい。今楽にしてやるよ。」
アズバールがエンディに近づこうとした瞬間、ジェシカが横から飛び出してきた。

ジェシカは短剣でエンディの首に巻きついている木のツルを切り裂き、エンディを抱えて逃げようとした。

しかし、出口は木で覆われて塞がれてしまっていた。

「おいギルド、なんだあの小娘は?」

「あ、あいつはジェシカだ!ノヴァファミリーの幹部だよ!」

ジェシカはひどく焦燥している。

「おいジェシカ!お前何してんだ?その小僧はノヴァファミリーの新入りか!?」
ギルドが聞いた。

「ギルド総帥、今回の暴動に私たちは無関係よ!だから見逃してくれる?」

「無関係かどうか判断するのはお前じゃねえ、この俺だ!反逆罪は死罪に値する。当然、ミルドニアの住人じゃねえお前も例外じゃねえ。」

ジェシカはどうすればこの状況を切り抜けることができるのか、考えれば考えるほどパニックに陥りそうだった。

「疑わしきは殺す。それが俺のやり方だ。」
アズバールは恐ろしい顔で囁いた。

すると突如、上空に小型の飛行艇が現れた。

「あれは!」
飛行艇を見たジェシカは歓喜にも似た声色で叫んだ。

飛行艇は庭園にゆっくりと降下してきた。
「ジェシカさん!早く!」

中には密漁船に戻っていたはずの、ジェシカの部下が4人乗っていた。

ジェシカはエンディを抱えたまま、急いで乗り込もうとした。

「逃げられると思ってるのか?」
押し殺したような声でアズバールは言った。

すると、庭園に生い茂っている無数の木々が、まるで蛇のようにクネクネと動き出した。
そして、恐るべき速度で飛行艇に向かって伸びていった。

飛行艇に乗ってる4人もジェシカも絶望していた。エンディは完全に気を失っている。

しかし驚いたことに、飛行艇に届く後一歩手前というところで伸びた樹木が燃え出し、瞬時に灰と化した。

突然の出来事に、アズバールは一瞬思考が停止した。

今度は庭園の全ての木々が燃え出した。
庭園だけではない、塔の46階から50階フロアが突如、炎に包まれた。

「ぎゃー!なんだこれ!なんで!?」
ギルドは悲鳴を上げ、ひどく取り乱していた。

「え、何これ。どういう状況?」
ジェシカは落ち着かない様子でつぶやいた。

「今のうちに乗れよ。」
突然あらわれたカインがジェシカに言った。

「カイン?あなた今までどこにいたの?どうやってここまできたの?」

ジェシカは塞がれているはずの出口に視線を向けた。すると、出口を塞いでいた樹木は燃えカスと化していた。

「なにこれ、あなたが火をつけたの?」

「さあ?俺は何もしてねえよ。」
カインはクスリと笑いながら言った。

そして、3人は再び降下してきた飛行艇に乗り込んだ。

「あー!アズバール、あいつだ!あの金髪がジャクソン達をやったんだ!!」
ギルドはカインを指差し叫んだ。

アズバールはカインに視線を向けると、カインの方も自分に視線を向けているのに気が付き、2人は目が合った。

カインはアズバールに向かって皮肉な笑みを浮かべた。

それを見たアズバールは、血走った目で恐ろしい顔をしていた。

小型飛行艇は燃え盛る塔を尻目に、空へと消えていった。

その頃ラーミアは甲板に出て月を見ていた。
「エンディ、生きてるよね。」
そうつぶやいた直後、飛行艇がこちらに向かってくるのに気がついた。

ダルマインは慌てて操縦室から出てきた。

「ちくしょう!もう追手が来やがったか!…ん?あんな乗り物、ミルドニアにあったっけ?」

飛行艇はインダス艦の甲板に離陸してすぐ、カイン以外の全員が一斉に降りてきた。

「あなたダルマインね?早く医療キットを持ってきて!ひどい怪我なの!」
ジェシカは慌てふためいていた。

「エンディ!!」
ラーミアは叫んだ。エンディが生きていることに心の底から安堵した。

「まじかよ、よく逃げてこれたな…。でもこれはもう助からねえな。これだけ血を流してるんだ、そのうち死ぬぜ?」

「大丈夫、まだ息があるなら助けることが出来る。」
ラーミアは毅然とした態度でそう言うと、エンディの前まで歩き、両膝をついた。

「こんなところで死なねえよな?エンディ。」
飛行艇の中から様子を見ていたカインは、冷や汗をかきながら呟いた。















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?