輪廻の風 (15)

エンディが漂着した名も無き孤島は獰猛な獣が蔓延る密林地帯だった。
猛毒を宿す爬虫類や植物も数多く存在し、危険すぎて人間などほとんど寄り付かない。

そんな四面楚歌の"死の森"で金髪の少年は暮らしている。

密林のほぼ中心とも言える場所で、大木の上に木造の家屋を造り生活しているのだ。

驚くことに、広さ7畳ほどのその部屋には、物が何も置かれていないのだ。

部屋の真ん中で眠るエンディを、金髪の少年は隅っこに座り込みながら注視している。

「うおっ!!」

金髪の少年は突然大声をあげて飛び起きたエンディを見て震撼した。

「ん?ここはどこだ?」

「ようエンディ、久しぶりだな。」

「え?」

「オレを殺しにきたんだろ?いつかこんな日が来る事は分かっていた、覚悟はできてる。」

神妙な面持ちで構える金髪の少年に、エンディは急いで詰め寄ると、即座に右手を差し伸べた。

「お前が助けてくれたのか?ありがとう!」

「…は?」

屈託のない笑顔で礼を言われ、握手を求められた。あまりにも予想外の展開に、金髪の少年は思わず取り乱してしまった。

「なんで礼なんか言うんだよ?俺は…お前に…」

「何言ってんださっきから?それよりどうして俺の名前を知ってるんだよ?」

こいつ、まさか記憶を失っているのか?
金髪の少年の鋭い洞察力が的中した。

「いや、寝言で言ってたぞ。俺はエンディだーってな。」

「なんだよそれ、恥ずかしいな。俺エンディ、よろしくな。お前名前は?」

「…カインだ。」

俯きながら小声で言った。そしてゆっくり自身の右手を挙げ、ようやく2人は握手をした。

なんて綺麗な男なんだ、とエンディは思った。
サラサラと艶のある綺麗な金髪、ラーミア顔負けの白い肌に長いまつ毛、整った目鼻立ち。驚くほど美少年だった。

その眼はどこか寂しげで、自分と似た匂いを感じた。
しかしその瞳の奥からは、底の知れない"何か"を感じた。

「ありがとうなカイン、何か礼をしたいけど、俺もう行かなきゃ。」

そう言ってエンディは外に出た。
自分がこんな高い所にいたことにびっくりして、危うく足を滑らせる所だった。

下を見ると、アナコンダが絞め殺した牛を丸呑みしていた。

「おい、行くってどこに?」

エンディはカインに事の経緯を簡潔に話した。

「…なぜ、昨日今日会った女のためにそこまで?」
カインは心底不思議そうだった。

「自分でもよくわからないんだ、でもどうしても助けたい。助けなきゃいけない気がするんだ。」
エンディは固く決意していた。

こいつは相変わらずお人好しだな、とカインは心の中で呟き鼻で笑った。

「助けるって、どうやって?」

「それは…これから考える!」

自信満々に答えるエンディを見て、カインは呆れた様子でため息をついた。

「何か手がかりはないのか?」

「うーん、確かあの黒船、インダス艦とか言われてたんだよな。旧ドアル軍とか…。」

「…なるほどな。亡霊どもが動き出したか。」

「亡霊??」

「この島に人間は俺しか住んでいないが、たまに大陸のマフィアどもが密猟目的で来るんだよ。奴らはたしか、旧ドアル軍と武器の取引をしている。そいつらの船に忍び込めば、その女のもとにたどり着けるんじゃねえか?」

「なるほど、それは名案だな!ところで密猟って?」

「野生動物のキバやツノ、特に毛皮は高く売れるからな。肉は獣臭くて食えたもんじゃないが、貧民層には人気らしい。」

「なんだよそれ、ひでえな。」
エンディの表情は曇った。

「ひどい?お前だって肉くらい食うだろ?」
嘲笑うようにカインは言った。
エンディは何も言い返せない。

「なあ、お前こんなとこでずっと1人で、寂しくないのか?」

「…別に、快適だし気に入ってるよ。それより見ろよ、噂をすればなんとやらだ。」

大木の上から遠くを見ると、一隻の船が島のすぐ近くに停泊している。
海面は夕焼けで赤く染まっていた。

「奴らだ。島に入ってこないってことは、今日は魚介類の密猟だな。あれに乗ればラーミアってのに会えるかもしれねえぜ?」

「え、あれが!?じゃあ急がなきゃ、こうしちゃいられねえ!色々教えてくれてありがとなカイン!また今度遊びくるよ!」

「ああ、気をつけてな。」

心なしか、カインの表情が寂しそうに見えた。何もない部屋に戻ろうとする哀愁漂うカインの後ろ姿に、エンディは後ろ髪が引かれる思いだった。

「孤独って、痛いよなあ。」

「は?」

エンディの唐突な発言に、カインは思わず振り返った。

「お前も一緒に来いよ、カイン。」

「え?」

笑顔でそう言われ、カインは動揺してしまった。

「俺たちもう、友達だろ?」

暖かくて優しい風が吹いた気がした。

その風は、カインをとても懐かしい気持ちにさせた。

「まあ、暇だしな。付き合ってやるか」
カインは後頭部をボリボリかきながら、満更でもなさそうな様子だった。

2人は下に降りて、走り出した。












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