輪廻の風 (8)


「ディルゼンてどんなところ?やっぱ王都ってだけあって大都会なんだろうな〜」

「綺麗なところよ、バレラルクきっての観光都市だからね。田舎に比べると自然は少ないけど、有名な建築家が手がけた美しい建造物が街中にあるの。古代遺跡なんかもね。ただ…」

「ただ?」

「戦勝国とは言っても、つい四年前まで戦争をやっていたから、まだまだ経済が不安定で飢えに苦しむ人や失業者がたくさんいるの。年々少なくはなっているんだけど…。治安もあんまり良くないし」

「そうなんだ」

エンディはディルゼンに行くのが楽しみだったが、ラーミアからそう聞くと、少し身が引き締まる思いに駆られた。

ラーミアが言うには、王都ディルゼンの領土はムルア大陸の5分の1を占めるほど広大らしい。

現在いる街から1時間ほど歩けば、隣町から汽車に乗ることができる。30分ほど汽車に乗れば、ディルゼンには着くという。

しかし、そこからさらにラーミアの職場である王宮までは500kmほど離れているのだ。

道中、保安隊やラーミアの捜索隊に遭遇し保護されればスムーズに事が運ぶが、目的地である王宮や城下町に着くまでには気が遠くなるほど時間がかかる。

しかしエンディはラーミアと長い時間一緒にいれることに浮き足立っていた。

その一方で、王都で何か自分の記憶の手がかりを見つけられるかもしれないと思うと、期待と不安が入り混じり、落ち着きのない様子でもあった。

ラーミアのお腹がぐ〜と鳴った。

「ごめんね、昨日から何も食べてなくて。出発する前に何か食べて行かない?」

顔をポッと赤らめながら言った。

「そうだよね、お腹すいてるよね。」

自分はなんて気の利かない男なんだろうと焦りながら、たまたま目にとまったお店に急いで入った。

あまり大きなお店ではないが、少し小洒落た雰囲気で、まだお昼前だというのにワインを飲んでいる成金ぽい見た目の男女がちらほらいる。パスタとピザが人気のお店らしい。

せっかくなら海がよく見える窓際の席が良かったが、2人は窓際からだいぶ離れた席に案内された。

エンディは魚介の旨味たっぷりのボンゴレビアンコを、ラーミアは高級チーズをふんだんに使ったカルボナーラ頼んだ。

「このアンチョビのピザ美味しそう、2人で半分こしようよ」

「いいねいいね、おれもこれが食べたいと思っていたんだよ」

想像の斜め上をいく美味しさに、2人は顔を見合わせて感動した。

値段は少し高めだが味は美味しいし、量も多い。

エンディはいつも食事をする時、ガツガツと口いっぱいに頬張るが、ラーミアの前では精一杯上品に、ゆっくりと食べることを心がけた。


パスタを食べ終えると、2人は少量のオリーブオイルがかかった、とろとろのチーズとアンチョビがのったピザを食べ始めた。

「ディルゼンに着いたら何かしたいことある?」

「散歩がしたい。あと、仕事も探さなきゃな。給仕ってどんなことするの?」

「私は王宮内にある大広間の食堂で、調理のお仕事をしてるよ。軍人さんたちがたくさん来るからすごく大変。楽しいけどね。あとはたまに掃除をしたり。一緒にやる?」

「調理に掃除か、おれそういうの絶対向いてないわ。力仕事がしたいな。よし、軍隊に入ろう。」

「力仕事?軍隊?そんなひょろひょろしてるのに無茶だよ」

ラーミアはお腹を抱えて笑った。

「いやいや、おれ結構強いんだぜ?体力だってあるし。」

はいはい、とラーミアは軽くあしらった。

エンディはひょろひょろと言われたことが悔しくて、何としても自分のかっこいいところを見せつけてやりたいと思った。

そんなことを考えていると、突如外から「ビーー」と大きな音が聞こえた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?