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【本】『会社は頭から腐る』(冨山和彦)

先日、「性悪説が蔓延る組織は衰退するしかないのか。」と言う記事をアップしましたが、あの論旨に至ったのは直前にこの本を読んでいたことが影響を及ぼしたかもしれません。

この本が出版されたのは2007年。今から10年以上も前です。

出版された当時も、所属していた組織のあまりにものチグハグな経営に疑問を感じ当図書を手に取り読んでいますが、あれから時が経ち、今所属している組織も何やら当時と様子が似てきたと言う感覚を覚えたため、改めて読み返してみました。

その結果、冨山さんが10年以上も前に警鐘を鳴らしていたことは、残念ながら今でも多くの企業に見事に当てはまってしまうようだ…というのが率直な感想です。

つまりは、旧態依然のまま変われない企業がまだまだ沢山あると言うこと。

そして、そこで働く社員はおかしいと感じながらも決して口には出さず、沈みゆく船と共に沈んでいく…。

この本で冨山さんが一貫して主張しているのは、組織を構成する「人」についてです。

第1章の書き出しも以下で始まります。

   企業経営は何よりも人の営為である。「人」の手によって製品やサービスが生み出され、「人」の手によって市場に提供され、それを顧客という名の「人」が購入し対価を払う。(中略)そこに機械やコンピュータが介在しても、所詮それをつくり、使いこなすのも人間である。したがって集団としての人間を、ひとつの事業目的に向けて有機的に結合させ、機能させることができてはじめて経営は成り立っていく。(第1章 人はインセンティブと性格の奴隷である より)

そして、その「人」達が必死に守ろうとする「ムラ社会」の功罪。

   ムラ社会でまず嫌われるのは、調和を乱す人間、俗にいう「場の空気の読めない人」である。みんなが同じ暗黙の契約を持ち、優等生であろうとしているときに、こな会社はおかしい、外を向こう、会社を変えよう、などとは絶対に言えないのだ。(第3章 組織の強みが衰退の原因にもなる より)

相次ぐ企業(組織)の不祥事や、長年業績が伸び悩んでいる企業が減らない背景には、感情を持ち、それぞれが異なる価値観を持って生きている「人」を前提として組織は成り立っているという感覚が、その経営から失われてしまっていることがあるかと思います。

そして結果(成果ではなく結果)に拘りすぎるあまり、結果がなかなか出ない事に焦るあまり、結果を出せと圧力をかけ、働く社員つまりは「人」が「人」である事を忘れ、「コマ」のように扱おうとしてしまう。

しかし当然ながら組織は思うようには動かない。

程度の差こそあれ、多くの企業(組織)でこういう事態に陥ってしまっているのではないでしょうか。

こんな企業に処方箋はあるのか。
冨山さんは以下のように述べています。

   彼(彼女)こそが組織の中の最高権力者、最も強い立場にいる。もとより人間性の本質はその弱さにある。会社のいろいろなところ、さまざまな階層で起きる矛盾、葛藤について、現場で消化できなかった問題を、経営者自身が最後の盾となって逃げずに受け止めてくれなければ、人々はそれら問題を表面的にごまかして本質的な問題を先送りするようになる。それは会社全体にじわじわカビのように広がってやがて腐臭を放つようになる。その段階ではもう手遅れである。
    だから強い経営者、トップを張るにふさわしい経営者を鍛え選抜すること、さらにはそういう人材プールを企業としても、さらには社会全体としても、一人でも多く持っておくことは、会社を腐らせない最強の予防医学なのだ。(第6章 今こそガチンコで本物のリーダーを鍛え上げろ より)

   これら冨山さんのメッセージを、経営者ではない従業員である我々は果たしてどう受け止めるべきなのか。

組織を見極める為の知識として活用するくらいの事しかできないのか。

もしくは「踊る大捜査線」で和久さんが語っていたように、「正しい事をしたければ偉くなれ」を体現するしか道はないのか…。

ひょっとすると、“エピローグ”に記されている以下の事実のみが、僅かな望みなのかもしれません。

    最大の救いは、日本の現場を支えている人々の力、モーラルは何とか世界のトップレベルを維持しているということです。(中略)数人の経営陣を入れ替えることはできても、現場の従業員全員を入れ替えることはできません。だから会社も日本も再生が可能なのです。「会社は頭から腐り、現場から再生する」のです。(エピローグ:今はまだ経営を語らず より)

だいぶ、気持ちや整理ができてきました。


※ しかし、本の表紙の帯、冨山さんの目つきの鋭いこと・・


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