マガジンのカバー画像

殺戮のBB

55
荒廃した遠未来。第三次世界大戦の爪あとの残る旧日本、リンクレンツ共和国・犯罪都市デッドシティで、荒事を専門として生計をたてるビアンカとバートは、BBという通り名で仕事を請け負って…
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

28 殺戮のBB

 大袈裟にとも言えるほどに驚いている二人を見比べて、三嶋はややきょとんとした様子だったが、そう深くは考えていない様子だった。 「うん、そう。おまえがデッドシティに来ると、ろくな事がないだって。失礼しちゃうわよねー。あたしとしてもここへは休暇の時に来たいというのに」  本来は天敵なはずの三嶋はウェートレスに手を上げて、アイスティーを注文した。 「それでビアンカは要君とどういう繋がり? ハウンド関係者なら、今後も見逃してあげるわよ?」  ビアンカは心の底から、沢本という男のことが

27 殺戮のBB

 沢本が出て行った後、バートは店員を呼びとめ自分もビールと軽食の注文をした。ビアンカはポケットの封筒から三万円を取り出して、テーブルに叩きつけるように置いた。 「ビア約そ……」  不服を遮り、ビアンカはバートを睨み付けた。そこに紛れもない怒りを感じ取り、長髪の神父は口を噤んだ。 「いいか! 昨夜はまずあたしのフラットが吹っ飛ばされてた。そしててめぇが気持ちよくなっていた頃、あたしは爆発に巻き込まれてこのざまだ。バートがイク頃には、あたしは頭から血を出して逝きかけてた。目が覚め

26 殺戮のBB

 取り囲んでいる人数は約五名程度だろう。沢本は余裕を失わず、そしてバートは唸りつつ諦めて席に座り頭を抱えた。沢本が手を振るだけで、銃口を向けていた男たちは銃を納め、しかし視線だけをこちらに向けている。 「いつもそれとなく手勢を連れているのか?」  場の空気を読むことなく、ビアンカはさっそくパスタに取り掛かる。ここで撃ち殺す気があるなら、とっくにそうなっているだろう。  沢本は微かに口角を吊り上げ、余裕の表情を浮かべていた。 「いや、たまたまそこにいたから、それとなく周囲にいる

25 殺戮のBB

 ラムダークへとやってくると、沢本とバートは入り口に近い位置のテーブル席に着き、向かい合っていた。入り口側に背を向けているのは沢本で、店側に背を向けているのがバートなのだが、バートの気配がおかしい。もはや殺気に近い。  これはもしやバートまでも沢本に言い負かされているのかと思い近付くと、二人はカードをしてた。 「なんだ、カードかよ」  ビアンカを待つ間、暇を持て余してゲームを始め、バートの分が悪いことになっているらしい。いつも澄ました顔のバートが、苦渋に満ちている姿などそう拝

24 殺戮のBB

 デッドシティの街の作りはとても単純だ。砂漠の荒野を面した場所からワンストリートで始まり、奥へと進むごとにツー、スリー、と数を重ね、テンストリートまであり、その向こうは隣町であるラキアとなる。かつて日本と呼ばれたこの国だが、移民の大量の入国により、言語が入り乱れ、その名残として英語や日本語、ロシア語、中国語など、その地区で違っている。  ミサイル攻撃を受けなかった地方都市の人間はやはり日本語の名残を多くのこしているため、現在も共通言語は日本語、現在ではリンクレンツ共用語と呼ば

23 殺戮のBB

「馬鹿が」  だが沢本は短く吐き捨て、そして容易くナイフを叩き落とした。ビアンカがもう一本のナイフを引くより先にナイフを奪い、ピタリと頚動脈に押し当てる。  これがハウンドのボスと呼ばれる男の実力だった。流れるような自然な動きにわずかな隙も見当たらない。あともう少し力が入っていれば、ビアンカの喉は掻っ切られていただろうし、いつでもそうできるのだというように、沢本はナイフをさらに強く押しててて来た。ビアンカは思わず息を止めた。 「図星だからって、熱くなるなよ」  これまでビアン

22 殺戮のBB

「もしそれをニーナが聞けば、ニーナは茜の前では笑って何事もなかったかのように済ますが、茜の元を離れた途端に用心棒たちにこう言うんだぜ? その女を連れてきて、目の前でなぶり殺しにして、ってな。実際、そうやって殺された女たちは多々いる。茜は能天気だから、ニーナが自分に甘えてくる姿しか知らない。俺が何でこんな事を知っているかと言うと、そうやって茜に迫って口説こうとした女を捜す仕事を引き受けたからさ。つまり俺がうっかり、「そういや、この間ビアンカが嫌がる茜に、無理矢理キスしてたぜ」と

21 殺戮のBB

 着替えてしまえば、さほど悪い感じではなくて、むしろビアンカのイメージに合っていた。さすが店員なだけある。カーテンを開けると、待ち構えていたように店員がアクセサリーを出してきた。 「このゴールドのリングモチーフネックレスがポイントです。あと同じくゴールドのバングル」  ビアンカが拒否しないかと、ヒヤヒヤしているようだ。しきりに入り口の沢本を気にしている。  ビアンカは小声で店員に尋ねた。 「なぁ、あいつってそんなに怖い?」  すると、亀が腕立て伏せをしている様子を目撃してしま

20 殺戮のBB

 表通りはビアンカが思った以上に人が歩いていた。夜のデッドシティに比べると、顔ぶれは全うな人種が多い気がする。こうしてみれば犯罪都市とは言われているが、それでも茜のように善良と言い変えてもよい人種も住んでいたのだなぁと、妙に感慨深いことを考えた。  空はブルーグレー。かつて青だった空は、晴れ渡った日でもどこかどんよりとしている。  ハウンドのボスの背に追いつくと、丁度煙草に火をつけているところだった。  深く吸い込み、息を吐き出す。そしてビアンカに視線を向けてきた。 「相方、

19 殺戮のBB

「うちの店で遊ばせてやると言っても、遊ばねぇんだぜ? そうだ、なんなら睡蓮華で遊ばせてやろうか? 手取り足取りで満足させてくれるぞ。幸い、そこにいるのが睡蓮華の女主人だ」  そう言うとリオンは顔をあげたが、首を振った。 「いらないよ。別に女の子に不自由してないもん」  そう言いつつ、若干頬が赤い。からかわれていることが恥ずかしいのか、照れているのかわからないが、茜の弟だと言われたら納得しそうな部類の人間だった。 「あら、たまには洗練された女を抱くのも男を磨くものよ?」  ニー

18 殺戮のBB

 茜の手はビアンカの頭の包帯を解いていた。 「話のついでに消毒させて。それで、手がかりは見つかったのかな?」  茜が沢本に視線を送ると、沢本は首を横に振った。 「そう簡単にわかるようなら、今頃見せしめに俺の手で殺してやっているところさ。何分、薬は俺の管轄外だ。武器、カジノ、売春宿、バーまでが、俺の領域。薬は混ぜ物かどうか使って見なきゃわからねぇし、使えば使うほど、頭が使い物にならなくなる。だから俺は薬の類は手を出さない。それが裏目に出ている。大雑把になら売人はわかるが、販売ル

17 殺戮のBB

 酷く体が重いような気がする。心なしか、体中が痛くてビアンカは呻いた。筋肉痛になるほど体は鈍ってはいない。体力と運動神経がなければ、すぐに死に繋がる商売だ。体力の衰えを自覚したときには、死を自覚するときでもある。  でもこの体の痛みはそんな筋肉痛とは違う。もっと表面的に鋭く痛い。  そして呻いたあとに、息を吸おうにも、なぜか息が止まって吸えない。 「ぶはっ!?」  目を覚ますと、昨夜とは違う白の開襟シャツにジーンズ、色の薄いサングラスを掛けた沢本要が、心底人を小馬鹿にしたよう

16 殺戮のBB

 ハウンドの頂点とはいえ、すべてを把握しているわけではない。だが圧倒的にデッドシティの大部分を支配している沢本が、把握していないということは新興勢力であることに間違いない。 「当分騒がしくなるな。茜、この場所にもうちの連中を置く。いいな?」  沢本が当然のようにそう言うと、茜はきょとんとした表情を浮かべた。 「どうして? 僕は要さんのような裏の商売じゃないもの。それに大した儲けは出てないよ、ここ?」  心からそう思っているのだろう。すると沢本はカップを机の上に置き、茜に指を突

15 殺戮のBB

 先程からうまく言いくるめられてばかりで、のらりくらりと交わされてばかりいるので、意趣返しをしてやりたくなったのだ。 「ねぇ、先生? あたし口でしてやろうか?」 「僕は診察室ではそういうことはしません。してもらうつもりもないから」  そう言ってビアンカの手を離した。ビアンカはぺろりと舌を出して、わざと身を乗り出して胸を強調して見せつけた。 「じゃ、どこならするの? 診察台の上?」 「診察台は診察して処置するための場所。ボネットさんを抱いたりはしないよ」  大抵の男になら、こう