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【童話は「子ども向けの翻訳」】童話・児童文学の文章作法(2017年3月号特集)


 設定と構成が決まったら、いよいよ書き出します。文章作法については、かなりの部分で小説やエッセイと共通していますので、ここでは、童話特有の文章作法について触れます。

子ども向けに翻訳するという発想の文章術

 大隈秀夫『文章の実習』に、子ども相手の文章では「減価償却」という言葉が使えず、「会社などにある機械は使っているうちに古くなり、いつか買い換える必要が出てくる。新しい機械を買うための費用を会社のもうけのなかから、毎年積み立てていく」という調子で説明しながら書いたというエピソードが出てきます。
 この例は説明が長いですが、童話を書く場合も、一語書くごとに「これで通じるか」と考えます。

 子ども向けなら「執筆」という漢語より「書く」という和語がいいですし、なじみのない言葉を多用し、「学校に緘口令が敷かれ、先生は解決をコミットした」なんて書いても通じません。

 書くときは、大人語と子ども語は日本語と外国語ほどの違いがあると考え、翻訳するつもりで!

子どものための文章とは?

 低年齢の子どもは、大人ほどの読解力がありません。
 難しい言葉や外来語も知らない場合が多い。大人の言葉を子どもの言葉に翻訳しましょう。

文章は短くわかりやすく

 童話の文章は、「わかりやすく」が大前提です。できれば短いほうがいいですが、あまり短いと細切れの文章になりますので、意味の切れ目にテンを打てば、文は多少長くてもOK。
 それより文章構造をシンプルに。難読の言葉、漢語は子どもでもわかるように言い換えます。

描写は簡潔に情感豊かに

 童話の描写は簡潔に、かつ変に凝りすぎないこと。しかし、短いながらも表現効果は高い言葉を選びたい。「飴だま」でいうと、「舟にとびこみました」「どっかり」「ふふふと」「こっくりこっくり」「ぱっちり」「すらり」などがそう。わかりやすいのと陳腐は紙一重ですが、そこはセンスよく!

説明は必要最小限に

 〈子どもたちはだまりました。〉ではシンプルすぎて十分に伝わらないのではないかと心配になりますが、説明の隙間は読者が想像で埋めてくれます。説明は必要最小限に。
 また、〈太郎は元気だ。〉のように言葉だけで説明せず、元気な行動をさせることで「元気」だと思わせましょう。

セリフは口調に工夫を

 男の子が二人いたら、一人は「ボク」、一人は「オレ」とか、あるいは、語尾に癖をもたせて差別化します。
 きむらゆういち『あらしのよるに』では、「やんすね」と独特のオオカミ弁(?)を使わせています。そうすると話者がわかり、いちいち〈と言った。〉と書かなくて済みます。

物語の型から発想しよう

 物語にはある一定のパターンがあります。
 世の中にある物語はどれかの原形またはその複合型。物語の原形(骨格)を知り、そこに自作をはめ込もう!

桃太郎型

【概要】
 旅もの、そして勧善懲悪譚。
 旅に出るには理由が必要で、「悪い鬼」という前提がないと、桃太郎のほうが乱暴者になってしまう。理由がないときは事件に巻き込まれるといい。
【骨格】
 ある目的を持った主人公が旅に出て、障害を乗り越えて目的を達成し、元いた場所に戻ってくる(または目的地にたどりつく)。戻ってきたとき(たどりついたとき)に、何かを得ている。旅には同行者(味方)がいる。

かぐや姫型

【概要】
 到来型。「かぐや姫」は難題求婚譚でもあるが、かぐや姫の目的は月に帰ることなので誰の求婚も成功しない。到来型の映画には『シェーン』や『マディソン郡の橋』などがある。
【骨格】
 主人公がどこからかやってきて(あるいは、主人公のもとに誰かがやってきて)、そこで起きている問題の解決に努める(または努めざるを得なくなる)が、最終的には問題を解決し、そして去っていく。

笠地蔵型

【概要】
 報恩譚。「笠地蔵」はその典型。「鶴の恩返し」は恩こそ返されるが、最後に欲を出して失敗する。報恩譚は同時に富がもたらされる致富譚であることが多く、「花咲か爺」は善行悪行両方でてくる因果応報譚。
【骨格】
 主人公は代償を求めずに善行をし、その恩に報いるために相手が恩返しに来る(または幸運がもたらされる)。結果、主人公が最初から抱えていた問題が解決する。

かちかち山型

【概要】
 復讐譚。つまり、仕返し。「忠臣蔵」などの仇討ちものもこれと同じタイプ。精神的に、物質的に欠けたものを埋めて回復しようとする話。復讐するのが貧しかった過去の自分と設定すれば立身出世譚に。
【骨格】
 主人公はだまされ、あざむかれ、裏切られ、その結果、何かを失い、マイナスの状態になる。しかし、奮起し、努力し、復讐、仕返しすることでマイナスを取り返す。

雪女型

【概要】
 到来型に似ているが、相手は秘密を知っており、主人公の善性を試す。その意味では、神様が出てきて主人公を試す信仰譚にも似ている。また、人間でないものと結婚する異類婚姻譚でもあり、女性との間に子どもが生まれる異類誕生譚でもある。
【骨格】
 発端の出来事があり、その後、相手の女性が素性を隠して接近し、主人公を支援するが、主人公が秘密を漏らしてしまい関係が破たんする。

狼男型

【概要】
 変身譚。ギリシャ神話によくあるのは罰として動物や植物にされる話。この場合は罪を償えば元の姿に戻れる。グリム童話「かえるの王子」は、変身させられていたのが王子という設定で、これはひとつの貴種流離譚。
【骨格】
 ある事件をきっかけに半人半狼の狼男になり、銀の武器で殺される(人間を回復する)。自分を見失うぐらい恋に熱中し、何かのきっかけで元に戻るのも一種の変身譚。

ジャックと豆の木型

【概要】
 逃走譚。この世でないところに行く場合は異郷訪問譚で、これは旅ものでもある。逃げる途中で、特殊なアイテムを投げると、それが変身して逃走を助ける呪的逃走が挿入されることもある。これは日本神話にもある。
【骨格】
 主人公はどこかに行き、重要なもの、主人公の欲しかったものを盗んで逃げ帰ってくる。逃げるとき、相手に追われるが、特殊な武器などで撃退するなどして逃げのびる。

三匹の子ぶた型

【概要】
 難題譚。「三匹の子ぶた」「三人の王子」「三つの願い」など童話に多い形式。最後に成功するとハッピーエンドになり、最後に失敗すると教訓的な話になる。落語のように三つめが落ちになった三段落ちも。
【骨格】
 序破急で構成されることが多い。最初に設定が説明され、本編で三人の主人公に一つの難題が示され(一人の主人公に三つの難題が示され)、主人公は次々に挑戦する。

「型」を理解してほかの人と差をつける!
特集「自己流はもう卒業! 童話の作り方」
公開全文はこちらから!!

※本記事は「公募ガイド2017年3月号」の記事を再掲載したものです。


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