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【年齢が高いと受賞しづらい?】主催者の本音を聞いてみると意外な答えが返ってきました(2013年5月号特集)


※本記事に記載しているコンテストには現在開催を終了しているコンテストも存在します。応募を検討される際は前もって開催有無をお確かめください。

実年齢より作品の質を重視

 受賞者の年齢について、いくつかの文学賞の主催者に聞いてみました。「日本エンタメ小説大賞」(主催・日本エンタメ小説大賞実行委員会)には18歳~80歳までの応募があったそう。この賞には受賞作品の映像化と受賞者のプロモートという2つの特色がありますが、映像化に至るためには「売れる本」でなくてはならず、「売れる本」であれば年齢は関係ないとのことです。

「ゴールデン・エレファント賞」(主催・「ゴールデン・エレファント賞」運営委員会)では、過去3回、60歳以上の受賞者は出していませんが、これについて、
「本賞は世界に通用する日本の小説を発掘するのが目的。最終選考員に海外の編集者が入っていることもあり、分かりやすくエンタメ性の強い作品が望まれる傾向がある。シニア世代の応募作によく見受けられる自叙伝的な作品や純文学のような作品が最終選考に残るのは難しい」
とコメントしています。

「野性時代フロンティア文学賞」(フジテレビジョン/角川書店主催)の受賞者は20代~30代など若い世代が多いそうですが、年齢で不利になることはないとのこと。担当者によると、

「賞創設時に30代の女性をターゲットに想定した青春文学賞というタイトルを冠していたために応募者も若い世代が多くなったという経緯があり、『フロンティア文学賞』に名前が変わって4回目となった現在もこの傾向は続いているのではないか、しかし、これから伸ばしていけるだろう芽を見つけて、新しい作品を生み出していこうという賞の目的に沿っていれば、受賞者の年齢や実働期間の短さについては考慮しない」とのことです。

 また、シニアについては、「若い人でも1作品を書き上げて力尽きてしまい、2作目に至らないことも。シニアの方はそれまでの豊富な人生経験を糧に多くの作品を書きためておられ、受賞後、短いスパンで次々と作品を生み出していただける可能性もあるのでは」とコメントしています。

「江戸川乱歩賞」を主催する日本推理作家協会では、
「選考委員にはプロフィールを付けずに作品を渡しているので、年齢が選考に影響することはない」、また実働期間の短さについては、「そのような理由から年齢が考慮されることはない」としています。

「やまなし文学賞」では今年も62歳、63歳の方が受賞。主催のやまなし文学賞実行委員会では、今後もシニアの受賞はあると見ているそう。もちろん、年齢が選考に影響することはないとのことです。

第12回「坊ちゃん文学賞」は1057編の応募のうち、60歳以上が151名。高齢者の受賞者も出しています。「さきがけ文学賞」の応募者、受賞者の半数以上はシニア世代だそうです。

取材を通じて

 受賞者の年齢が気になるかどうかは、受賞後に受賞者とどう関わるかによります。たとえば、受賞後も長く稼いでもらいたいと考える出版社なら、積極的には高齢者は採らないでしょう。
 しかし、今は作家の実働年数はせいぜい10年ですし、新人を育てる誌面も少ない、それなら一発屋でも即戦力を待ったほうが効率的という考えが主流ですから、年齢は関係なくなりつつあります

 受賞後は受賞者とほとんど関わりがなくなる文学賞、たとえば、単発の懸賞小説、自治体文学、地方文芸については、もともと年齢を考慮する理由がなく、高齢者が受賞する割合も高くなっています
 また、大手出版社によるメジャーな文学賞に気後れした高齢者は、自治体文学、地方文芸に流れる傾向があり、そうしたことからもこれらの文学賞では高齢者の受賞者が(比較的)多くなっています。

 ライトノベルに関しては、活躍する作家の多くが30~40代ということ、また、年に数冊というような量産が求められることから、高齢者には相当なハードルがあると見ていいでしょう。
 ただし、どの文学賞にしても、実年齢は関係なくなってきています。受賞しないとすれば、実年齢より、作品に出てしまった悪い意味での年齢のほうを問題とすべきかもしれません。

受賞者と年齢まとめ

  • 受賞後、受賞者と関わらない主催者は受賞者の年齢は問わない。

  • 新人の発掘を目的とする新人文学賞でも実年齢は問わなくなってきている。

  • ライトノベルについては高齢者の受賞はかなり難しい。

  • 実年齢より、受賞に値する作品であるかどうかのほうが重要。

団塊世代は宝の山

 2011年1月に公募され、話題を集めた、講談社主催の「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」。日本のミステリー界をリードする作家・島田荘司氏発案のこのプロジェクトは、60歳以上を応募資格とし、「長い社会経験をじて培われた才能」を発掘することを目的としてスタート。
 このような賞では珍しいことだが、募集の際に東京で説明会を開催。300名近くが参加したという。

 この模様(映像)をWEB上で流すなどして告知をしたこともあって、半年の募集期間で集まった作品数は217編に及んだ。
 講談社文芸図書第三出版部の担当者は、「弊社の小説現代長編新人賞では一年間募集して1000通ぐらいの応募数。それを考えると、年齢制限があったにも関わらず、半年でこれだけ集まったのは相当多いのではないか」と話す。

 ところで、応募資格を60歳以上にした狙いは何であったのだろうか。近藤氏は次のように説明している。
「弊社のメフィスト賞のように、西尾維新さんなど若手の受賞が多い賞でも、50代で受賞されている方もいらっしゃいます。しかし、今回のプロジェクトにおける島田先生のお考えとしては、長い間仕事をしてきて、小説を書いてこなかった方の中にこそ大変な知性が埋もれているのではないか、ということがありました。戦後日本を支えてきた人たちは、一生懸命働いてきて、いろいろな知識を得、知識欲も旺盛。この世代は才能の宝庫なのではないかと。他の賞でもデビューはできるのでしょうが、あえてこの年代にスポットを当てて、競ってもらおうというのが、今回のプロジェクトの狙いとなりました」

 この狙い通り、応募作品は全体的に当初予想した以上のレベルの作品が集まった。これは、「基本的にシニア世代は文章が上手」であるからではないかと近藤氏は分析する。
「小説に限らず文章や手紙を書く世代。読みやすさという点では合格点の方が多かったです」

ただし、一方ではこうも話す。
「その先のトリックを含めたミステリーの構築ということになると、応募処女作の場合、甘さが見えるなという作品が目立ちました」
 とは言え、いわゆる自叙伝的な作品や身辺雑記を書いたような作品は全体の2、3割と少なく、きちんとミステリーを書こうという熱意のある人が多かったとの印象を受けたそうだ。
 では、その中でデビューできる作品とはどのようなものなのだろうか。

物語と自叙伝の違いを知れ

 「年齢を問わず、小説というのはなんらかの形で自分が投影される場合が多いと思うのです。それ自体は構わないのですが、ことミステリーに関して言うと、自分の思い入れを書きたいというだけでは、たぶんデビューはできないという気がします。エンターテインメント小説はやはり、物語ですから。物語を作るということと、自分の思い入れを表現するということは違うのだ、と冷静に考えられる方はデビューに近いのではないかと思います」

 それでは、60歳以上でデビューした場合、出版社としてはその後の実働年数などをどのように考えているのだろうか。
極端に言えば、小説には一発屋もありだと思っています。受賞の作品一作で、一筆入魂なのか、一作入魂なのか、そういうことが起こり得ると思うのです。長く書き続けるには、キャラクターを立ててシリーズ化していくことも多いのですが、まず一作がヒットしなくては仕方がない。そこで、とにかく面白い小説を一編、書いてみましょうという話になります。そういう意味で、最初から、末永く作品を書き続けてもらうということはあまり意識しません。それは若手の人であっても同じです。一年に何作も発表される方もいれば、一年に一作書くか書かないかという方も多いです。その人に合った考え方をするべきことですので、シニアだから特別ということはあまり考えていないですね」
 このプロジェクトは今後も予定されており、次回は一年程度の募集期間を検討している。

特集「人は何歳まで作家デビューできるか」
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※本記事は「公募ガイド2013年5月号」の記事を再掲載したものです。

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