【発想の転換で物語は紡がれる】今日からできる創作の「アイデア」を生み出す方法(2017年10月号特集)
小説や童話の場合は、実体験ではない話でも、現実にはありえない話でも、なんでも自由に想像できる。その発想法を解説します。
既存の発想法は役に立たない。創作系は言葉から発想する
世の中に発想法はいろいろあるが、小説・童話は言葉から連想していったほうがいい。
たったひとつのことばが物語を生むことも
落語に三大噺がある。お客にお題を三つもらい、その3つを入れ込んだ話を即興で作るというもの。
たとえば、「酔っ払い」「芝の浜」「革財布」と言われたら、
〈早朝、勝五郎は芝の浜に行き、大金の入った革財布を拾う。翌日、昨日の金は?と言うと、妻はそんなものはない、酔っ払って夢でも見たのでは?と言う。〉
という「芝浜」のストーリーが生まれる。
このように言葉は物語を連れてくる。それは池に投げられた石が水上に波紋を作り、水中を揺らしながら水底に落ち、底の泥を舞い上げることに似ている。石は言葉で、水中は人の心の中だ。
このとき、同じ言葉を放り込んでも、人によって反応が違う。
それはある言葉から受けるイメージは人それぞれだからであり、もしも心の中に何もなければ、どんな言葉を投じても反応しない。
言葉が2つあると電極のようにひらめく
マン・レイというシュルレアリストの作品に『ミシンと雨傘』がある。手術台の上にミシンと雨傘が無造作に置いてあるという作品だが、この手術台とミシンと雨傘の間にはなんの関係もないのに、一緒にあると関係があるような気がして、そこに自然とストーリーが生まれる。
このように1つの言葉に別の言葉をぶつけてみる。
たとえば「猫」に「動物園」を合わせ、「動物園にいる猫」という言葉を作る。すると、「動物園になぜ普通の猫がいるの?」となり、その理由を考えると、たちどころにストーリーができる。
あるいは、「猫」に「孤島」なら、「なぜ孤島にいるの?なんのために連れてこられたの?」という疑問がわき、「それはね」と答えればストーリーになる。
なるべくかけ離れた言葉をかけ合わせるのがコツだ。
猫at 動物園
ある猫が動物園に忍び込んだ。猫はもちろん、檻の外にいる。「檻の中は不自由だな」と言うと、中の動物たちは「君には存在価値がないから、この不自由な世界には入ってこられない」と反論され、立場が逆転する。
猫on孤島
東京中の野良猫の殺処分が禁止され、孤島に集められた。そこは楽園などではなく、猫たちは野生に帰り、自ら餌をとり、自然のまま暮らす。当然、過酷な生活を強いられるが、猫たちはそのほうが自分らしいと感じる。
物語のタネーとっかかりのアイデアを探す
前置詞を使う
二つの言葉を組み合わせるとき、~「A におけるB 」「A の中のB 」のように間に言葉を挟む。英語で言えば、前置詞を入れてみるような感じだ。
テーマが「家族」と「他人」なら、「家族で他人」「家族になりたい他人」「家族VS他人」と考えてみて、それってどういうこと?と考えると、ストーリーが膨らんでいく。
もしも……if
「もしも……だったら」と考えるのは、発想の原点。
テーマが「家族」だとして、家族とは何かと考える。普通に考えれば、「何世代かによる血縁の集団」という辞書的な説明に行きつくが、これをひっくり返し、「全員が誰とも血縁関係にない家族がいたら」と考えてみる。「それは家族のようなふりをした窃盗集団だった」と考えると犯罪小説になるかも。
変なところで切る
蓮見重彦の『反11日本語論』に、『蛍の光』の歌詞「あけてぞけさは」を「あけて、ぞけさは」だと思ったというエピソードが出てくるが、変なところで言葉を切ると面白い言葉になる。
たとえば、桜の花びらを採取に行く「桜狩り」は「さ・暗がり=小さな暗がり」と解釈すると、「桜狩りに行くと小さな洞穴があり、そこを覗くと」とストーリーの糸口が生まれる。
わざと間違える
ある言葉に注目し、その言葉をわざと間違える。
たとえば、「糸」と同じ音の「意図」。「意図のある糸が勝手に縫物を始めた……」。
「公募」であれば、「コウボ」を1字変えて「クウボ」。「空募ってなぜ空を募集するの? 空が足りないの?」と考えると突飛な話になる。
言葉遊びに近いが、遊びから意外な発想が生まれることも。
シュルレアリストの遊び
「いつ、どこで、誰が、何のために、何をしたか」を5人1組でばらばらに考えて発表する。
すると、「三日前、トイレの前で、日本の総理大臣が、地球を侵略するために、そろばんを習う」といったストーリーが生まれる。これはシュルレアリストが発明した遊びだが、これをやってみる。1人でやる場合は、5Wにあたる部分は目についた新聞の見出しから探してもいい。
抽象化と置き換え
ある言葉を説明し、抽象的にし、別なものに置き換える。
たとえば、「ペン」について説明する。「紙などに線や文字、絵を描くことができる筆記具」。
次に、これを抽象的な言葉にする。たとえば、「白いものに字が書ける筆記具」。
最後に、これを別のものに置き換える。たとえば、「白い雪原に字を書ける筆記具」。これは魔法の筆記具の話のようだ。
テーマがあるときはどストレートを避ける!
飛躍と逆説
テーマがない場合は上記のように自由に想像していっていい。しかし、テーマがある場合は、テーマから発想することになる。
となると、似た発想の作品が多くなる。だから、テーマが「家族」の場合に、単純な家族小説を書いても目立たない。
ここはテーマに対して素直すぎる解釈はせず、「家族」を飛羅させて「虫の家族」を題材に書くとか、逆説的に解釈して「家族という観念がない、とても温かい国があった」のように変な考え方をするといい。
言いたいことは?
面白い話のたねを見つけても、言いたいことがないと書く気になれない。
上記で出てきた「虫の家族」も、それに仮託して伝えたいことがあればいいが、ないとつらい。
連想法ではストーリーのたねを見つけられるが、それだけでなく、自分が言いたいことを探すのも目的。
「虫の家族」を描くことで「親と子の関係を考えたい」といったモチーフが出てくるなど、話のたねとモチーフが結びついたらOK。この書きたいことなしにはお話は書けない。
特集「その作品、みんなとかぶってますよ」
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※本記事は「公募ガイド2017年10月号」の記事を再掲載したものです。