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【小説に取材なんて必要ない】面白い話を書くのに必要なのは読書と3つの○○力だ!(2013年8月号特集)


※本記事は2013年8月号に掲載した中山七里先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

プロットはしっかりと煮詰める

――長編小説を書き始めるまでには、どんな準備をされるんですか。

 プロットだけは神経をつかって煮詰めます。字数は2000字に収めようと思っているんです。2000字で面白いと思わせられなかったら、たぶん面白くないだろうなって思うんですね。プロットで原稿用紙何十枚も使うような話は、面白くない言い訳で話を長くしているだけだなと思います。

――プロットを煮詰めるまでには試行錯誤があるわけですか。

 3日あればできますね。僕が投稿した『さよならドビュッシー』と『連続殺人鬼カエル男』は、二つともプロットには3日間しかかけなかったんですよ。

――プロットは、アイデアがある中から選ぶんですか。

 ゼロから考えることもあります。ただ、頭の中にストックを持つようにしてはいます。作家になった今は、まず出版社の方にリクエストをいただくんですよね。
 『切り裂きジャックの告白』でしたら、社会的なテーマを盛り込んだ本格ミステリーで、どんでん返しがあってと。そのリクエストに応えるには、頭の中のどのアイデアが使えるかなと考えるんです。

――リクエストがあったほうが書きやすいという面はありますか。

そうですね。なにしろ、書きたいものがないですから。

――そうなんですか。

 デビュー作ですら書きたいものではなかったんです。『このミステリーがすごい!』大賞を受賞する前年にも応募し、最終選考まで残ったんですが、最終選考に残ると4人の選考委員から選評をいただけるんですね。それで来年は選評どおりに書こうと思ったんです。

――そうだったんですか。

 なおかつ、第1回から6回までの選評を全部読み直して、この選考委員にはこういう小説がいいんだというのを箇条書きにしましてね、それを全部クリアできるものを書いたのが『連続殺人鬼カエル男』でした。だから、書きたいものではなくて、選考委員の注文どおりに仕上げた作品なんです。

取材はしなくても読書は必要

――『切り裂きジャックの告白』では、社会的なテーマというリクエストから、臓器移植を思いつかれたんですね。

 脳死臨調が話題になって、臓器移植法が成立したときに、その流れを見ていて、何かおかしい気がしていたんです。それがずっと頭に残っていたので、まずそれを思いつきました。思いついた瞬間、切り裂きジャックが出てきたんです。

――臓器移植は、普段ニュースなど見て印象に残っていたと?

 そういうのはまだ頭にあるんですよ。
 私はネタ帳すら作らないんですけど、頭に残っているものだけで、何とか物語を作れる気がします。

――取材もしないとなると、難しそうですが。

 想像力で補うんです。『切り裂きジャックの告白』では、木場公園、埼玉県、東京競馬場、下北沢と出てきますけど、一回も行ったことはありません。地図を見れば街の雰囲気はわかりますね。

――取材というのは必ずしも必要なものではないんですね。

 小説を書くのに必要な要素は3つしかないと思っています。構成力、文章力、想像力ですね。取材力は、あればそれにこしたことはないぐらいですね。

――資料を読むとか、そういうことはどうでしょう?

 私の場合はそういうのはないです。今までいろんな本を読んだり、ドラマを見たりして、わかることがありますから。

――『切り裂きジャックの告白』では、手術の細かい描写も出てきますが。

 それはテレビで心臓の移植手術を特集していて、覚えていたんです。今のところ取材費に金をかけたことは一回もないです(笑)。もちろん取材が必要な小説もありますから一概には言えませんけど、取材に寄りかかった小説を書いても面白くないのは確かです。薀蓄と物語のカタルシスは全く別物なんですね。

――想像力がないから取材するのかもしれませんね。

 アマチュアの方の応募作品でも、自分の知っていることや経験をすごく濃密に書かれると聞きましたが、それでは面白くならない。「これを世に問う」とか匂わせる程度でいい。大事なのは、面白い話を書くことですよ。そのために本を読むことですよ。

何かが欠落した人間を主人公に

――小説を書くのに役立つ本というのはありますか。

 小説作法というのはあらゆる人が書いていますけど、今一番使いやすいのは、大沢在昌さんが書かれた『売れる作家の全技術』と、ディーン・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』だと思います。

 この二冊に共通しているのは、ページをめくる手を止めさせない手法として「主人公に感情移入させること」と「キャラクターを絶えず絶体絶命にさせること」を挙げているところ。この二つがあれば、読者は飽きずにページをめくってくれると思います。

――人物造形のコツはどうですか。

僕がよくやっているのは、完璧な人間は主人公にせずに、何か欠落した人間がそれを埋めようとしてあがく様を落とし込むことですね。

――『切り裂きジャックの告白』の主人公である犬養刑事がバツ二だったり、娘さんという弱点があるのは、そういう意図からなんですね。

 最初の設定が、事件を追っていく刑事も似たような悩みを持っていて、いつしか事件と自分の家庭の問題が連動するということだったんです。そして犬養刑事と一緒に捜査する人間は、全く違う性格の若手を持ってきたかったんです。前の作品(『連続殺人鬼カエル男』)にいいのが出てきていたので、くっつけたんですね。いわゆる凸凹コンビというか、性格の違う二人に掛け合い漫才をさせると、読者を引っ張っていけるんです。赤と青、正義と悪のような二項対立はドラマにしやすいでしょ、それは絶えず考えています。キャラクターを作るだけじゃなくて、このキャラクターとこのキャラクターが絡んだときにどういう話になるか、そこまで考えないとダメなんですよ。

――猟期的な殺人のシーンから物語が始まり、臓器移植の話へと展開して、最後のシーンへ移り変わっていく構成も意識された部分ですか。

 先読みしてほしくなかったんです。最初のシーンと最後のシーンでものすごい落差があるでしょ。どんでん返しという注文をいただいたときに、こういうエンィングもどんでん返しだなって思ったんです。あのラストシーンだけで、そこまでの300ページの色を塗り変えることができました。

――まだ『切り裂きジャックの告白』を読んでいない読者に一言お願いします。

 読み始めたら絶対に止まらないように書いた小説なので、ぜひともお金を出して読んでいただきたいです。公募ガイドを読む方は、作家になることを夢見ていらっしゃる方が多いと思います。出版社が潤うことがあなた方のデビューを促進させる方法なんです。だから必ず買っていただきたいんですね。

中山七里(なかやま・しちり)
2009 年に、『さよならドビュッシー』で「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞し、デビュー。著書に『贖罪の奏鳴曲』『ヒートアップ』『スタート!』などがある。『切り裂きジャックの告白』の主人公・犬養刑事が7つの事件に挑む連作短編集『七色の毒』は7月29 日発売。

特集「長期休暇を活用しよう」
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※本記事は「公募ガイド2013年8月号」の記事を再掲載したものです。

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