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オリンピア少女

「少女が恋をしたのは異形の怪物でした。」

小説か漫画のキャッチコピーのようですが、本当にあったお話です。

事の発端は8年前に遡ります。

Sipkaのお取り扱い作家のマンタムさん。

日本一クレイジーな骨董店「アウトローブラザーズ」を営む傍ら、
動物の剥製や骨格、古物などを癒合させ、唯一無二の作品を制作する
現代の錬金術師・マンタム。
チェコのシュルレアリストであり映像作家のヤン・シュヴァンクマイエルはじめ、様々なアーティスト、クリエイターとの親交でも知られています。
死より生まれる新たな文化をコンセプトに掲げるマンタムの作品たちは、
錬金術的と表現するに相応しいプリミティヴな力強さと奇妙な美しさに溢れています。

↑マンタム個展「錬金術師の遠望」フライヤー。

2011年、Sipka展示スペースで、マンタム個展「錬金術師の遠望」が開催されるに当たって、先行して納品された作品のひとつが「オリンピア」でした。

オリンピアは、動物の頭骨やマネキンのパーツを用いて制作された全長2メートル以上ある巨大なオブジェ。
元々は前衛舞踏の舞台美術として制作されたものだとか。

「錬金術師の遠望」では展示スペースをフルに使い、マンタムさん自身による大小様々な異形たちが犇めく、魔界のような空間ができあがりました。

↑オリンピアのお姿。

「ラブストーリーは突然に」

当時、ピチピチの女子校生だったHちゃん。
Sipkaにも以前からちょくちょく遊びにきてくれていたのですが、
その日、立ち寄ったのが運良く(運悪く?)マンタム個展の最中だったのでした。

今までSipkaにアクセサリーを買いに来てくれていたお客様が、恐れ、怯えてパタリと来なくなってしまったマンタム個展会場でも、Hちゃんは臆することなく、1点をじっと見つめています。
その視線の先には山羊のような頭骨にマネキンの身体を持つ異形の姿が。

「ひとめぼれでした」と後にHちゃんは語ってくれました。

それまで彼女が見たり、体験してきたものとは全く異なるものだったのでしょう。
それはそれは、相当なインパクトで、強烈なカルチャーショックを受けたであろう事は想像に難くありません。

自分の見ていた世界が一変してしまうような出会い。
それが恋になるというのも不思議なことです。

以後、Hちゃんは学校が終わると毎日のように"オリンピア様"に会いに来るようになります。
触れてしまいそうな間近から、少し離れた位置から、じっとオリンピア様を見つめる眼差し、時折ため息をついたりといった彼女の様子は、まさに恋する乙女でした。

↑オリンピアの第2の顔(下の顔)。
Hちゃんにオリンピアのどこが好きなの?って聞いたら
「全部好き」って言われました。
これが"恋" か。。。


「別離そして再会」

そんな切なくも幸せな日々にも、やがて終わりが訪れます。
個展最終日、マンタムさんも在廊して閉店後に片付け、撤収作業をする予定で、オリンピアもマンタムさんの車「流星号」に乗って帰っていくはずでした。

この頃、既にオリンピア少女として有名になりつつあったHちゃん。
最終日だけど、オリンピアにお別れしに来ないねぇ。などと話していたところ、悲壮な面持ちで現れたHちゃんが現れました。
しばらく俯いて黙っていたかと思うと、


「オリンピア様を連れていかないで!」

と泣き始めてしまうHちゃん。
タジタジになるマンタムさん。

傍目には不審なおじさんが、いたいけな少女を泣かせているようにしか見えません。ウケる。

なんとか皆でHちゃんをなだめて、オリンピアは他の異形たちと共に流星号に乗って帰っていきました。

それから半年後、全個展の好評を受けて、マンタムさんの作品の展示販売と骨董商としての側面をフィーチャーした「アウトローブラザース骨董市」の開催が決定。

オリンピアも再びSipkaにやってくる事となりました。

オリンピア帰還の報を受けたHちゃんは大喜びで、連日Sipkaに通って大好きな人(?)との時間を過ごせたのでした。


それから時が経ち、女子大生になったHちゃん。
徐々にSipkaに来る回数も減っていきました。

夏が来て、オリンピアが発する異臭を嗅ぐ度に「オリンピア少女・Hちゃんは元気でやってるかな〜」などと思いだしていました。

マンタムさん曰く、このへん↑に、"ある一定以上になると異臭を放つ装置を仕込んでいるとのこと。え〜。ほんとかしら。。。


そして今日、Sipkaにひとりの女性が来店しました。
こんにちは。と挨拶の後、こちらに顔を向けること少なく、どこかよそよそしげに店内を見ています。

ひとしきり店内を見て回った後、意を決したようにオリンピアの前に立つ女性。

「ひょっとして、Hちゃん!?」

そうです。5年の歳月が経ち、すっかり大人の女性になったHちゃんでした。
無事、大学も卒業して今はOLさんをしているとのこと。

「オリンピア様のことは、この5年間、片時も忘れたことはありませんでした。」

久しぶりの"初恋の人”に対面するHちゃんは、はじめこそ、かなり緊張した様子でしたが、徐々にその緊張も解れてきたようで、間近から、離れた位置から、じっとオリンピア様を見つめ、時折ため息をついたりしています。

その眼差しはあの頃の"オリンピア少女” そのままでした。

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長くお店をやっていると、時折、こういう再会があって良いものですね。

Hちゃん、オリンピア様に再会出来て良かったね!
オリンピアがどこかに嫁いでいってしまってなくて良かった!

そしてSipkaが潰れてなくて良かった!

※このnoteはHちゃん御本人の許可を得て書いています。

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