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愛され信頼される力 海幸山幸12 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百七五

綿津見神の傾聴と優しさ

おはようございます。週末の朝、すでに暑いですね。今日は外出前に「ことの葉綴り。」に向かうひとときです。


運命の出会いをした山幸彦と豊玉毘賣(とよたまびめ)は、
目出度く結ばれて、竜宮城で、仲睦まじく幸せに暮らしました。
三年が過ぎたある夜のことです。
山幸彦は、愛する姫との平穏で幸せな暮らしのあまり
すっかりと脳裏から忘れてしまっていた
自分がなぜ、海の竜宮城へ来たのか?
その深い理由を思い出したのです。

そうであった。兄の釣り針を探しているのだ……
とはいえ、この広い海の中でもきっとみつかるまいに……。

知らず知らずのうちひ、大変深い嘆きのため息をついたのでした。
妻である豊玉毘賣は、夫神のその嘆きぶりに驚いて心配になり
父である海の神の綿津見神に相談したのです。
綿津見神も、娘婿神の様子を聞いて、
それはただごとではないと、感じて
直接、山幸彦に聞いてみることにしました。

この三年間、竜宮城での、娘との暮らしを楽しまれていた御子どのが、昨夜、大きなため息をつかれていたと、娘から伺いました
何かございましたか? 
心配事がおありなら仰ってください。
そもそも、この竜宮城に、天つ神の御子どのがいらっしゃった理由はなんだったのでしょう?

綿津見神は、目の前に座る婿神の山幸彦を
じっと見つめながら、こう問いかけたのでした。

山幸彦は、義父の優しい配慮をありがたく感じました。
そして、意を決したように、これまでの経緯を
静かに語りはじめたのです。

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仲の良かった兄の海幸彦に、海と山の交換を持ちかけたこと。
そして、兄が大切にしていた釣り針を、魚に持っていかれ失くしたこと。
海幸彦は、怒り狂い、何度頭を下げて心から謝っても
「私の釣り針を返せ」
と、責め立て続けたこと。
大切な十拳剣で、代わりとなる釣り針を千個つくっても
「釣り針を返せ!!」とさらに逆上してしまったこと。

もう、どうしようもなく涙していたときに
塩土老翁神に出会い、竹籠の船を編んでくれて
「海の神である綿津見神の宮に行きなさい。そこの姫がよきにはかられってくれる」と、言われたこと……。


すべてを、目の前にいる義父の綿津見神さまに
打ち明けたのです。


綿津見神は、山幸彦さまの語るお話を
じぃ~っと耳をすまして聞いてくれていました

話し終わった山幸彦さまは、一柱(人)で抱えて背負っていたことを、聞いてもらったことで、どこか安堵したのでしょう。
ふぅ~っと息を吐き出しました。

綿津見神さまも、そんな娘婿神の姿に、頷かれました。

御子どの、そうでありましたか……。
天つ神の御子どのが、なぜ、この遥かな海の神の宮までいらしたのだろうと思っておりました。
そういうご事情があったのですね。
打ち明けてくださって、ありがとうございます。

さあ、お顔をお上げくだされ。

私が、何か力になれるかもしれません。
その釣り針は、魚がくわえて持っていってしまったのですね?
私が、調べてみましょう

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愛され信頼される資質

山幸彦さまは、義父の綿津見神さまといい
海の老賢人の塩土老翁神さまといい、
年上の年長者に、「傾聴」してサポートしてもらう機会に恵まれていますね。

これは、山幸彦さまの、素直さ、正直さ、まっすぐさ、ひたむきさ、真摯さが、相手にも伝わるからでしょうね。

私たち人間も、「傾聴」する側の資質も、
カウンセラーとクライアントの信頼関係を築くのに重要ですが、
そこに信頼関係ができた上で、クライアント側が、どれだけ心を開き、素直に心の中にあるものを吐露できるかも、大きい気がします。
カウンセリングやセラピーの場では、「素直」「正直」さというものが、とっても大切だと聞いたことがあります。

失意のどん底にあった山幸彦さまですが、
この年長者の賢人、海の神からの、
深い知恵と愛情で包み込まれての「傾聴」は、
どれほど、救いになったことでしょう。

愛する豊玉毘賣さまとも出会い、
平穏さ、愛し愛される喜びを味わえて、
山幸彦さまは、“幸せもの”ですね。
それを引き寄せたのが、素直さ、正直さ、ひたむきさの資質
きっと、これは私たち人間も同じように感じますが、
いかがでしょう?

人から信頼される、愛される資質が
「この人をなんとかしてあげたい」と人の心を動かして、
人生を佳き方へと展開させてくれる
のではないでしょうか……。
山幸彦さまのように……。

さて、山幸彦さまの物語に戻ります。

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魚さん会議で!

御子どの、私が調べてみましょう。ご安心なされ


そう仰ると、綿津見神さまは、すぐさま、海の中にいる
大きな魚、小さな魚と、魚という魚たちに
「すぐに集まれ」と、おふれを出されました。

広く大きな海のすべての魚たちに、海の神の「集まれ」という
おふれが広まり、竜宮城へと、すべての魚たちが呼び集められて、一堂に会しました。
何千、いえ何万匹も美しい大小の魚たちが集まりました。

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綿津見神さまは、集結した魚たちを前に
海をつかさどる神として堂々と、こう語りかけられたのです。


私の愛する魚、我が友、仲間の魚たちよ。
元気に泳いでおったか?

よく集まってくれたな。ありがたいぞ。

今日は、みなに聞きたいことがある。
この中に釣り針を呑みこみ、そのまま取って持ち去ったものはおらぬか?
非常に大事な話ゆえ、よ~く考えてみてほしい。
自分こそ、その釣り針を取ったというものは、
ヒレを上げてみせておくれ。

魚たちは、みな、綿津見神さまのことが大好きでした。

それぞれに、顔を見合わせて
「知ってる?」
「釣り針?」
「それは痛いね」
「探し出さなきゃ」

水中に、小さな泡をエラや口から吐き出しながら、口々に話始めました。
でも、だれもヒレを上げるものはおりません。

その中に一匹の魚のボラが、こんな声が聞こえてきました。

「そういえば、私のお隣にする赤鯛さんが、三年ほど前から、喉に魚の骨のようなものが刺さってしまい、『痛い、痛い。ものがとても食べずらい』と憂いて、毎日ずっと寝ております!!」

おお~、そうか!!

綿津見神さまは、大きく目を見開きそのボラをご覧になりました。

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―次回へ。

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