騙されたふり……神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。二〇七
伊波禮毘古の作戦は?
こんにちは。今日も仕事の合間に「ことの葉綴り。」のひとときです。
苦難続きの天孫の御子の伊波禮毘古の旅。
神の使者の八咫烏を道案内に
宇陀までようやくたどり着きました。
そこで、敵意をむき出しにして待ち構えていたのは
兄宇迦斯(あにうかし)でした。
お使いにきた八咫烏を弓で追い返し、
伊波禮毘古を騙しうちにしようと策略を練りました。
伊波禮毘古に仕えると嘘をついて、
御殿を建てると、その板の間に、圧死させるための罠を仕掛けたのです。
兄宇迦斯の弟、弟宇迦斯は、兄の謀略を知り、
危険を顧みず、伊波禮毘古にすべてを打ち明けました。
兄宇迦斯の策略を知った伊波禮毘古は、
すぐさま、配下の道臣命(みちおみのみこと)と大久米命(おおくめのみこと)を呼びよせました。
伊波禮毘古から指令を受けた道臣命(みちおみのみこと)と大久米命(おおくめのみこと)は、兄宇迦斯を呼び出すと、こう切り出しました。
兄宇迦斯よ
天孫の御子さまを歓待するというが
どうやっておもてなしをするのだ?
ぜひ、お前の建てた大きな御殿に案内してくれ。
そして、御子さまをどのようにもてなして
お仕えするのかを、実際に見せてもらおうか!
伊波禮毘古は、”騙されている“ふりをして、そのままの仕掛けを相手に返す作戦をたてたのでした。
兄宇迦斯の最期
さあ、お前がまずは御殿に先に入って
お仕えするさまを見せてくれ。
やってみろ!!
えええっ??
これまでの威勢はどこにいったのか、兄宇迦斯は、戸惑い恐れています
何をしているんだ?
おもてなしするんだろう?
これほど立派な御殿をたてて、いいことじゃ!
道臣命(みちおみのみこと)と大久米命(おおくめのみこと)。
一人は、腰の刀の柄に手をかけて、いつでも刀を抜ける構えです。
もう一人は、矛を振り、弓に矢をつがえて、じりじりと兄宇迦斯に迫っていきます。
いやぁ~あの~あの~。
なんだ?
何をしてるんだ?
さあ、早く入れ!
ヤバい。入ったらあの仕掛けで、自分が危ない!!
ヤバい……。
二人の配下のものの気迫を勢いに逃げることができず
兄宇迦斯は、後ずさりしそうになっています。
ほら、なんなんだ?
早く入ってどうおもてなしをするのか見せろ~~!!
怒号とともに、兄宇迦は、背中を押されて
御殿の中に突き飛ばされて追い入れられたのです。
次の瞬間です。
勢いよく御殿の中に入った兄宇迦斯。
自分が仕掛けた罠の床を踏んでしまいます。
自らが仕掛けたバネの勢いで、ものすごい巨岩が落ちてきて
兄宇迦斯は、圧死したのです。
そして、その亡骸は、その御殿から引きずりだされて
切り刻まれたのです。
これは、今の私たちからすると、目を背けそうになりますね。
古代では、遺体を切り刻むということは、この死者の復活を防ぐためにおこなわれたそうです。
ゆえに、そこは、宇陀の血原と言われます。
弟宇迦斯への信頼
一方、伊波禮毘古に、兄の謀略を明かした弟宇迦斯は、
御子たちを招いて、地元のもとたちをともに、豪勢な酒宴を開き、伊波禮毘古の家来となりお仕えすることになりました。
伊波禮毘古も、この宴で、これまで苦労を掛け続けてきた
一行の兵士たちをねぎらったのでした。
弟宇迦斯は、その後、宇陀の水取(もひとり)という役職の先祖となりました。これは、宮中の飲料水を管轄する役職。
水は生命の元、重要ポストですよね。
伊波禮毘古は、弟宇迦斯が、正直に勇気をもって告白したときの心情を理解し、信頼したのでしょうね、きっと。
―次回へ
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