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随想

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【企画案】本の解説アンソロジー

【企画案】本の解説アンソロジー

まえがき 書籍、とりわけ文庫本には大抵解説というテキストが本文のあとに収録されている。

 解説は様々な人が書いている。大体は(あらゆるジャンルの)作家だけど、評論家だったり漫画家だったり音楽家だったりする。
 最近読んだ本では、歌集の解説をある漫画家が書いていた。画風と同じ硬質で透明感のある文章で引き込まれたのを記憶している。

 本題に戻る。

 解説と言うからには、本文の内容に対する補足や説

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二〇二四年二月の振り返り

二〇二四年二月の振り返り

 普段こういう記事は書かないけれども、今月は内容の濃い日々を過ごしたので備忘録を残しておくことにする。

 一月に起きた衝撃的な出来事たちを引きずりつつ、原稿を進めようとしていた矢先に体調を崩した。咳と発熱で結局一週間ほど寝込んだ。

 だんだん動けるようになったところで、今度は精神が変調をきたした。実を言うとこの時期の記憶があまりない。Twitter(X)には頻繁に投稿していたようだけれど、書く

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短歌と評の関係

 猫も杓子も短歌の時代だ。

 様々な媒体で短歌が投稿され、それに評がつく。プロが素人の歌に、またプロがプロの歌に評をつける。

 短歌は短い。三十一音で完結する。

 だから本当に語りたい物事を記すために、極限まで言葉を削らなくてはいけない。自由な長さで言葉を使える小説とは決定的に違う。

 そのためか、短歌を読んだとき一見してその良さがわからないことがある。

 そこに評がつく。削られた言葉、

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創作時の私的イメージ

創作時の私的イメージ

 小説を書いているとき、頭のなかで起きていること。
 その視覚的イメージ。

 頭のなかに部屋がある。

 便宜上「楽屋」と呼んでいる大部屋だ。真ん中に机があって、私はそこに座っている。座って脚本を書いている。
 大抵、必死で書いている。うまく言葉が出てこなくて、逆に言葉が溢れ過ぎて、とにかく焦りながら書いている。書いては消し、消しては書く。

 周囲には登場人物たちがいる。楽屋だから当然だ。彼ら

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若さについて

若さについて

 まだ若いんだから、と言われることが多くなった。

 このセリフ、たとえば高校生や幼稚園児には言わないと思う。
 つまり、言うまでもなく若いと見做される時期を私は過ぎてしまったと言うことだ。

 若さは善であり老いは悪である、と昔は思っていた。それどころか自分が老いていくと言うことすらもうまく想像できなくて、今のままで年齢だけが積み重なっていくのだとすら考えていた。
 具体的な数字を書いたりはしな

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物書きの自信、小説への確信

物書きの自信、小説への確信

 タイムラインに流れてきたあるツイートが今回の発端になる。

 最初に無駄話をする。
 自分語りが嫌われるのではなく、人が話しているところに割り込んで自分語りをする不躾さが嫌われるのだと思う。
 自分語りは隙ではなく機を見てやるのが良い。たとえばこの文章のように、割り込む/割り込まれる余地のない note に書くとか。

 本題に入る。

 小説を書くこと自体は年齢がひと桁の頃からやってきた。イン

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書くという暴力

 私は小説を書く。悲劇や喜劇、ただ架空の日常の風景を切り取ったさりげないものである。時折、それを読んでくれた人が作品の感想を伝えてくれる。表現は様々だが概して「心を動かされた」と言う。喜んでくれた、と言い換えたほうが適しているかもしれない。

 最初はそれを純粋に喜んでいた。もちろん今だって嬉しい。
 その一方で、恐ろしく思っているのもまた事実だ。

 程度の差はあれ、他人の心、感情を動かせるだけ

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ラジオと偶然と深夜

 深夜に眠れず、パソコンのラジオアプリで過去の放送を聴き漁っていたときのこと。

 地元の FM 局にチャンネルを合わせたとき、「あをいめだまの小いぬ」という文字列が目に飛び込んできた。
 なんだって? こんな番組があったのか。すっかり見逃して(聴き逃して)いた。さっそく再生してみる。

 語り始めたのは女性だった。驚くほどに骨太で威厳にあふれた、それでいて威圧感のまったくない声をしていた。
彼女

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記憶の虚実

記憶の虚実

小説を書くとき、その場面が情景として見える、と人に説明する。
実はこの表現には齟齬があって、正確には「思い出している」と言ったほうが正しい。
昔行った遊園地、昨日すれ違った人、今朝食べた目玉焼き。そういう現実にあった、実際に体験した光景を思い浮かべるのと同様に、どこにも存在しない架空の情景、ありもしない記憶を再生している。

私の頭のなかには「記憶」とラベルのついた箱が存在し、そのなかには本当と嘘

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天領

 たとえば。

 いくら自宅の火の元を確認しても、隣家が燃えて巻き添えを喰らえば結局自宅は焼ける。そういうどうしようもないことが世の中にはある。
 わたしたちはそれらを防ぎようがない。だけど、だからと言って出かける前にガスの元栓を閉めたか確かめるのは無駄だと思えないし、思いたくない。
 どうしようもないことに対してはあまりにちっぽけな、それでも自分にできる精一杯の物事。わたしはそれに天領と呼ぶこと

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