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ショート小説まとめ

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オリジナルのショート小説をまとめています。科学を題材にしたものから、ノンジャンルまで。
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#日常

ニュータウン[ショート小説]

ニュータウン[ショート小説]

幼いころ週末に家族で出かけると、決まってニュータウンに行った。家から車で数kmの道のり。図書館に行ったり大型スーパーに買い物を待たされたり、ファミレスでご飯を食べたり。私は後部座席の左が定位置。帰りは疲れてシートに仰向けになる。

窓の外、夜空の中で左から右へ流れていく街灯のオレンジを見るたびに、ここは未来世界なのか宇宙都市なのか、いまが現実ではない気持ちになった。

どこかの星の地球そっくりに造

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【ショート小説】足元に見続けてきたものたち

【ショート小説】足元に見続けてきたものたち

子供のころ、日曜日、父とサイクリングに出かけた。家を出て河原の土手を走り、もうずいぶん遠くまできた。11月の木や地面の景色はすっかり茶色と灰色が増えてきた。住宅街の狭いアスファルトの道に降りようとすると、目の前に灰色のボロ雑巾が落ちていた。汚いなぁと思いながらそのすぐ脇を通って見下ろすと、雑巾と目が合った。

体を大の字に広げてぺちゃんこになった小動物がいた。何度も車に轢かれたんだろう、骨も砕けて

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わたしの日常が揺らいだ日[ショート小説]

わたしの日常が揺らいだ日[ショート小説]

高校2年の夏休みに出会った漫画は、救いのない道に進んでしまう姉と弟の話で、私は退廃的な世界観にのめり込んだ。周りに追い詰められていく姉と弟の展開に心を締め付けられながら、エアコンが無い自室で1ページずつ味わう私の顎と胸には汗があふれた。

秋の土曜深夜、眠れないことに諦めて布団から出る。昼寝しすぎたようだ。同じ漫画家の初期短編集を古本屋で見つけて買ったが、まだ読んでいない。

短編の1つめは、見た

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8月が終わったと感じるとき[ショート小説]

8月が終わったと感じるとき[ショート小説]

リモートワーク中の昼休み、隣町まで買い物に行く途中に橋を渡る。土手を眺めると、草むらのなかに赤色があった。彼岸花だった。

そうか、もう9月か。

もちろんカレンダー上9月になっていたことは知っているけど、家にこもっていると季節に疎くなってしまう。秋の花を見て、夏が終わったことを改めて思い知らされた。

今年の夏は遠出をしていないけど、ささやかな小旅行をしたり、有名店のかき氷を食べたり、メロンを一

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花柄の魔法瓶

花柄の魔法瓶

ルイボスティーを持ち歩いていた水筒を無くしてしまった。外出先で落としたらしい。300円ショップで買った、透明のボトルだ。

買い直すのももったいないので実家に顔を出して水筒を余らせていないか探してみた。すると、母がそういえばと台所の下をゴソゴソし始めた。

取り出したのは1Lは入るだろう大きな水筒。肩掛けの紐がついた、赤いコップのついたもの。そしてなにより目につくのは、側面がベージュ地にオレンジの

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