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記憶の図書館

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読んだ本の記録。
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#小説

わたしの人生をエンタメにするのは、

わたしの人生をエンタメにするのは、

エンタメ、いわゆるエンターテインメントが好きだ。

人々を楽しませる娯楽。
小説も映画もドラマもアニメも音楽も、みんな好き。

だけど、自分が「エンタメ化」されるのはあまり良い気がしない。

SNSの流行により、良くも悪くも「自分の人生を他人がエンタメ化」する事例が増えてきたように思う。

エンタメ化される代表といえばアイドルだ。そしてそんなアイドルの花形でもあるジャニーズに所属しながら小説家とし

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今という瞬間に集中して -ライオンのおやつ-

今という瞬間に集中して -ライオンのおやつ-

ライオンの家では毎週日曜日の午後3時にお茶会が開かれます。ゲストからの「もう一度食べたい思い出のおやつ」を毎週ひとつ忠実に再現するのです。

小川糸さんの『ライオンのおやつ』を読みました。

ここで言うゲストとはすなわちホスピスの入居者。
ライオンの家は瀬戸内にあるホスピスのこと。

主人公の雫は若くして余命宣告を受け、ライオンの家にやって来ます。

余命宣告。ホスピス。
その言葉を見れば悲しい物

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8月15日 会社はヒマ、なはずだった。

8月15日 会社はヒマ、なはずだった。

お客様も取引企業も休みなのに、何故…

そんな気持ちでお盆に出社する会社員の皆様にこそ楽しんでもらえる小説があります。何故ってこの小説はまさに8月15日、本来はヒマなはずの会社で起こるミステリーですから。

それが石持浅海さんの『八月の魔法使い』です。

主人公は洗剤メーカー株式会社オニセンの社員、小林拓真。経営管理部の主任で、同じ会社の企画部に勤める金井深雪と付き合っている。

8月15日。お盆

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おとなのためのやさしい物語

おとなのためのやさしい物語

元号が変わったことに対してあまり意識を向けていなかったものの「令和のはじめに読むのはとっておきの本にしよう」という気持ちだけは強く、本棚から自然とこの小説を手に取っていた。

さて、いしいしんじをご存知だろうか。

わたしが彼を知ったのは下北沢のヴィレッジヴァンガードだった。平積みされていた『ポーの話』に目が留まった。そのシンプルなタイトルとひらがな6文字の作者名、装丁に惹かれて文庫を手に取り裏の

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彼女はまだ、あの夜の中にいる。

彼女はまだ、あの夜の中にいる。

わたしはいま、一体どこにいるのだろう。

わたしがいるここは、夜の中、なんだろうか。

夜には、いろんな夜があると思う。

夜桜は美しいけれど、ちょっと不気味にも感じる。
花火やお祭りはわくわくするけれど、怪談は怖い。
遠回りしたくなる夜もあれば、すぐに帰りたい夜もある。
寒くなり、夜の長さは増して、気が付けば短くなっていく。

楽しい夜もあれば、心細い夜だってある。

心細くなるような夜を過ごし

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わたしは世界の歯車になれているだろうか

わたしは世界の歯車になれているだろうか

共感と拒絶が同居している小説だと思った。

第155回芥川賞受賞作
村田沙耶香『コンビニ人間』

「どれどれ」なんて軽い気持ちで読み進めていたら、お腹の底の方にじわりじわりと黒いものが溜まり始めて、なんだか嫌だなあと気付いていても目が離せなくて、黒いものが半分くらいまで膨らんだときには最後のページ。
わたしにとってそんな小説だった。

古倉恵子はコンビニバイト歴18年の36歳。
大学1年生の頃にオ

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さあ、音楽を始めよう。

さあ、音楽を始めよう。

数年前の書店。
平積みの本の中で目を惹く装丁と題名だった。

恩田陸『蜜蜂と遠雷』

読みたい!けど文庫化してからにしよう。文庫が出たら必ず買おう。
と、思い続けて早数年。
いつまで経っても文庫化はされず、けれどわたしの記憶からこの本が消えることも無かった。

まさか、同じくジリジリと待っていた母が待ちきれず先にハードカバーを買っていたなんて。
実家に帰ってこの本を見つけたときには思わず「うわあ、

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アオヤマ君のノートと、わたしのnote

アオヤマ君のノートと、わたしのnote

小学校4年生のアオヤマ君は多忙な毎日を過ごしている。

学校に行き、歯医者に通い、自分の研究をたくさん持ち、研究内容をノートに書き留め、おっぱいケーキを食べて脳のエネルギーを補充し、「海辺のカフェ」でチェスをする。
そして9時には歯磨きをすることすら忘れて眠ってしまう。

アオヤマくんの研究内容は多種多様だ。

「プロジェクト・アマゾン」は水路がどこから流れてくるのか水源を突き止める調査。これはウ

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