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【短編小説#1】今(いま) 

私の母は、「過去のこと」を語るのが好きだった。
「あの頃は良かったね~。」とか、
「あなたの小さい頃はこんなことがあって、そりゃあもう、可愛かったんだよ。」とか。

対して、私の父は、「未来のこと」を語るのが好きだった。
「将来のために、今勉強しなければならない。」とか、
「もっと考えて行動しなければだめだ。」とか、
「これからの時代は女性も男性も関係ない。」とか。

私には兄弟がいなかったから、両親は犬を飼ってくれて、
私の家族は、私と父と母と犬という構成だった。

そんな父母の言っていることが正反対の、両親の間で育った私。
過去も未来も半分半分で、ちょうどいいバランスで生きてこられたかというと、そうでもなく、
心の中にぽっかり穴が開いたような、そんな気持ちになる事が、たまに起こるのだった。
そんな時には、飼っている犬のところに行くと、全身でその喜びを表現してくれるから、安心できたし、満たされた気持ちになった。

母親の言いつけは守っていたし、父の話も真剣に聞いた。
どちらかと言えば、この世界の人々の中では、努力をしている部類に入る人間だと自分自身でも感じていた。
成績は、トップではないけれど、常に上位には入るし、
「あの子は頭いいよね。」なんて言われている存在なんだと自負していた。

未来、過去を充実させるため。
友達とも、うまくやっていたし、両親ともうまくやっていた。
世間的に反抗期だという時期も波風が立つことはなかった。

名の知れた、企業に就職もして約1年経ったころ、仕事にも慣れてきた時に、彼氏が出来た。
彼氏も、名の知れた企業の会社員。将来は安泰。
趣味も価値観も似ていたし、何より胸を張って親に紹介できること。
それが、付き合う事の一番の理由だった。
「将来はどうしようか?」なんて話もたまに出る。
私はこのまま結婚するのかな?なんて思ったりもした。

そんな時に、携帯で「愛」を測るアプリを見つけた。
人に向けて計測すると、
その人の「愛」は何から出来ているのか?
が測れる仕組みになっているらしい。

アプリの説明には、
「愛とは、人、又は、生物から受けた影響です。
測定したものの愛は誰から影響を受けたものか?
その割合が表示されます。
尚、5%未満についてはその他として表示されます。」
という説明書きが付け加えられていた。

私は、まず、
彼に向って、そのアプリを使ってみることにした。
操作は簡単で、測りたい人の身体に向けて、携帯のカメラを向けて撮影するだけ。
結果は、円グラフになって表示される。
私は、アプリを起動して、携帯電話を彼に向けて撮影した。
彼の「愛」が、誰を元にして出来上がっているのか?
円グラフになって表示される。

彼の「愛」の割合は多い方から、
母  75%
父  11%
祖母  6%
その他 8%

という結果だった。
私の期待とは違う結果。
彼の愛の割合は、
私が、一番だと思っていた。
でも結果は違っていた。
まあ、ただの携帯アプリだし、そんなもの測れるわけがないことは、知っている。
笑って済ますはずだった。
でも、期待とは違っていたから。
なぜ、私がないのか?
が心に残った。
彼に「マザコンじゃん。」って声を掛けた。

今度は、私の番であった。
彼氏に、携帯を渡して、私を撮ってもらった。
携帯の画面に、円グラフが出る。

私の「愛」の割合は多い方から
犬   82%
母    8%
その他 10%

という結果。

彼は、「犬だって。」と言って、笑っていたし。
私も、もちろん笑った。

私も彼も、お互いに、自分の「愛」の中に相手がいなかったのだけれど、
気にならなかった。

そんな風にして楽しむアプリなんだろうと思った。


先日、実家の犬が亡くなったと聞いた時。
そのアプリのことを思い出した。
私の「愛」は8割が犬だったこと。
あの時は、笑って済ませたけれど、それが本当だとしたら。

私の「愛」の8割の原料がこの世からいなくなってしまったという事になる。
そう考えると、涙が出て止まらなかった。

母は、相変わらず、過去の話が多いのだけれど、父の影響を受けたからなのか、最近は、私の結婚の話や、孫が欲しいという未来の話をするようにもなった。

父はというと、単身赴任で、ほとんど会う機会がない。
たまに電話で話をすると、
「結婚は?将来は?」って、やはり未来の事だった。
「働き盛りの父らしいや」と、私は思った。

今、付き合っている彼は、仕事柄なのか、
何よりも、一番に、今を考える人だった。
仕事は自営業。写真を撮る仕事。
いわゆるカメラマンである。
様々な人、景色、物を撮って仕事にしていた。

彼が言うには、
「写真は、その瞬間。その瞬間の今。それを最高に撮る。」
「過去とか未来は関係ない。その瞬間の今を輝かせる。その瞬間に命を懸ける。その積み重ねが一生になる。だから一生が輝くんだ。」
という事だった。

彼から、私は、様々なことを学んだ。
もちろん、彼と一緒にいるときには、彼は写真を撮るときのように、
私の一瞬一瞬を、命を懸けて見てくれていて、
私もそれを感じることが何より嬉しくて、
私もそれに応えるように彼を見るようになった。

過去の事ばかり話す母と、未来の事ばかり話す父の下で育った私からすると、とても新鮮な毎日だった。

毎日が、新しいことの発見で、目の前の景色が全て変わったように感じた。
見ている世界が輝いて感じるように思えた。

今、あの時のアプリを思い出して、再度ダウンロードしてみた。

彼に向けて、使ってみる。

彼の「愛」のデータは、
彼女  75%
母   12%
父    8%
その他  5%


私の「愛」はというと、
彼氏  90%
犬    6%
その他  4%

だった。

あの時みたいに、笑えないけど。
「いま」が、幸せだった。

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