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アメリカ企業と日本企業の違い

雇用関連の話しで最近よく耳にするのは、アメリカ企業は「ジョブ型」雇用で日本企業は「メンバーシップ型」雇用だという話です。ジョブ型というのは「職務に人を割り当てる」という発想をベースに、職務の価値(および仕事の成果)に基づいて処遇を決めるという発想です。メンバーシップ型というのは「会社の一員(メンバー)としての個人に仕事を割り当てる」という発想をベースに、就いている職務ではなく個人の能力や成果に基づいて処遇するという発想です。特にメンバーシップ型については色々な意見がありますが、これまでの日本企業に多くみられた「職能資格制度」を、このメンバーシップ型の典型ととらえる人が多いと思います。コロナの影響で在宅ワークなどが増え、従来のメンバーシップ型雇用では限界が来ており、日本企業もジョブ型に移行すべきといった論調も良く目にするようになりました。

私も基本的な方向感としては、日本企業もいわゆる「ジョブ型」に移行していく必要があると考えていますが、その前提としてアメリカ企業と日本企業とでは、「企業というものについての捉え方(企業観)」がまったく異なるケースが多い、ということを理解しておく必要があると感じています。単純に制度の違いでは片づけられない要素を含んでいると思うのです。

前提として、アメリカにおいては、企業は「機能の集合体」として捉えられているケースが多いと感じます。会社は全体として何らかの価値を発揮する装置(機械)であるとして、個々のパーツである機能(職務)が集まって会社が構成されているという考え方です。当然、個々の機能(職務)を全体の一部としてうまく機能するようにしっかりと設計する必要があります。どの部分にはめ込むのか、どの機能と一緒に活動しなければならないのか、どのような役割・責任を果たすべきなのかといったことがきちんと決められていないと、ひとつひとつの機能(職務)同士の歯車がかみ合わず、全体の装置がうまく働かないことになります。必然的に個々の機能(職務)ごとの役割・責任を明確化した「職務記述書」が精密に作られることになり、その職務に就いた個人は、どれだけその「機能をうまく果たせたか」が成果を測る物差しとなるわけです。

これに対して日本では、企業は「ヒトの集合体」として捉えられていると感じます。全体の目的やゴールがあったとして、それを個人ごとにきちんと役割・責任を割り振るよりは「あんじょうやる」ことで何とかしようとします。互いの阿吽の呼吸で役割分担を行い、得手不得手を互いにカバーしながら全体としての成果をあげられるように全員が努力します。時期によって役割分担が変わったりするのは当たり前ですし、役割分担が曖昧である以上、成果や責任の所在も曖昧です。お互いの「息が合う」ことが何よりも大事で、自然発生的なチームワークで仕事に当たります。私は日本企業のこういった形態を「テレパシー経営」と呼んでいます。いわゆる「空気を読む」スキルが重視されることも特徴です。お互いが何も言わずとも自然に協力しあえる関係を作り上げている姿は、アメリカ企業からすると超能力があるとしか思えないでしょう。

なぜこういった違いが生じるのかは様々な要因があるため一概には言えませんが、日本は基本的には同質性の高いモノクローム社会であり、少なくともアメリカほどの多様性がないことが大きな要因だと考えています。日本社会における個人間の能力格差が例えば5~10の間だとするとアメリカのそれはマイナス5~プラス20くらいあるのではないでしょうか。日本では考えられないくらい能力、勤労意欲などの低い人もいれば、信じられないくらい優秀で聡明な人もいます。しかも白人だけでなく黒人、アジア人、ヒスパニック、中東系などありとあらゆる属性の人が暮らす多様性にあふれた社会です。

日本においては受けてきた教育や育ったバックグラウンドの多様性と言ってもたかが知れていますが、アメリカでは圧倒的な多様性というか格差や違いがあるわけです。日本人同士が前提として共有している価値観などはアメリカでは全く通用しません。従って、自然発生的なチームワークなどと言ったものは端から期待できませんし、日本においては考えられないようなすれ違いや認識ギャップ、誤解などにより、会社が危機に陥るような事態が発生しかねないわけです。

だからこそ、アメリカにおいては何よりも業務の「仕組み化」が重要となります。誰がやろうと同じような結果となるような職務の設計、協働のあり方の規定、またそれを社員に課す仕組みと信賞必罰のルールなどの制度がなければアメリカの会社は成り立ちません。それこそ互いの「テレパシー」に期待していたらあっという間に会社が崩壊してしまうわけです。

これらの点は良い悪いではなく厳然と存在している違いですから、ジョブ型が良いと言って日本企業においてアメリカ型の人事の仕組みをすぐ取り入れてもうまく行くはずがありません。日本人が自然に持っている「(日本ならではの)会社観」の存在を無視しては、うまく機能する人事の仕組みが出来るわけがないのです。

こういった違いを前提に、これからの社会のあり方がどうなるのか、どのような会社にしていきたいのか、会社としてどのように社員を処遇していくのか、しっかりポリシーを定めたうえで人事のあり方を考えていくことが大切だと思います。

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