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シンギュラリティな話(その4):GNR

前回から、(技術的)特異点(シンギュラリティ)について触れています。

何が特異点なのか、特異点がどのような影響を私たちの生活に与えるかについて触れることが重要です。

カーツワイルは、自著「シンギュラリティは近い」で、上記の収穫加速法則に基づき、特異点に向かう進路を提言しています。

しかし、この進路が予測通りに進むかどうかは分かりません。ですから、私たちは、自分たちが想像できないような未来に備えるように努める必要があります。

この点について、彼の著書では以下の5つの提案があります:

  • エポック1:物理と化学

  • エポック2:生命

  • エポック3:脳

  • エポック4:テクノロジー

  • エポック5:テクノロジーと人間の知能の融合

  • エポック6:宇宙が覚醒する

各エポックの成果を元に、次のエポックが生まれる連鎖的な流れで、シンギュラリティはエポック5の中で起こるとしています。

ただ、この流れをそのまま深堀しても怪しさを植え付けるだけなので(特にエポック6)、今回はこのアイデアの基盤としている科学的な予測を中心に記述します。
ジャンルで言えば、人工知能に加えて、下記のGNRで構成しています。

  • G:ゲノム(遺伝子工学)

  • N:ナノテクノロジー

  • R:ロボット工学

個々のトピックだけでなく、これらを複合した新しいコンピューティングについても書籍内で言及しています。

今回は、そのうち2つの分野に絞ります。

まず、「ナノコンピューティング」。
要はナノ(10のマイナス9乗)スケールで計算可能な仕組みの総称です。書籍内では、IBMやNTTのナノチューブ回路設計の取り組みについて言及していますが、今の最新研究はそれを凌駕しています。

そしてもう1つ、ナノチューブという素材を活用するほかに、数個の分子を用いた「分子コンピューティング」について言及しています。これは、上記の遺伝子工学にも関係します。
原子を用いてPCのハードドライブを模倣する「原子メモリドライブ」や、電子スイッチの代わりに分子内のエネルギーレベル可変を用いる研究などを紹介しています。

これらは、今でも進歩している領域です。過去に取り上げた投稿記事を紹介しておきます。

このテーマをもう少し補足すれば、種の保存を担う遺伝子貯蔵庫であるDNAは、4種類の塩基配列で構成され、デジタル的にふるまいます。
本書ではPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を例示し、そのコンピューティングとしての可能性を論じています。

さらには、今盛り上がりつつある量子コンピュータ(つまり電子のスピンを活用)についても言及しており、今読んでも色あせません。
こういった、我々人間から見たら外部のコンピューティングの発展を、最新成果を添えつつ今後の伸びを予測します。

次に、人間自体の能力について、上記との比較可能性について論じ、どこまで迫れるかを描きます。
こういった機械(人間の外部)と人間自体のコンピューティングがどこかで融合していき、知能が飛躍的に高まった先に特異点があるというわけです。しかも、ご丁寧にその限界についても言及しており、以前にもふれたエネルギー効率化問題について例示しています。

上記内を読めばわかる通り、今回取り上げた内容はファインマンの思考と似ており、実際本書内でも取り上げられています。(厳密にはその先達はジョン・ジョン・ノイマンとも)

最後のロボット工学については、主にソフトウェア、つまり「強いAI」について言及しています。
シンプルな例として、脳を模倣するアプローチの発展を指摘しています。
この時点(2007年)では、丁度深層学習の論文が出たばかりで、世間に知れ渡った2012年の画像コンテスト前の夜明けにあたります。ただ、カーツワイルであればこのニューラルネットワークの研究動向は知っていたと推測されます。

本書より、関係する箇所を引用しておきます。

「脳はその戦略の一部として、最初から知識を固定コード化するのではなく、情報を学習していく。(中略)学習は、AIにおいても重要な側面になる。文字認識、音声認識、財務分析用のパターン認識システムを開発したわたしの経験からすると、AIに学習させていくことは、エンジニアリングの中でももっとも難しく、かつ重要な部分だ。文明の進歩とともに蓄積された知識がインターネットでますます入手しやすくなっていることを考えると、将来のAIは個の知識の巨大な集合体にアクセスして学習するようになるのだろう。」

出所:「シンギュラリティは近い」

まさに、ChatGPTをはじめとする今の大規模言語モデル(LLM)を連想してしまいます。

そして、カーツワイルは、今でも脳の研究も含めて「強いAI」を目指しているといわれています。

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