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女子小説のお部屋

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女子による女子のための小説 会社帰りに、休日前夜に、シュワシュワを飲むように
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2017年9月の記事一覧

同期でいたい あとがき

思いがけず、長くなった恋愛小説でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。

途中、この妄想引かれない!?と不安になりましたが、コメントやスキに本当に勇気づけられアップし続けることができました。ありがとうございます。

この話を書いたきっかけは、ドラマのコード・ブルーでした。
「同期のよさ」みたいなのがテーマの回があって、
(あーいいよね、彼ら同期感!でもこういうの、恋した時点で関係性

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同期でいたい 14(最終回)--同期--

ミノリの披露宴後、私は、出社してもただ座っているだけだった。あのプロジェクトは同じ部署の佐藤さんに半分投げ、支店が出さない資料は後輩に督促させた。

仕事をするつもりもないのに、家に帰りたくなくて遅くまで会社にいつまでも居座った。

今日も、薄暗いフロアで、机の引き出しに入れた、クリーム色の小鳥キーホルダーを取り出す。相変わらずふわふわとしていて可愛いかった。
社用携帯は、このキーホルダーをは

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同期でいたい 13--告白--

「何してんの?」
出来るだけ冷たく、私は高木に言った。
「いや。住んでたとこ、懐かしくなって」
高木は言ってこちらに歩いて来る。

「ナツキは?」
「…これ、返す」
小鳥のキーホルダーをはずして、高木に突きつける。
「それは、お前にやったやつだろ。要らないなら勝手に捨ててけ」

ムカつく。これほど、ムカついたことはなかった。

「高木のこと、好きだった」
怒りたいのに、出した声は震えていた。
本当

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同期でいたい 12--目線--

ミノリの披露宴は、都内の式場でつつがなく行われた。席は同期女子と男子で別れていたので、高木とは一度も話さなかった。

デザートビュッフェが振舞われた時間、外の喫煙コーナーで、高木はぼうっとタバコを吸っていた。
色とりどりのケーキをお皿に取りながら、その姿を盗み見る。それまで見ないように気をつけていたから、その日はじめてしっかりと高木を見た。高木は、何にも変わっていないように見えた。

二次会は、会

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同期でいたい 11--報告--

あっという間に季節が流れて、ミノリの披露宴まであと少しになった。

高木とは時々ラインをしていたけど、お互い忙しいのと、共通の話題が特にないので、ここ数ヶ月、連絡は途切れがちだった。

披露宴参加の返信ハガキを送り、ドレスを新調して、美容院の予約を入れる。

第一の目的は、ミノリのお祝い。だけどその裏で、私は一つの決意を抱えていた。

***

「黒野先輩、木原さんって同期でしたっけ」

はっと

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同期でいたい 10--リング--

「いつ向こう行くの?」
「今日明日で引っ越し準備して、明後日かな。午前中あいさつ周りして、午後から向こうに行く」
映画館で上映前、そんな話をした。

次の日、「急にお休みしてすみません」と出社した私に、課長は何も聞かなかった。

***

そうして、高木の本社最終日になった。
「帰る前に、フロアまで会いに来て」
そうラインで送っておいたのに、返信は無かった。

各階上から回って来たのだろう。高

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同期でいたい9-3--デート?--

映画の時間まで、軽めのお昼を食べて、お店を見てまわる。

高木は「奈良の部屋は、今と変えたくてさー」なんて軽く言いながら、インテリアショップを見たがった。

今は、遠くに行ってしまうことを忘れていたいのに。繋いだままの手をぎゅっと握った。

「これ可愛いー」
お店の隅に置いてあった、小鳥のふわふわしたキーホルダーを見て私が言うと、高木は「はぁ?」と言った。
「ナツキいくつだよー」
「いいじゃん。可

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同期でいたい 9-2--手--

三駅向こうの、大型ショッピングモールに行くことにした。会社の人が出社しきった時間になってから、家を出て電車に乗る。

「お前、逆むけできてるじゃん」
電車のポールを持った私の手を見て、高木が言った。
「あ」
ぱっと手を自分の後ろに隠した。最近忙しくてネイルも塗ってない。逆むけを指摘されるなんて恥ずかしすぎる。

「女子力どこ行ったー乾燥したらよくないぞー」
高木は顔を覗き込んで、にやっと笑う。

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同期でいたい 9-1--朝--

どこか遠くでピピピと音がする。それが止まったかと思うと、ガツンと頭に何かあたった。
「いたっ」
「あ、悪い。こんな近くにいると思わなかった」
目覚ましを止めた高木のひじが、私の頭にあったらしかった。高木は頭をなでながら、
「こんな、近くにいたんだよなー」
ともう一度言った。

実は私は、ほとんど眠れなかった。
高木が寝ているのかどうかよく分からなかったけど、ずっと私はその腕の中か胸の横あたりに

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同期でいたい 8 --お泊り--

私はホームのベンチで、ぴんと背をのばして座り、電車を見送った。
酔っているわけじゃない。間に合わなかったわけじゃない。ただ、乗らなかった。

しばらく時間が立ってから、すっと立ち上がり、駅員さんにカード処理をしてもらうと改札を出た。

駅を出ると夜風が心地いい。
公園を通りぬけて、裏にあるマンションに向かう。エントランスがぼんやり光っていた。
電子板の前でしばらく考えて、4桁の数字を押すと扉は開い

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同期でいたい 7--送別会--

気持ちの整理がつかない内に、高木の異動日は近づいていく。
私が企画したプロジェクトは、高木の代わりに彼の後輩を迎えて、ちゃくちゃくと進んでいた。高木は高木で、引き続きで忙しそうだった。

左遷ということで、あまり大々的には出来ないけれど、本社同期と、高木と特に仲のいい先輩後輩を誘って、送別会を私が企画した。

何もせずに送り出すのは、悲しく思えた。本当は二人でご飯くらい行きたかったけど、そんな時間

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同期でいたい 6 --非常階段--

プロジェクトの話を進めたいのに、いつフロアを覗いても、高木は営業部の部長や課長に囲まれていた。
時には、常務まで顔を出していたりする。

「なんか忙しいのかなー」
不満に思いながらも、他にも進めることがあり数日がばたばたと過ぎていった。

〈辞令〉その題名でPDFが配信されたとき、変な時期に辞令が出るなと何の準備も無しにファイルを開いた。

高木陽太、という文字がいきなり目に飛び込む。何度

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同期でいたい 5

「えっ本当ですか?企画が通った?」
町田課長の前で、私は手で口を覆った。

「よかったな、頑張ってたもんな」
「あ、あの!メンバー入れたい人たちに、伝えてきてもいいですか」

課長は「たち、ね」と笑った。
「まぁいいけど。ほら、行ってこい」

ばさっと「承認」のスタンプが押された企画書を渡され、私は急いでフロアを出た。

階段を下りていると、本当にタイミングよく、高木が階段を上って来ていた。

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同期でいたい 4

 週明け月曜日の昼前、社報が配られ、開くと高木が言っていた通り、「今月の幸せお裾分け♡コーナー」に、ミノリの結婚報告が乗っていた。

ハワイ挙式の写真が載っていて、苗字が横峯から木原に変わっていた。キハラミノリか…。こういうのを見ると、つい想像してしまう。

〈タカギ ナツキ〉
社報の空いたところに、こっそりそう書いてみて、うーんとうなった。どうだろう?じゃあ、婿養子だったら?
〈クロノ ヨウタ〉

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