同期でいたい 6 --非常階段--

プロジェクトの話を進めたいのに、いつフロアを覗いても、高木は営業部の部長や課長に囲まれていた。
時には、常務まで顔を出していたりする。

「なんか忙しいのかなー」
不満に思いながらも、他にも進めることがあり数日がばたばたと過ぎていった。

〈辞令〉その題名でPDFが配信されたとき、変な時期に辞令が出るなと何の準備も無しにファイルを開いた。

高木陽太、という文字がいきなり目に飛び込む。何度もなんども、見慣れた名前だ。

その横には、〈奈良営業所 営業課に任ずる〉と書いてあった。

私は唖然とその文字を見つめる。本社から、何の役職もなしに、地方…それも支社ではない営業所に回されるのは。

「いわゆる左遷、だよな」
いつの間にか、町田課長が後ろからパソコンを覗き込んでいた。
「ご存知だったんですか?」
辞令の噂なんて、たいてい漏れ聞えるのに、全く知らなかった。

「常務が押してた、大型の案件を落としたらしい」
課長は静かにそう言い、私の肩を叩いて席に戻ってしまった。

私は、がたんと立ち上がってフロアを飛び出した。階段を下り、営業部フロアに高木を探すが、どこにもいない。

***

そのまま、廊下を反対に歩き、外の非常階段に続く扉を開ける。ぶわっと風が吹き込んできた。

「おーナツキ」
腕を壁からだらんとたらして、高木はタバコを吸っていた。
高木がタバコを吸うのは、麻雀のときと、ストレスがたまっているときだけ。久しぶりにそんな姿を見た。

「ナツキも吸う?」
箱を傾けられて、私は首をふった。
「ねぇ、大型案件落としたって…。なんでペーペーのあんたがそんな案件任されてたの?」
いくら高木が仕事できるからって、まだ四年目だ。課長から話を聞いてからおかしいと思っていた。

「…本当は先輩の担当だったんだ」
高木はぼんやり言った。
「プレゼン当日、風邪ひいたって先輩来なくてさ。俺が、サブできっちり把握できてなかったのが悪かったけど」
「先輩は…逃げたってこと?その先輩はお咎めなしなの!?」
ふーっと高木は煙を吐き出す。
「その日から、来てないよ」
出社拒否、うちの会社では時々あることだった。

「高木のせいじゃないじゃん」
言うと、高木は、ふっと笑った。
「まぁ俺は、いつかはここ辞めて、山形帰って家継がないといけないんだから。左遷されたっていいよ、別に」
「そんなの、やだよ」

私がつぶやいたのを、打ち消すみたいに高木は言った。
「大丈夫だって!そんな心配するな。お前のプロジェクトは、ちゃんと引き継ぐからさ」
高木は、タバコをもみ消すと、じゃあ、と非常階段から出て行った。

つづく

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(高木はベタオリの貴公子)
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