同期でいたい 13--告白--

「何してんの?」
出来るだけ冷たく、私は高木に言った。
「いや。住んでたとこ、懐かしくなって」
高木は言ってこちらに歩いて来る。

「ナツキは?」
「…これ、返す」
小鳥のキーホルダーをはずして、高木に突きつける。
「それは、お前にやったやつだろ。要らないなら勝手に捨ててけ」

ムカつく。これほど、ムカついたことはなかった。

「高木のこと、好きだった」
怒りたいのに、出した声は震えていた。
本当は、こんな風に言うはずじゃなかったのに。

高木は、はーっと息をついて、ひたいを押さえた。
「なんで……言うんだよ」

「気づいてたでしょ!?私が好きなことくらい」
私はもう、こらえられずに泣いた。そんなことをしたって、もうどうしようもないのに。

「でも、転勤で離れたから。これで忘れるかなと思った」
高木は言った。苦しそうな顔をするのが、余計にムカついた。
「これでよかったと思った。ナツキとは、同期でいたかったから」

私が同期の関係から抜け出そうと必死になっていたというのに。
その反対側で、高木は同期の関係のままでいようと必死になっていた。

「じゃあ…こんなキーホルダー残したり、部屋泊めたり、二人で飲みに行ったり、優しくしたり、するな!そんなの全部いらなかった!」
涙が止まらずに、呼吸が浅くなって苦しかった。

「そうだな…」
高木はそうつぶやくと、黙った。
マンションの前で、しんとした時間が、過ぎて行く。私が泣くのを抑えようとする声だけが響いた。

高木は、それに耐えられなかったのか、タバコの箱を取り出した。
それを見て、私は一気に冷静になった。

「吸うのやめなよ…。赤ちゃん産まれるんでしょ」
「…そうだな。…ナツキは、いる?」
高木は箱ごとこちらに傾けた。私は首を横にふる。

「俺、もうすぐ会社やめるから」
タバコをしまって、高木は言った。
「このタイミングで、親倒れてさ。山形帰らなきゃ。家継ぐわ」
奥さんになる人をつれて、遠くに帰るらしい。

私が黙っていると、高木は「一個聞きたいんだけど」と続けた。

「ナツキは、俺と山形に来れた?」

分からない、と私は小さく言った。
ふっと高木は笑った。私が好きな笑顔だった。

「俺は、ナツキにはこれからも会社続けてほしい。頑張ってるの見てたからなー」

私は、ふわりとキーホルダーを手の中で触った。
高木がいたから頑張れていたのに、そう言いかけて、やめた。

「俺が言える立場じゃないけど、仕事、頑張ってな」

高木を置いて、私は終電で家に帰った。

つづく


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