同期でいたい 4

 週明け月曜日の昼前、社報が配られ、開くと高木が言っていた通り、「今月の幸せお裾分け♡コーナー」に、ミノリの結婚報告が乗っていた。

ハワイ挙式の写真が載っていて、苗字が横峯から木原に変わっていた。キハラミノリか…。こういうのを見ると、つい想像してしまう。

〈タカギ ナツキ〉
社報の空いたところに、こっそりそう書いてみて、うーんとうなった。どうだろう?じゃあ、婿養子だったら?
〈クロノ ヨウタ〉
うん、これ、なかなかいいかもしれない。

「うわ、やばいなーほんまこわいわー」
後ろから声が聞こえて、「ぎゃっ」と叫んで社報を裏返した。

「まだそんな中学生みたいな関係続けてはるの?」
「ミノリ…!?何で本社にいるの、変な関西弁やめてよ」

社報の、ウェディングドレス姿ではにかんでいるのとは別人のように、パンツスーツにすっとしたきつい目をして、ミノリは登場した。
ミノリは一年目の研修以来、大阪支店に配属されている。

「ちょっと本社のお偉い方々にあいさつしに。まぁ私のことはいいけどさー、あんたもいい加減にさー」
「ちょっと待った!ランチのときに話そう」

急いでミノリの口をふさぐ。ミノリは仕事はできるくせに、なかなかに空気が読めないコで、業務中のフロアで色々と言い出しそうだった。


昼休憩に、残業の振休を一時間プラスして、挨拶周りが終わったミノリとランチに出た。

創作フレンチの店に行く。炭酸水でだけど、乾杯した。

「結婚おめでとー」
「ありがと。国内でも披露宴するから、来てね」
「関西でするの?」
「いや多分こっちで。相手も、こっちの人なんだよねー。だからその内私も、タイミングあれば東京に戻ってくると思う」
そういう人を選ぶあたり、ぬかりないな、と思う。

「高木ってどこの人だっけ?」
思わぬ流れ弾が飛んできて、動揺した。でもミノリに隠したって仕方ない。
新入社員の研修のときから、私が高木のことをどう思っているかなんてばれてたんだから。私が自分で気が付くよりも、先に。

「えーと。高木はね、山形の人」
「の?」
「米農家」
「の?」
「妹二人アリの長男」

はーあ、とミノリは大げさに、背もたれに倒れ込んだ。

「ずっと東京育ちのナツキが、そこに嫁げる?」
私たちもうアラサーだよ、現実的に考えたら、と続ける。

「そんなの分からないよ。まだ。付き合ってすらないのに」
「本当に何もないの?飲みに行ったりはしてんでしょ?」
「……ない、何も」

「ナツキなら」
ミノリは品定めするように、私をじりっと眺めた。
「二人切りでいて、男の人がほっとくことはないと思うんだけどなー。高木、実は女には興味ないのかなー」
「それも思ったことあるけど、高木、アイドルは好きだしさ」
「あーそっちなのかなぁ」

どっちなのかはよく分からないけど、とにかくミノリからすると、今の状況はオカシイらしい。せまってみれば?とけらけら笑うが、これからも同じ会社で働く同期にそんなことできるわけがない。

もし気持ちを伝えて、今みたいに話せなくなったら…。もう私は仕事を頑張れないだろう。この前みたいに、飲みに誘ったり、終電を逃そうとしてみたりするので限界だ。

「あ、私さ」
デザートを食べ終わって、ミノリはなんでもないように打ち明けた。

「地域総合職になることにした。ひとまず関西で。今日はその面談で本社に来たんだ」
「そっか…」

結婚して、総合職で続けるのはきついと判断したそうだ。

「ナツキは、がんばってよね」
同期入社は、どんどん減っている。特に、女の子の総合職は、あと何人いるだろう。ミノリのように地域職になったコも、辞めてしまったコも多い。

「うん…」
私もいつまで頑張れるかな、と考えた。高木がいる内は、それを支えに頑張れそうだけれど。

つづく

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(キュン要素しばしお待ちを)

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