同期でいたい 8 --お泊り--

私はホームのベンチで、ぴんと背をのばして座り、電車を見送った。
酔っているわけじゃない。間に合わなかったわけじゃない。ただ、乗らなかった。

しばらく時間が立ってから、すっと立ち上がり、駅員さんにカード処理をしてもらうと改札を出た。

駅を出ると夜風が心地いい。
公園を通りぬけて、裏にあるマンションに向かう。エントランスがぼんやり光っていた。
電子板の前でしばらく考えて、4桁の数字を押すと扉は開いた。

…ここは会社に近いので、新入社員のころはみんなでよくたまり場にしていた。そのときに暗証番号を覚えたのだ。そして、部屋がどこかも。

3階の一番端、ふうと深呼吸して、私はインターホンを鳴らした。

「何?」
扉を細く開けて、高木は不機嫌そうに言った。
「終電、乗れなかった」
そう言うと、はーっと大げさなため息をつくと中に入れてくれた。

もうTシャツ半パンに着替えている。
高木の部屋は久しぶりに入ったけれど、相変わらず物は少なくてほとんど生活感がない。寝ようとしていたのか、部屋はうすぐらかった。

高木は、うつ伏せにベッドに倒れこむと、ふとんを頭からかぶってしまった。はーっとまたため息をつく。
「お前は、ほんっとにめんどくさい」

本当なら、終電に間に合ったことがお互い分かっているのが気まずかった。
置いてけぼりになった私は、ベッドの横にペタンと座り込んで、ぼうっと暗闇を眺めた。

「来いよ」
声がして、はっと顔を上げると、高木がふとんをちょっと上げてこっちを見ていた。
「いいよ、私、床で寝るから」
もう私は後悔しはじめていた。あんなに面倒くさがられるなら、やっぱり帰ればよかった。

「いいから、来い」
腕をひっぱられて、ベッドに上げられていた。

すぐそこに、高木の顔があった。暗い中に、目がうるっと光って見える。
「女の子を床に寝かせられないでしょ」
「…じゃ、高木が床で寝れば?」
「なんで家主が床で寝ないといけないんだよ」

こんなところで、まだケンカしているのが私たちらしいと思ってクスっと笑った。

高木が、ぎゅっと抱きしめてきた。
「今日はありがとー」
私は高木の胸のところに顔をつけたまま、こくこくとうなずくしかなかった。

強くもう一度抱きしめられて、髪をくしゃっとなでられた。ぎゅっと目を閉じる。
規則的で細い息が、ずっとひたいに当たっていた。

つづく

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