同期でいたい 9-2--手--
三駅向こうの、大型ショッピングモールに行くことにした。会社の人が出社しきった時間になってから、家を出て電車に乗る。
「お前、逆むけできてるじゃん」
電車のポールを持った私の手を見て、高木が言った。
「あ」
ぱっと手を自分の後ろに隠した。最近忙しくてネイルも塗ってない。逆むけを指摘されるなんて恥ずかしすぎる。
「女子力どこ行ったー乾燥したらよくないぞー」
高木は顔を覗き込んで、にやっと笑う。
「ほっといてくれるかなぁ」
そう顔をそらすと、手首を握られて、手を目の前に引っ張り出された。
「わ、何⁉︎」
「えーっと、あった」
高木は、私の手をとったのと、反対の手で器用にボディバックからハンドクリームを取り出す。
「男用だけど、ま、塗っとけば」
ニュッとクリームを出すと、「ほれほれー」と両手でマッサージするみたいに塗りだした。
いつもだけど、高木の手は割とあったかい。
「あーもう、いいからいいから」
ものすごく恥ずかしくなって、手を振りほどこうとした時、駅についた。
そのまま何となく手をつないだまま、電車を降りて地下を歩く。
改札を通るのに、やっと手を離してもらえて、ものすごくホッとした。
手にまだ残るクリームを馴染ませながら隣を見上げると、高木はいつもよりちょっとだけ子供っぽく見えた。
いつものスーツ姿じゃなくて、シャツに半パンだからだろうか…。
「ちょっとお店見ていい?」
モールに着いたところで、私は言って、ファストファッションの店に入った。
「なんか買うもんあった?」
「うん、ちょっと」
高木を見ていてふと気づいたけど、私は昨日から着ている会社用のシャツにタイトのレーススカートという格好だ。何だか休日な感じがしない。
「その辺で待ってて」
あんまり待たせるわけにもいかないので、ざっと見て、インスピレーションで選ぶ。
試着室から出て、そのままタグを切ってもらった。
高木は所在なさげに、同じ店舗のメンズラインを眺めていた。
「おまたせ」
「おー。ワンピ」
深い青色で、裾がひざより少し短めのワンピースにした。
「はい」
高木が手を差し伸べてくる。私も今度は、抵抗せずに手をとった。
つづく
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(ナツキは多分ザラジョ)
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