エトランゼ編集部

日本大学芸術学部文芸学科に所属する非公認サークルKMIT(けみっと)のWebサイト、「…

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日本大学芸術学部文芸学科に所属する非公認サークルKMIT(けみっと)のWebサイト、「エトランゼ」です。小説・漫画・エッセイ・企画等を掲載しています。

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宇宙飛行の夢を見て

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宇宙飛行の夢を見て/トギナナミ 2020年秋号より

病室 著:前花しずく

 世界には「指定難病」と呼ばれる病気がある。文字通り、現在の医術ではどうにもならない病気。身体が徐々に動かせなくなってしまうパーキンソン病なんかもそれに含まれて…

この星に生まれて 著:くらげさん。

 死んだ友達の命日に、毎年造花を贈っている。咲く前に散った命に、首を切られて枯れるのを待つだけの花を添えるのは、気分が悪い。  作り物の花を選ぶ時間が好きだ。そ…

毎日いろいろ、人生いろいろ。

2018年、春の作品発表会。第2弾。 青・ばら・アイドルの3つのテーマ三篇と、 ワイン・人生ゲーム・ギターの3つのテーマ一篇です。 我儘       著:納村紗奈 奇襲 …

黄昏時、緑茶ときどき横隔膜。

2018年、春の作品発表会。 新しい作家さんたちが加わり、物語もいっそう彩り豊かになりました。 黄昏時・緑茶・横隔膜の3つのテーマから、お話が繰り広げられます。 雑学…

ふしぎなテーマの物語たち。

やってきました、2018年。 今年もよろしくお願いいたします。 さて、2017年秋の作品発表会の第2段です。 ある3つのテーマに沿った物語。どういったテーマなのか、あなた…

「AI・カカオ・幸せ」をテーマに、あなたへ贈る物語集。

2017年秋の作品発表会。3つのテーマに沿って書いた作品を詰めました。 「ラスト・マキナ」―――慢心大魔王 「振り下ろされた鍬」―――またたび浴びたタマ 「ある夜の喫…

わたしというにんげん

著:久坂 蓮  わたしというにんげんは、ほんとうは、どこにもいない。みんながわたしのことをどう思っていて、なにを感じているか、わたしは知らない。ともすればわたし…

散歩にいこうよ

著:久坂 蓮  散歩にいこうよ、アキ。  遥(はる)にそういわれて、秋人は居間のソファのうえでつぶりかけていた眼をあけた。  散歩って、これから。  うん。これか…

Kmit秋の作品発表会2016(後編)

12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。 テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。 ④「覚めない」     るり…

プリンと星とロープ

著:高岡はる  柚子吉の三回忌をしようと言ったのは姉の悠で、肌寒さが残る三月の上旬のことだった。 「夕方の四時からにしようと思っているから、それまでには帰ってき…

Kmit秋の作品発表会2016(前編)

12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。 テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。 ①貴方は私の大富豪     …

『New Drole』試し読み

2016年刊行 『New Drole』掲載の各作品の、冒頭約1000字を公開します! ①『少年のアルゴリズム』 著:霧原礼華  冬が深まりつつある十一月下旬。夕刻を過ぎた頃の街…

マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶    金城拳聖(かねしろけんせい)。  最初には、未夕ではなく……竹山でもなく、彼を生き返らせたかった。  最後に言葉を交わしたの…

風が止んだら

著:高岡 はる  裏庭で採れたふきのとうは、天ぷらにすることに決めた。古びた中華なべを台所の戸棚から取り出すと、お久しぶりです、とでも言うように雄々しく、その姿…

サイダーパンク

著:脂腿肉無骨 一本の矢ではすぐに折れてしまうが、三本の矢を束ねればサイダーパンク小説が書ける 「お帰りなさいませ、ご主人様!」 「いつものを、頼む」 「ごめん…

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宇宙飛行の夢を見て/トギナナミ
2020年秋号より

病室 著:前花しずく

病室 著:前花しずく

 世界には「指定難病」と呼ばれる病気がある。文字通り、現在の医術ではどうにもならない病気。身体が徐々に動かせなくなってしまうパーキンソン病なんかもそれに含まれていたりする。
 少年が患っている病気も、この指定難病の一種であった。なんでも、肺が委縮して呼吸がうまくできなくなる病気なのだとか。症状は突然現れ、やれ酸素ボンベだの人工呼吸器だのがんじがらめになったコードを体内にたくさん刺されることもよくあ

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この星に生まれて 著:くらげさん。

この星に生まれて 著:くらげさん。

 死んだ友達の命日に、毎年造花を贈っている。咲く前に散った命に、首を切られて枯れるのを待つだけの花を添えるのは、気分が悪い。
 作り物の花を選ぶ時間が好きだ。その棚には命が一つもないから。無機物だけが咲き誇る風景に安堵する日々が、何よりも楽しくて罪深い。花弁に手を触れても、茎を握りつぶそうとしても、変わらぬ美しさがそこにある。
「お客様、贈り物ですか?」
 視界の中に有機物が侵入してくる。嫌だ。反

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毎日いろいろ、人生いろいろ。

毎日いろいろ、人生いろいろ。

2018年、春の作品発表会。第2弾。
青・ばら・アイドルの3つのテーマ三篇と、
ワイン・人生ゲーム・ギターの3つのテーマ一篇です。

我儘       著:納村紗奈
奇襲          著:さ哉
(無題)     著:ひらまりこ

他者の興醒め   著:文洋 秀

我儘       著:納村紗奈 東京から約2時間。技術の進歩というのは新幹線と同じくらい速い。うとうとしているとあっという間に別の

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黄昏時、緑茶ときどき横隔膜。

黄昏時、緑茶ときどき横隔膜。

2018年、春の作品発表会。
新しい作家さんたちが加わり、物語もいっそう彩り豊かになりました。
黄昏時・緑茶・横隔膜の3つのテーマから、お話が繰り広げられます。

雑学王と呼ばないで   著:前花しずく
化けの河        著:ハシバマユ
欠片                  著:柊 らぎ
リズの声             著:りょうCAN
おそろい        著:くらげさ

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ふしぎなテーマの物語たち。

ふしぎなテーマの物語たち。

やってきました、2018年。
今年もよろしくお願いいたします。
さて、2017年秋の作品発表会の第2段です。

ある3つのテーマに沿った物語。どういったテーマなのか、あなたは読み解くことができますか?(答えは最後にあります)

目次
解体 ――― 譲葉 春雨
「はなみず」 ――― 丸永 路文

   解体              

            譲葉 春雨

 ぐにっ、ぎっ、とん。と

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「AI・カカオ・幸せ」をテーマに、あなたへ贈る物語集。

「AI・カカオ・幸せ」をテーマに、あなたへ贈る物語集。

2017年秋の作品発表会。3つのテーマに沿って書いた作品を詰めました。

「ラスト・マキナ」―――慢心大魔王
「振り下ろされた鍬」―――またたび浴びたタマ
「ある夜の喫茶店で」―――水菓子

ラスト・マキナ                             慢心大魔王

人間とAIの思考能力に違いが無くなってから、早くも二百年が過ぎた。最新型のAIは感情を持ち、人間を理解し、精工な外骨格があ

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わたしというにんげん

わたしというにんげん

著:久坂 蓮

 わたしというにんげんは、ほんとうは、どこにもいない。みんながわたしのことをどう思っていて、なにを感じているか、わたしは知らない。ともすればわたしを、馬鹿みたいなやつだと考えたり、あいつ、嫌いなんだよね、なんて、飲み会で、言われているかもしれない。けれども、わたしは、だれにもほんとうのわたしなんて、見せたことがない。ほんとうのわたしとはなにか、わたしだってわからない。わかるのは、あ

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散歩にいこうよ

散歩にいこうよ

著:久坂 蓮

 散歩にいこうよ、アキ。

 遥(はる)にそういわれて、秋人は居間のソファのうえでつぶりかけていた眼をあけた。

 散歩って、これから。

 うん。これから行きたい。

 寝椅子に横になった姿勢で、首を反らして壁にかけられた時計に目をやる。もう十一時を過ぎている。寝そべってテレビをみているうちに睡魔がやってきて、ちょうどこのまま眠ってしまおうと思っていたところだった。

 明日が、

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Kmit秋の作品発表会2016(後編)

Kmit秋の作品発表会2016(後編)

12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。

テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。

④「覚めない」     るり紺

 ジリリリリリリ

 目覚まし時計のなる音が突然耳をつんざいた。ぼんやりとする頭をおこしアラームを止める。はっきりとしない視界は、まだ青色の風景を微かに写している。夢を見ていたのだ。なにか、青い物につつまれたのだけは覚えてい

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プリンと星とロープ

プリンと星とロープ

著:高岡はる

 柚子吉の三回忌をしようと言ったのは姉の悠で、肌寒さが残る三月の上旬のことだった。

「夕方の四時からにしようと思っているから、それまでには帰ってきてね。」

 そもそも三回忌って、一回忌もしたことが無いと言うのに、どういう心境の変化だろうか。柚子吉は、父が拾ってきた犬だ。毛並みはこげ茶でツヤがあり、家の庭になっている柚子の木を、大変気に入っていた。その途端懐かしい気持ちとは反対に

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Kmit秋の作品発表会2016(前編)

Kmit秋の作品発表会2016(前編)

12月初めに行った作品発表会の小説を公開します。

テーマは三大噺「トランプ」「毛糸」「みち(漢字変換自由)」、分量は2000字程度です。

①貴方は私の大富豪     カザリ

 手元に残ったトランプはスペードの3とジョーカー。こういう時、私はなんとなくジョーカーを手元に残す。いや、なんとなくだと語弊があるかもしれない。ただ自分に抗えないが故にジョーカーを手放すことができないのだ。しかし、これが

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『New Drole』試し読み

『New Drole』試し読み

2016年刊行 『New Drole』掲載の各作品の、冒頭約1000字を公開します!

①『少年のアルゴリズム』 著:霧原礼華

 冬が深まりつつある十一月下旬。夕刻を過ぎた頃の街は華やかなイルミネーションによって彩られ、厚着をした人々の群衆によってさらに賑わいをみせていた。私は一時間前に仕事を終え、つい先ほど自宅の最寄駅に着いたところである。しかしホームに降りた途端、すぐに冷えた外気を浴びせられ

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マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話

マリオネ・テスタと空欄[K] 第五話

著・亮月冠太朗  絵・市川正晶

 

 金城拳聖(かねしろけんせい)。

 最初には、未夕ではなく……竹山でもなく、彼を生き返らせたかった。

 最後に言葉を交わしたのが彼だったから。

 何より、彼の声を聞きたかったから。

「よかった。生きてたんだな」

 生き返った拳聖の第一声。

「死ねばよかったのにな」

 そして二言目。歪んだ口元が彼の皮肉を際立たせる。瞳は苛つくほど無邪気に輝き、俺

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風が止んだら

風が止んだら

著:高岡 はる

 裏庭で採れたふきのとうは、天ぷらにすることに決めた。古びた中華なべを台所の戸棚から取り出すと、お久しぶりです、とでも言うように雄々しく、その姿を主張した。持ち手ははげかけ、中の鉄板部分は、あの新品だった頃のぎらぎらとした銀色の光沢は、なくなってしまったが、年月を経て得た貫禄のようなものが、なべ全体を覆っていた。

 

 ナベは中華ナベが、いっちゃん良いけんのおう。

 

 

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サイダーパンク

サイダーパンク

著:脂腿肉無骨

一本の矢ではすぐに折れてしまうが、三本の矢を束ねればサイダーパンク小説が書ける

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「いつものを、頼む」

「ごめんなさいご主人様。今日はいつもの、無いんです」

「何?」

「ひえっ!? ごめんなさい、怒らないで! 代わりに良いもの、仕入れてますから!」

「ああ、早くした方が良い。急がないとあんたの頭が吹き飛ぶぞ」

「す、すいません!」

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