見出し画像

若手社員の離職の本質

現在の多くの企業に共通する大きな悩みの一つに、若手社員の離職があるのではないでしょうか。各企業はさまざまな対策を実施していますが、決め手に欠いているのではないでしょうか。今回はこの問題の本質を考え、そこからその対応を考えてみたいと思います。

日本人のコミュニティへの所属の変化

マズローの欲求段階説によると、人間には「生理的欲求」、「安全欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」、の5つの欲求段階があるとされています。その中で社会的欲求は「愛と所属の欲求」とも言われ、人間は「コミュニティ(集団)」の中で所属感や受容感を求める欲求があるとされています。

いわゆる「バブル期」までの日本では、男性は職場、女性は家庭というコミュニティにのみ所属することがあたりまえとされていました。バブル経済の崩壊による企業の倒産やその後の企業の福利厚生の縮小によって、職場に所属していれば豊かな老後が送れるという人々の期待は反故にされ、日本人の所属の欲求が大きく揺らいだ時期でした。
時を同じくして、日本では少子高齢化により労働人口不足への対策として、「女性活躍」というスローガンで、女性の職場進出を促進する政策が推進されました。これにより男性の家庭での役割が増加し、日本人の所属の欲求は、職場と家庭の2つのバランスをとること(「ワークライフバランス」)に変化しました。

複数のコミュニティに所属する時代へ

そして現在、日本人の所属の欲求は新たな転換点を迎えています。SNSやオンラインゲーム、ボランティアなどの広がりは、多くのコミュニティを生み出し、人々は職場、家庭以外にもいくつかのコミュニティに同時に所属するようになっています。
このような状況では、例えば「仕事を辞めたい」などの一つのコミュニティの不満を他のコミュニティで話せば、「辞めたらいい」などの承認を手軽に手に入れることができます。一つのコミュニティで所属の欲求がみたされなくても他のコミュニティで満たせばよい、こんなことが当たり前に行われる時代になっています。

人々が単一のコミュニティにのみ所属している時代は、自分のニーズが満たされないことでも自分が我慢してそのコミュニティに居続けざるを得ません。しかし多くのコミュニティに同時に所属している時代では、一つのコミュニティで自分のニーズが満たされないときは、他のコミュニティに行けば自分のニーズを手軽に満たすことができるようになった、と言うことができます。
最初に述べた若手社員の離職率の本質は、この日本人の所属の欲求の変化だと考えられます。

企業における対応の方向性

アインシュタインは「いかなる問題も、それが発生したのと同じ次元で 解決することはできない。」と言っています。これらの問題に対して、新たな日本人の所属の欲求を前提とした対応をしていく必要があります。
すなわち、企業でも自分のニーズを手軽に満たせていると感じることができるようにしなくてはなりません。しかし自分のニーズを満たすだけでは、人の成長はありません。人は自分のニーズを満たせない場面に遭遇し、そこから逃げずに自分の自分に対する認識(自己概念)に新たな気づきを得て成長します。
また、自分のニーズを満たすだけでは、組織を維持することはできません。組織を維持するには、他者のニーズも満たすことを優先することも必要になります。

多様性を包含する施策設計が重要

現在の企業は、人が自分のニーズを手軽に満たせること、自分のニーズを満たせない場面から逃げずに成長すること、他者のニーズを満たすことを優先することの3つのふるまいを同時にできるようにしていく必要があります。しかし、例えば自分のニーズを手軽に満たすことだけしたいという人に、他者のニーズを満たすことを優先しろと強制することは、その人にとっては自分のニーズを満たせないことになる、というジレンマが発生してしまいます。
人がどうふるまうか、それはその人の選択によります。企業は、人がさまざまなふるまいをすることを受け入れる必要があります。多様なニーズを持つ人が自分のニーズに応じて企業の中で活動できるようにしていく必要があります。
一方で企業の継続も大きな課題になります。そのために、企業の中で自分のニーズを満たす人と、企業の継続に貢献する人では処遇に差があることを、その企業で働く人々も受け入れる必要があると考えます。これからの企業の人事施策はこの点を踏まえて組み立てていく必要があるのではないでしょうか。
(吉田善実)


株式会社きざはしでは、組織の問題解決のコンサルティングを行っております。
アナログゲームを用いた研修・組織開発も行っております。
ご関心をお持ちの方は、下記までお気軽にお問合せ下さい。
contact.ki@kzhs.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?