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日本神話

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神々の時代を読み解く
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俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた

俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた

 俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。誰が決めたわけでもない。成り行きでそうなったのだ。あれは四月のある晴れた日のこと、俺は朝早く近所のゴミ置き場にゴミを出しに行った。俺はいつも朝は早くに起きて仕事に行くのだが、ゴミを出す日には特別早く起きる。そうすれば近所の住人と顔を会わせずに済むからだ。

 俺がゴミ袋を持ってアパートの二階の部屋から外に出た時、まだ東の空には日が出ておら

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フラッシュモブ殺人事件

フラッシュモブ殺人事件

「ごめん。今日飲みに行くことになった。ご飯もう片付けていいよ」

 崇太がそう言うと、電話の向こうで麻弥子が不満げな声を上げた。

「本当ごめん。近いうちに何か埋め合わせするからさ」

 そう話す崇太の声には言葉と裏腹にどこか嬉しげな響きがある。海に面した市街地のテラスを歩く足取りは軽い。まばらに立った街灯が、穏やかな初春の海面に白々とした明かりを投げかけていた。沖から吹き寄せる冷たい風がスーツの

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ペイケガニ

ペイケガニ

 深夜のオフィスでPCに向かっているとデスクをカニが横切っていった。小さくてゴワゴワした毛の生えたやつだ。残業のしすぎで頭がおかしくなったのかと思ったが、隣の席の上司がカニを目で追っていたのでどうやら現実の出来事らしかった。

「こいつを見るのは始めてか」上司が言った。

「そりゃそうですよ。なんでこんなところにカニがいるんですか」

 私が聞くと上司は悩ましげに腕を組んで、

「いいか、コイツは

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侵略兵器VS丁寧な暮らし

侵略兵器VS丁寧な暮らし

 車を降りた岸は腕を広げ、深々と息を吸った。高原の空気はひんやりと冷たい。長時間の運転で鈍った感覚を呼び覚ますかのようだ。助手席の石田からバッグを受け取り、後ろ手に閉めたバンの扉には流麗な筆記体で『Día verde』と記されたステッカーが貼られていた。

 バンを停めた先には周囲を木立に囲まれた民家があった。へんぴな立地にもかかわらず外観はこざっぱりとしていて、比較的近年に建てられたことがうかが

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あと一秒でも残業したら俺は過労死してしまう

あと一秒でも残業したら俺は過労死してしまう

 川のせせらぎのようなよどみない空調の音をバックに、乾いたキータイプの音が響いている。午後11時のオフィスに人気はない。佐々木はだらりとオフィスチェアに背を預け、顔を天井の方へ向けて、キョンシーのごとく突き出した腕の先でキーを叩いていた。

 だらしのない姿勢を見とがめる上司はおらず、ほかにオフィスにいるのは40代初頭の先輩社員串田だけだ。派遣社員の多良崎は5分前に便所に立ってまだ戻ってこない。串

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