KiriyaJoe

살다.芝居が好き。高卒。留学経験あり。最近ボクシング🥊を始めた。生きているうちにあと何…

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살다.芝居が好き。高卒。留学経験あり。最近ボクシング🥊を始めた。生きているうちにあと何が出来るであろう?

最近の記事

麗しき者 第12話

11.Choose a side  リビングで映画を観ている尚美。幹太は学校に行っている。「Paper?」「Yeah」ブラックレインのラストシーン。マイケル・ダグラス扮するニック刑事と高倉健扮する松本刑事が空港でうどんを食べ、別れを惜しんでいる。槇と尚美はこのシーンが大好きだった。付き合っていた当初、うどんを食べる時、七味唐辛子をどちらかが持ち、「Paper?」「Yeah」のくだりをいつもやっていた。一粒の涙が尚美の目からツーっと流れ落ちる。槇が撮影中の事故で亡くなって一カ月

    • 麗しき者 第11話

      11.麗しき者  自分の出番の最終撮影日。上田扮する石渡龍也と俺の役神代洋が対峙するシーンがある日。アクションの指導をしている松枝さんによる入念なリハーサルが始まっていた。「そう、ここで神代に襟を掴まれて、そうそう、それから膝蹴り。そっから離れてから石渡が神代に頭から突っ込んで。そう、いいねー上田君。神代とともに倒れて、パンチ二発。そう、それから…」近くで武蔵監督と助監督の高橋、カメラマンの大城さんが見ている。「槇ちゃん、身体絞ってきたんじゃないすか?なんだか、機敏に見える。

      • 麗しき者 第10話

        10.ブラックレイン  自分の出番のある撮影は五日間。まず料亭での会合のシーンから。メインさんには台本上の台詞はあるが俺らレベルは演出部さんが手分けして芝居をつけてくれる。慣れてるといったら語弊が生じるかもだが、あー、ここ芝居してても映ってないだろうなというところがわかる。俺よりもっと数をこなしている役者さんはまだいて、演出に乗っかって前へ前へ出ようとする人もいる。俺はそれは苦手であるが。初日の撮影は無事に終わった。二日目。ビジネス街にあるビルの一室に、俺の組、神代組のセット

        • 麗しき者 第9話

          9.苦味 サンドバッグにパンチを撃ち込む。ワン、トゥー。ワン、トゥー。ワン、トゥー、フック、ストレート。 武蔵監督の新作映画の撮影はもうすぐ、俺はボクシングを続けていた。タバコもやめて、酒も節制するようになった。「槇さん、なかなかいいすよ!もっと脇しめて。そうそう!一年でかなりの成長ですねー。」とジムのオーナーの村田に褒められた。「ありがとうございます。来月、撮影あるから、頑張んないと。」3分のゴングが鳴る。「へぇー、それは楽しみだ。」40秒のインターバルはすぐ終わる。ワン

        麗しき者 第12話

          麗しき者 第8話

          8.試練はいつも突然に  翌年、予想もしない災害が東北を襲い、その余波が東京にも来た。芝居などのエンタテインメントがバッシングを受け仕事が急になくなった。演劇学校の収入はそこまでだったし、尚美はまだ完全復帰は出来なかったので、俺は知り合いのカレー屋でバイトを始めた。まさかまたこの歳でバイトをやるとは思わなかったが、生活のために選択肢はなかった。  尚美がある日言ってきた。「幹太に弟か妹必要じゃない?」「え?」「もう一人どうかな?わたしももうそろそろキツくなるし。」「今は無理だ

          麗しき者 第8話

          麗しき者 第7話

          7.幹太と親父と義理の母  幹太が産まれたその日。俺は下北沢で知り合いの劇団の芝居に客演で出演していた。マチネ公演だけだったので、終演後尚美が入院している曙橋にある病院に行った。受付で名前を言うと、4階にあるその病棟の待合室に通され一時間ほど待った。すると看護士さんが白いタオルに包まった赤ちゃんを抱いて俺のところに来た。「おめでとうございます!元気な男の子です。ご主人が着いたことを尚美さんに伝えたら急に。きっとご主人のこと待ってからこの世に生まれてきたんですね。ちょっと抱いて

          麗しき者 第7話

          麗しき者 第6話

          6.イノチトイノチ  尚美とはしばらく遠距離で付き合って、彼女が東京に出てきたタイミングで一緒に住み始めた。劇団ニクサン解散後も俺は役者を続けた。小さな事務所にも入り小さな役をいくつもやった。おかげで最低限暮らしていけるくらいの稼ぎにはなっていた。尚美は彼女の親戚のツテで保険の営業の仕事を始め、なかなかの成績を上げるようになっていた。30歳で結婚。マンションも購入し、世間一般でいう幸せも手に入れた。35歳の時、あの臼倉から連絡が入った。「槇ちゃん、久しぶり。元気でやってる?今

          麗しき者 第6話

          麗しき者 第5話

          5.新たなる一歩  カーテンの隙間から強い日差しが差し込んでいる。8時45分。布団から出て、窓を開け狭いベランダでタバコを吸う。だるい。眩しい太陽の光が「お前しっかりしろよ。」と言わんばかりに、俺を照らしてくる。 昨日も飲み過ぎた。宅飲みもほどほどにしないとな。  キッチンへ行き、玉子雑炊を作る。基本ズボラだが料理は嫌いじゃない。その時だけ無心になれるから。 冷凍ご飯をレンジで温めている間に、鍋にダシと水を入れて火にかける。レンジから取り出したご飯を沸騰した鍋に入れ、ネギを刻

          麗しき者 第5話

          麗しき者 第4話

          4.終わりのはじまり 劇団ニクサンの大千穐楽はほぼ満席だった。三度目の小倉公演。我らとしては大盛況の中幕を閉じることが出来た。「この度は劇団ニクサン『終わりのはじまり』にご来場頂き誠にありがとうございます。永遠ってあるようでやっぱりなくて、我々のお芝居と一緒で開演したら必ず終演します。当たり前のことなのですが、この場所でこの時間でしか味わえないこの貴重な時間は僕にとって、僕らにとって毎回特別で。言葉では上手く言い表せないんですけど、本当に…」西山の声が詰まる。西山が泣いている

          麗しき者 第4話

          麗しき者 第3話

          3.小倉にて 小倉駅近くのビジネスホテルにチェックインを済まし、二日酔いで疲れた身体をベッドで休ませていると西山から連絡があった。「槇ちゃん、今晩の飯はどうすんの?」「何も考えてない。」「美味い鰻の店があるらしいんだ。行かないか?」「鰻?なんでまた。」「たまには良いだろう、せっかくだし。「うん、わかった。」「じゃあ18時にロビーで。」西山とはその昔演劇のワークショップで出会った。演出家が出すリクエストに俊敏に応える彼の姿を見て嫉妬したものだ。3日間続いたワークショップ後の飲み

          麗しき者 第3話

          麗しき者 第2話

          2.元妻 尚美と出会ったのは劇団にまだいた時だった。地方公演で福岡に行った時、イベンターさんに連れて行ってもらったもつ鍋屋で。尚美はバイトで働いておりその店ではかなりの古株みたいだった。福岡公演は1日だけだったが大盛況だったのと、次の日は小倉への移動日だけだったので、調子に乗って飲み過ぎてしまった。「槇さん、大丈夫ですか?」トイレの前で後輩の野原の声がする。」「あー…だいじょうぶぅ。」かなり酔いがまわっている。「そろそろらしいんで、早く来てくださいねー。」「おー…」その後の記

          麗しき者 第2話

          麗しき者 第1話

          (あらすじ) 売れない役者槇、武藤監督作品に呼ばれるものの若い役者達に馬鹿にされ、監督にも今のままでは使えないと言われる始末。妻尚美に支えられ、息子幹太には励まされ続けている。自分の存在価値を探し続け、やっとチャンスを手に入れた彼に待ち受けていたものとは。 1.撮影現場 「死ね!この野郎!」槇の拳がチンピラの頬を掠る。 「舐めんじゃねぇ!このクソが!」チンピラの左フックが見事に槇の右脇腹に直撃し、濡れたアスファルトに倒れ込む。息が出来ない。チンピラが再び襲いかかってきたその

          麗しき者 第1話

          あの日

          小学5年生だか6年生の時、僕の人生は混沌としていた。父と母は僕が3歳の時に離婚し、気づいた時には父方の祖母と一緒に暮らす生活が当たり前になっていた。地元で美味しい洋食屋を営んでいた祖母もいつの間にかそれをリタイヤし、細々と僕と2人で日々を送る毎日が続いていた。その頃、自分の好きなものやりたいことは何もなくただただ学校へ行き、週2回周りの皆んなが行っているから学習塾へ行き、家に帰って食事をして、テレビを観て、お風呂に入って寝る。週末には母親と会い食事をして、みたいな生活がずっと

          DARK OCEAN

          1  寒い。波の音が聞こえる。  目を開けると私はうつ伏せで横たわっている。  ぽつぽつと針のような雫が、震えている身体に容赦なく刺してくる。  私はここで何をしているのだろう?  薄らとした意識の中で、ゆっくりと仰向けになる。どんよりと白々とした空が私を包み込んでいる。空から落ちて来る雫が目の中に入り、瞬きを何度も繰り返す。不規則なリズムで絡み合う波の音を聞きながら、震えている右手で湿っている頬をつねってみる。  夢じゃないんだ。  ゆっくりと上半身を起こすと

          DARK OCEAN

          キミが笑ってくれたから

           「ハァハァハァ…」自分の目の前にはすっきりとした雲もない青い空が広がっている。息が上がってもう動けないし走れない。太陽の光がアタシの毛穴から汗を噴き出させ、べっとりとした肌にカラッとした秋風が吹き抜けていく。そういえば雨続きだったのか。夏の儚い日々を過ごしたセミが仰向けになって目の前で死んでいる。アタシももうすぐこんなふうになるのか。いや、ここまで形を留めたままでいられるはずはない。頭が潰れて脳みそがはみ出て、内臓破裂。足は逆方向に折れ曲り、赤と黒が混じった血がそこらじゅう

          キミが笑ってくれたから