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積読解消のため、読書1週1冊を目標にするただのサラリーマン。

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最近の記事

「ノエル」道尾秀介

 童話と現実とが交互に入り混じる構成。現実のほうのお話はややシビアなもので、母のおなかの中の子供を殺してしまっては、とか、結ばれてほしくない二人が夫婦なのかとか、ハラハラとさせられる。  そこにちょっとした仕掛けを入れてくれて、我々を軽やかに騙してくれ、いい結末に導いてくれ、とてもさわやかに読み終われた。読書というものの性質をよくとらえた、本当に軽やかな仕掛けに、ああ、この作者は前にもこんなふうに騙してくれたな、と思い当たった。  物語を読むということは、本当に楽しいことだと

    • 「教団X」中村文則

       カルト教団というと、オウム真理教の事件を思い浮かべる。  かつての彼らの自分勝手な行動を思うと、宗教なんて怪しいものだなと警戒してしまうが、では宗教とは何ぞや……と考えると、この本の松尾が語っていることが納得できる回答だと思えた。  神に祈ること自体、別に悪いことでも変なことでもない。私たちのご先祖が自然物に畏敬の念を感じて祈っていたことと何ら変わりはない。体系化したそれは、誤解を招くものであるし、実際に変な形になってカルト教団化している物もあるが、一般的に穏やかな宗教は生

      • 「自分を好きになる方法」本谷有希子

         本谷有希子が描く女性は、どれもトガっている印象があった。 実際そんな人が傍にいたら疲れるだろうな……とか思って。  この本に出てくる「リンデ」はそんな印象とはちょっと違う、穏やかな感じの女性だった。  その「リンデ」の人生のいろいろな年代をほんの一瞬だけ切り取って連ねている。本当に一緒に居たいと思えるひとを求めて生きる姿に、心を打たれた。  彼女のほんの一瞬ずつしか覗き見ていないのに、そんな彼女のひととなりをよく知っているかのような気持ちにさせられる。何気ないようで、とても

        • 「きつねのはなし」森見登美彦

           京都を舞台に、大学生、古道具屋……ときたので、この作者の他作品の学園ドタバタもののコミカルな展開を想起して読みすすめた。  しかし、何となく繋がっている4編とも、京都の陰翳を活かした怪奇小説のような仕立てになっていて、意表を突かれ面白かった。  この陰翳を使った効果は古都ならでは。今の京都もこんな謎めいた佇まいなのだろうか。  この作者の小説を読むと、京都に住んでみたいなと思えてくる。  よく聞く話で、京都は余所者をなかなか受け入れてくれない、というけれど、実際のところどう

        「ノエル」道尾秀介

        マガジン

        • 読書
          31本
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          12本
        • エッセイ
          0本

        記事

          「しょうがの味は熱い」綿矢りさ

           妻と暮らすようになって20年くらい経つ。  二人とも未熟だったせいか、私たちもいろいろとぶつかり合いながらやってきた。  この小説の男女に対し、お互いもっと歩み寄っていけばいいのにと思う一方、なかなかうまくいかない二人の姿に自分と妻を当てはめてみたりする。若い頃はなかなか思うようにならないものだよなと。  今でも妻を大切に思うが故、若い頃の時間をもっと大事に生きていたら……と思うこともある。  社会人になったり、結婚したり、の中でお互いの関係を構築していくなんて大変だと思う

          「しょうがの味は熱い」綿矢りさ

          「透明な迷宮」平野啓一郎

           人を愛するということはどういうことか。  双子の人が居たとして、その二人が見分けがつかない程似ていたとしたら、どうだろうか。  人を好きになったり、一緒に居たいと思うのは、その人の容貌が好きだとか、その人の性格が好きだとか……それはきっかけや理由付けに過ぎなくて、本当はその人と一緒に過ごしてきた時間の積み重ねに対する想いが大きいのではないかなと思っている。  では、見分けがつかない双子……見た目では分からなかったとしても、一緒に居たいと思う相手を取り違えることはないと思いた

          「透明な迷宮」平野啓一郎

          「取り替え子」大江健三郎

          実在の人物をモデルにして書かれた小説をモデル小説というらしく、この作品もそのモデル小説なるものであるようだ。 ……というか、大江健三郎と伊丹十三が義兄弟とは知らなかった。。。 読み進めるうちに、あれ、そういえばヤクザに襲われた映画監督がいたなぁ……みたいに連想した程度で。 モデル小説云々という話も、そういうことを掘り下げたい人々の言葉であって、これはAさんを模して書いた小説なんですよ~と世に送り出される小説もないだろう(いや、あるかも知れないけど)。 そう思いめぐらせると、こ

          「取り替え子」大江健三郎

          「死神の浮力」伊坂幸太郎

          死神シリーズ3作目……1作目、2作目とも面白かったと思うけれど、どんな話だったかなーと、記憶がない……たぶん年齢のせいですか……でも、読み進めるうちに死神のキャラクターが記憶に蘇ってきた。 一人娘がサイコパスに殺されてしまった夫婦が死神のターゲット……という重苦しい設定で始まる。 けれど、死神と犯人を追いかけていくうちに何となく楽しくなってくるのが面白い。 人と人とのちょっとした繋がりが、いざという時の助けになったり。このコロナ禍の中で、人のつながりが希薄に感じられる時だか

          「死神の浮力」伊坂幸太郎

          「雨恋」松尾由美

          3年前の自殺事件の真相に迫る……というお話。 普通に考えれば、一般の人にそこまで何かを調べたりする能力はないだろうな、とは思うけれど、そこはお話なのでよいと思う。 やや儚げな(たぶん美人の)女性の幽霊が困っていれば、いろいろと本気になって調べたりもしようと思う。そして、雨の日にしか会えない、という設定もロマンチックで秀逸だと思う。 何はともあれ、広いマンションにタダ同然で住めて、おまけに猫二匹がついてるなんて環境はすばらしいなと思う。

          「雨恋」松尾由美

          「苦役列車」西村賢太

          私小説様に、日雇いの貧しい生活を描き、また風俗出入りを当たり前のように語る……こういう作者の在り方に、読前距離を感じていた。 私自身、そういう生活はなかなかできないという気持ちから……けれど、そうであれば尚更、その生活から見えるものはとても貴重なものなのかも知れない。 近代文学の私小説を読んでいて思ったのは、よくこんなものが金になったなということ。だけれど、この「苦役列車」は評価され、世に出ることは当たり前な、それくらいの価値があると読後は思えた。 西村賢太や平野啓一郎などの

          「苦役列車」西村賢太

          「何もかも憂鬱な夜に」中村文則

          死刑についての議論でよく耳にするのは、それが犯罪の抑止力になるかということ。私自身、死刑に対して何の持論もなく申し訳ないが。 むしゃくしゃしたので、見ず知らずの人を殺して全て終わりにしよと思った……みたいな事件をよくニュースで耳にするけれど、ではそんな犯人に対して、死刑が抑止力になっているのかというと疑問である。 そしてこの本を読み、自分自身が犯罪を犯さない理由は、自分自身の社会的な立場を守ることも勿論あるけれど、大きいのは、やはり良心というものがあるからだろうと思う。 どん

          「何もかも憂鬱な夜に」中村文則

          「吐きたいほど愛してる」新堂冬樹

          裏表紙の紹介文には「暗黒純愛小説」と書いてあって、よく考えずに読んだけれど後悔している。 これって嫌ミスの類かな……と思えるくらい、後味の悪い読後感が残る話ばかりだった。 大団円で終わったりするのは深みがないと言われ、その反対であれば深みがあるかのような思い込みがあり、その延長線上にあるのが嫌ミスなのかな、と勝手に思っている。 嫌ミスの存在を否定したりしないが、日常の嫌なことなどから離れて文物を楽しみたいところで、わざわざ嫌な思いを好き好んでしたくないなーということで、私は嫌

          「吐きたいほど愛してる」新堂冬樹

          「QED 六歌仙の暗号」高田崇史

          このQEDシリーズを読むのはこれで4冊目。 実は第一作を読んだとき、かなりマイナスの印象だった。 けれど、それからも数冊手に取って読んでいるうちに、私の読み方(?)が間違っていたな~と気が付く。 このシリーズは古典や歴史を背景としたミステリ小説。従って、歴史+現代の各々の謎がどう紐解かれていくのだろうと期待しながら読む。 多少なりとも古典や歴史を齧っていると、そこに新たな解釈や新事実が出てくるんじゃないだろうか、とつい思って読んでしまうのである。 作中人物の崇という衒学的

          「QED 六歌仙の暗号」高田崇史

          「冷血」カポーティ

          この本は「ニュージャーナリズムの源流」などと言われている。 私はジャーナリズムに一家言ある人でも何でもない人間なので、「ニュージャーナリズム」について検索してみたところ、客観性を捨てて取材対象に積極的に関わりあうことで、対象をより濃密に描くこと……らしい。 全く逆のことを述べるようだけれど、この本を読み、とある一家の殺人事件を淡々と描写し、それこそ大して重要でもなさそうな周辺の人々やその背景まで丹念に描いているノンフィクションぶりに何だか好ましさを感じた。 ネットの記事やマス

          「冷血」カポーティ

          「鍵のかかった部屋」貴志祐介

          こちらも防犯コンサルタント榎本が活躍するシリーズ。3冊目。 今作まであまり感じていなかったが、コンビ(?)を組む純子のボケが面白い。……ドライな名探偵とオトボケ美女の組み合わせと言えば、あの「謎解きはディナーの後で」を想起させる。 そういえば、テレビドラマでは、ボケの担当は弁護士事務所の所長:佐藤浩市だったような。 と考えていくと、昭和の名ドラマ・江戸川乱歩の美女シリーズでは、荒井注が浪越警部役でボケ担当していたから、推理もののドラマには一定付き物なのだろうか。

          「鍵のかかった部屋」貴志祐介

          「狐火の家」貴志祐介

          一時期、うちの妻がアイドルグループの「嵐」にハマっていた時にこのシリーズのドラマをDVDで見た。 大野クンがオタクっぽい怪しげな探偵役を見事に演じていたのが印象深く、こうして読んでいても、大野クンや戸田恵梨香が演じているシーンが何となく脳裏に再現される。 実際このように映像化されている作品を先に観てしまうと、イメージが固定化されてしまうのでいけない……とはいいつつも、まあ、そこまで目くじら立てず楽しめれば良しとすべき。 推理小説の名探偵もいろいろだが、このシリーズの榎本はまた

          「狐火の家」貴志祐介