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【書評】こんなんいかが?

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忘れた頃になんども読み返す愛すべき紙の束。カバーについた手指の脂、紙の匂いと手触り。それはともに過ごした時間の記憶。本はもはや生きもの。
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#推薦図書

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「文学は懐が深い。テーマにならないものはない」
 作家の小川洋子さんはそう言い切る。それでも自身、苦手な分野があるといいます。
 それが「性・官能」をモチーフとする分野。
 
 なるほど、上品なイメージがある彼女の作品。でもそれとは裏腹に、弟の肉体を密かに慕う姉だったり、妊娠した姉に殺意を抱く妹だったりと、書くテーマは禁断領域に軽々と踏み込んでいます。
 透明感をまとった穏やかな言葉遣いに身を任せ

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「知る」はサミシイ。「驚く」はいつもワクワク。だから「不思議をただ驚いていたいんだ」  国木田独歩。

「知る」はサミシイ。「驚く」はいつもワクワク。だから「不思議をただ驚いていたいんだ」 国木田独歩。

存在理由が欲しい人間

 人はどうしたってそこに「理由」がないとどうにも居心地が悪い。
理由って因果や目的、つまりストーリーといってもいい。
でも、悲しいことに、神さまって、たぶん、宇宙の創造物たるものすべてに、なんの存在理由=ストーリーも与えていないのかもと思う。
自分も宇宙も、ただ「在る」だけ。
 意味などない。
 しかしこれって、考えるほどになんだか怖くなってくる。

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ブンガクって逃避? それを聞き捨てならない人、それが当たり前の人。

ブンガクって逃避? それを聞き捨てならない人、それが当たり前の人。

人々の最後列で丹念に落とし物を拾っていく

 いつだったか作家の高橋源一郎さんが講演で、「文学は逃避だ」と、苦笑しつつあきらめ顔で叫んでいたのを聞いて、ぼくは哀しい気持ちが湧き起こりながらも、同時に「やっぱりな」という思いも抑えることができませんでした。
 もちろん、高橋さんはそこに積極的な意義を込めてはいるわけです。

 作家の小川洋子さんも、文学というのはかつて生きた人々の最後列にいて落としも

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異世界に行きつ戻りつして織り上げる。怪談ノンフィクション・ファンタジー。

異世界に行きつ戻りつして織り上げる。怪談ノンフィクション・ファンタジー。

■「もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら」工藤美代子/角川文庫

 工藤美代子さんは、吉田茂、笹川良一、昔のラフカディオ・ハーンなどを独特の視点で取り上げてきたノンフィクション作家。

 この方の書く文章ってほんと、ほれぼれして憧れてしまう。

 ストレートでリズミカル。
 あがいた後をみじんも見せない意気のよさ。
 読者に甘えるかのような行間のない整った調べは、数式のもつ美しさにも通じ

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自分の内面を掘り続けても、閉じたナルシズムが待っているだけ。その先に出口はない。

自分の内面を掘り続けても、閉じたナルシズムが待っているだけ。その先に出口はない。

 こちらの都合や欲望におかまいなしに、そこに「冷たく」ありながら、しかしこちらをじっと見つめている。
 この得体の知れないもの。
 それが「自然」という存在。

 対して「人間」はたかが得体が知れています。
 相手は、敵なのか味方なのか。
人は互いの得体についての関心は、どうしたってそこにしかないのですからね。

■「家守綺譚」(いえもりきたん) 梨木香歩/新潮文庫

 『家守綺譚』は、自

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川端康成「眠れる美女」  現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

川端康成「眠れる美女」 現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

もうこの世にない人がいいのです

なぜなら
誰をも裏切らないから
誰のものでもないから
決して手にすることはないから
ずっと美しいままだから

うつつのものでなければ
手に入れようともがくこともないし
成就のむなしさを予感することもないし
裏切って苦しめることもないし
知りたくないことを知って憎むこともありません

『眠れる美女』 川端康成/新潮文庫

うつつの切り裂き魔・カワバタが見せる地獄の所

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