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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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2021年11月の記事一覧

smashing! こころをひらくよきものは

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 「すまんが邪魔する」 「大歓迎だよ!銭湯は大丈夫なん?」 「ボイラーの点検兼ねてちょっと改装するから、その間休むんだ」 ウミノ湯には先日もう一人、住人が加わった。店主の羽海野真弓の長年の付き合いの恋人・九十九龍一だ。赤道に近い国の海洋研究所で行っていたプロジェクトをやり終え、定年を待たずして(さっさと)帰国。10年ぶりにいきなり現れ羽海野を動揺させたのだが。 九十九が海外に行ってからは約10年間一人暮らし。

佐久間イヌネコ病院 luv.27 ユリイカ

ーーーーーーーーーーーーーーーーー お疲れさんね! 夜は 美味しい物で乾杯しましょう ハルちゃんにとっておきの ボジョレーも用意してるよ! まさむね しだら ーーーーーーーーーーーーーーーーー さて送、信、と…。 今日から俺と設楽は連休。大忙しの雲母ハルちゃんも明日久しぶりの休日。そんでハルちゃんのための「数日遅れのボジョレー解禁」の用意を始めたんだけど、昨日調達した設楽用のボウタイとサスペンダーのみのえちなコスが、俺の五感にけっこうキちゃって大変だった。あんな格好

佐久間イヌネコ病院 luv.26 エウレカ

「忘れた体にしといて、あとでびっくりさせたいん」 「御…てか雲母さんに通じますかね?」 「例の日だけカレンダーにも入ってなかったし。忙しそうだからひょっとして、多分ね」 ボジョレーヌーヴォー解禁日。毎年ド平日なので見過ごしがちだが、ワインスキーの雲母さんは毎年楽しみにしているという。交友関係の広い伊達さんはともかく、この二人と付き合うまではワインなんてのはファミレスでちょろっと嗜むくらいだった。 夜遅く帰宅したらしい雲母さんは、朝になってもリビングに姿を見せない。伊達

佐久間イヌネコ病院 luv.25 セ・ラ・ヴィ

なんということだろう、年に一度のあのお祭りの日を、伊達さんもこの僕も失念していたなんて。 立冬を過ぎ、本格的に税理士業務も忙しくなり始め、確かに油断してた。もともと僕には日付の観念が甘いところがあって、ありとあらゆる記念日、お誕生日、お得意様のなにかしらのお祝い等、余す所なくカレンダー機能に打ち込んである。ただその日だけは絶対大丈夫だろう、僕は高を括っていたんだ。 年に一度の、ボジョレーヌーヴォーの解禁日。 丁度そのことに気づいたのは、鬼丸くんの家で帳簿のお話をして

ポートレート08 「かわいこちゃん」

商店街の裏手にある銭湯、ウミノ湯。そこに最近メンバーが増えた。銭湯主人の羽海野真弓の17年来の恋人、九十九龍一。10年近く南アフリカの研究所で海洋研究に携わり、プロジェクトを終えて帰国、早期退職。いまではすっかりこのウミノ湯に馴染んでいる。 「俺も喜多村くん達みたいにマミたまって呼んでいい?」 「…誰がマミたまだ。そんなことよりどうするんだ?この折りたたみの…サマーなんとか?」 「ボンボンベッドだよ」 ウミノ湯にはちょっとした屋上がある。普段はほぼ物干場だが、九十九が

ポートレート07 「ただひとり」

俺は庭師という仕事柄、ほぼ一年中草木と関わっている。全身に染み付いてる松や刈り込んだ葉の匂い。鋏で飛んだ枝やなんかで頬に小さな傷ができて、顔洗う時にちょっとチクチクするんだ。 結城卓、俺の恋人はいつも俺のそばにいて世話を焼いたりゲームに付き合ってて、一人の時間はいらないのかな、なんて心配になったりもするけど、時々ふっと姿が見えなくなって、数時間後に戻ってくる。付き合い始めの頃はその癖を知らなくて焦ったけど、段々と理由がわかってきた。俺も卓も、ちょっと似通ったところがある

ポートレート06 「だまって」

設楽泰司。オレの兄弟は全員すごく似ている。父ちゃんがわざわざプロデュースして数年前兄弟で撮った「似たポーズ」のポラロイド写真。シャッフルクイズとやらで使っていたんだけど、写真の束が伊達さんに見つかって、そんであの人はその中でのオレを一発で見分けた。他の兄ちゃん達のもそれぞれ特徴を言ってのけ、末弟の泰良に至っては「タイラくんこないだ一緒にご飯食べた」だと。何それ聞いてないんだが。 「えー…俺ポラロイドなんてなかったと思うけどなあ」 「きっとあります。大抵は家に数枚あるはず

ポートレート05 「うみのつき」

「ほら鬼丸!クラゲくらい持てんと獣医なれんぞ!」 「そんなわけないがん兄さんのバカ!」 「鬼丸くんもうちょっと上!目瞑っとってもええから!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お盆も過ぎ佐久間の寺がようやく暇になった頃。佐久間達丸・鬼丸兄弟と彼らの幼馴染である真々部千秋は、運転免許を取ったばかりの真々部のワゴンで、南にある半島まで遊びに来ていた。 砂浜に敷かれたカラフルなレジャーシートの上で、真々部のスペシャルプロテインドリンク(?)を微妙な面持ちで飲みながら、

ポートレート04 「きせき」

高校で教壇に上る喜多村の父・千月は帰りが遅くなることが多く、一人っ子だった喜多村千弦の世話と家事を家政夫に任せていた。当時の喜多村が一番懐き、一番長い時間を過ごした家政夫は本松潤。お気軽にマツジュン、とお呼びください。が口癖の「濃眉フェイス」の二枚目であった。 「千弦くんさ今日なにがいい?」 「パパも好きだからうどんがいいかな」 「自分の好きなの言えばいいのに。先生の分は後で作るからさ」 「いいんだ。本松さんのうどん好きだから」 喜多村は聡い少年で、どうしても帰りの遅

ポートレート03 「メタファー」

結城卓は数年前までボディボードが趣味だった。というのも当時付き合っていた男性がやっていた、極シンプルな理由。大体マリンスポーツなんてのは日焼けと体力との戦いだし。結城の持論は揺らぐことはない。 それでもこの夏は、恋人である小越優羽と一緒に海に行ったりした。一度佐久間をはじめとする友人たちが宿泊先までやってきて、面白おかしい休暇を過ごせたりもした。だがそれ以外は大抵小越と二人で、ボディボードを繰ったりビーチテントの下で寝そべったり、日がな一日浜辺にいた。 昔付き合ってた

ポートレート02 「シャッフル」

秋も深まった頃の設楽の実家。設楽は6人兄弟の5番目。どこぞの6つ子とは全然別物です。ここに住んでいるのは両親と末弟で大学生の泰良だが、今日はそれぞれが留守にしていた。設楽は伊達と一緒に家の手伝い。恒例の草取りと庭掃除。伊達の手際が思いのほか良くあっという間に作業は終了。 「お疲れさんね設楽!昼飯なに?」 「焼きそば…それかオムライスですかね」 「え!オムライス初耳」 「じゃあそれにしましょうか」 支度の手伝いをやんわりと断られた伊達。まあゆっくりしてて下さい。有り難く

ポートレート01 「しっぱい」

ほんの偶然だった。雲母春己の元後見人である白河夏己弁護士の鞄の中身、いつもは目にしないような細々とした小物が、今白日のもとに晒されている(先生がうっかりロビーでぶちまけちゃった)。 「先生大丈夫でしたか、すみません気づけなくて…」 「いや、俺がうっかりして手を滑らせたんだ。ハルのせいじゃない」 広げてしまった「店」を黙々と回収する白河と雲母。愛用のシャーペン、チョコミントのど飴、ピルケース代わりの小さな巾着(じゅじゅキャラ)。雲母はそのひとつひとつにいちいち爆萌えしな

smashing! すこやかなるときもあなたと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己の恋人。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日付が変わる前に帰宅したかったが中々そうもいかない。自宅のペントハウスに向かう雲母は直通エレベーターの中で深く息を吐いた。かなりタイトなスケジュールをこなせて気が抜けたのか、もう何も考えたくないほどに疲弊しているのが自分でもわかった。 カードキ

smashing! おにのいぬまにそのみを

佐久間イヌネコ病院。週一でここに勤務している理学療法士・伊達雅宗は佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の先輩。 今日は伊達の週一の勤務日。昨晩から佐久間家入りしていた伊達は、何事もなく土曜午前を終え、片付けを始める佐久間と喜多村を手伝いながら言った。 「ほら俺来ると暇なるんだって」 「…ある意味営業妨害なんかな雅宗先輩て」 「病院なんて暇なほうがいいよねえ伊達さん」 「佐久間はほんといい子よね…」 「…(顔じゅうに不本意て書いてある喜多村魔神)」 いつもなら同居してい