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ポートレート08 「かわいこちゃん」

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商店街の裏手にある銭湯、ウミノ湯。そこに最近メンバーが増えた。銭湯主人の羽海野真弓の17年来の恋人、九十九龍一。10年近く南アフリカの研究所で海洋研究に携わり、プロジェクトを終えて帰国、早期退職。いまではすっかりこのウミノ湯に馴染んでいる。

「俺も喜多村くん達みたいにマミたまって呼んでいい?」
「…誰がマミたまだ。そんなことよりどうするんだ?この折りたたみの…サマーなんとか?」
「ボンボンベッドだよ」

ウミノ湯にはちょっとした屋上がある。普段はほぼ物干場だが、九十九が同居するようになって少しずつ手を加え始め、がらんとしていた場所が徐々になんとなくリゾート化。あれ?ここ佐久間イヌネコ病院の屋上?くらいにはなってきた。商店街で入手したらしい「ボンボンベッド」を見晴らしのいい場所に設置、嬉しそうに横になる九十九。
昨日、九十九がむこうにいた時の忘れ物やら、職員からの労いのギフトなどが詰まった荷物が現地の同僚から届いた。その中に紛れていたのは一枚のポラロイド写真。

「…むこうだとこんなふうに半裸が普通なのか?」
「ほぼみんな上着てないかな。日差しが強いときは別だけどね」

もともと心配性である羽海野にとっては、自分の恋人がこんな上半身ハダカで寛いでいて平気というわけにはいかない。しかもこれ、撮ったの誰なんだ。問いただすにも全くこの事態に動じてもいない九十九に、一体このモヤモヤをどう伝えたらいいのか。話せばわかる、そんな言い訳は聞きたくない。ベッド脇のパラソル付きのテーブルに置かれた青島ビールをグラスに注ぎながら、羽海野は悩んでいた。

「…なになに真弓。眉間が暗い。シンハーのほうがよかった?」
「リウ、怒らないから言ってくれ。これ撮ったの誰だ」
「?たしか、研修に来てたナイスガイだ。名前知らないけど」

信じてないわけじゃないが、ちょっと傾いたりしたのか?

え、それはないなあ。だって

俺もともと「男」に興味ないんだもん。真弓以外で勃ったことないし。

そのへんは揺るがないな、俺もだ。

その逞しい想像力も俺好みだ。九十九は少し笑いながら、羽海野の腕を引き抱き寄せた。謝る代わりに胸元に顔を埋める羽海野に、かわってないね大好きだ真弓。そう言って目元に口付けた。
剃り残しの髭が当たって痛いな、そう思うよりも前にこの、九十九のツクモが爆発しそうだ、くそ真面目な顔で九十九の股間を握り込む羽海野に、九十九は至極嬉しそうに、でもちょっとだけ照れた振りをしながら、硬いマットに体を預けた。

俺のchickちゃんはマミたまだけだからね。

…誰がマミたまだ。



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