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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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smashing! みどりはむ そのすがたに

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人だ。 小さい頃から宇宙や恐竜が好きだった。いつか恐竜の怪我や病気を直せる人になりたいと本気で思っていた。大きくなるにつれ、恐竜はもうこの世に存在しない生き物だと知った。 昔、確か小学生の頃。恐竜なんてもういないよって友達に笑われたんだ、ついぞ相談なんて持ちかけたことのなかった一番上の兄にそう零した。10才上の兄は、俺たちは皆恐竜の子孫なんだぞ、馬鹿にすることなくオレ

smashing! あいあふれるあいのあじ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 毎年、ウチではバレンタインよりも重きを置かれるのは前日のバレンタインイヴ。そう、俺、喜多村千弦の生誕日だからだ。仰々しくなったが皆さんごきげんようだ。 新年から、もしくは年末から徐々に増え続ける差し入れはほぼチョコレート。駄菓子から高級なのまでバラエティに富んでいる。一緒に暮らしているこの動物病院の院長、佐久間鬼丸は甘い物が好物。とくにチョコレート。昔からバレンタインの残ったやつセールやなんかで美味しいやつ

smashing! あいをうけとるべきそんざい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。経理担当である税理士・雲母春己は、そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士。 ハルちゃんが帰ってくるまでに準備準備!夜勤明けで仕事を昼で上がれた伊達と設楽は、帰宅早々キッチンに籠った。伊達はちょっと難し目のケーキを作って、設楽は鶏肉をどうにかすることに。伊達さんこのポーシェ中身が出てこないです、それ先っぽ切らないとよ、分担はされてい

smashing! いつもどおりなひび

今日の診療は午前中のみ。混みがちな半日も、意外に暇になる時がある。診察室の片付けを終えた佐久間は、昼食を用意しがてら病院周りの掃き掃除をしようと待合室から外へ出た。 いつもなら外の寄せ植えに水をやりながら歌っている喜多村の姿がない。だが耳をすませると微かに歌が聞こえる。洗濯物のとこかな、佐久間は外階段を登り屋上を見渡した。 屋上の一番奥、公園が見渡せる佐久間家ビューポイントに喜多村がいた。佐久間の足音が聞こえたのか、喜多村が振り向いて笑った。早く降りてこいご飯だぞ、吹き抜

smashing! きみはきみそれでいい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。彼が最近お試しで付き合い始めたのは、設楽の兄・ライターを生業とする泰造。 「先生、泰造さんがお見えです」 「ああわかった、通してくれ」 「あと…ンフ、見郷様もいらしてます♡」 「通してくれ…って、なんであいつが来るんだ?」 穏やかな元旦の午後。正月休みを一緒に過ごしませんか?秋口くらいに言われていた設楽泰造からのお誘い。白河はそ

smashing! げこくじょうなそのよかん

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして二人と一緒に住み始めたのは伊達の後輩で恋人、設楽泰司。 「もー何言ってるかわかんないん」 「や、だから」 年の瀬も押しせまった雲母のペントハウス。どうやら雲母が白河弁護士関係で不在な年末年始。とりあえず気持ちよく送り出したものの心持ち面白くない。ムーディな年末をハルちゃんの膝の上で過ごしてハ

おいてきぼりをだきしめて・4(了)

あの時残された心の軋みは、今となってはもう上手く思い出せない。その後追い縋ることをしなかったのは、見郷のほんの少しのプライドと、何より白河の更なる拒絶を避けたためだ。もちろん嫌われたくはなかった。でも嫌われたのだろうと思った。 「別に一番じゃなくても俺は」 「事情を知ると気を遣うだろう。そんなのはお前らしくない。それに…」 「それに?」 「…とにかく、あの時はあれでよかったんだ」 物静かで鷹揚に見える白河は、見郷の奔放さとは真逆なようだが、その実こうと決めるとテコでも動か

smashing! おいてきぼりをだきしめて・3

ー 伊達くんの携帯で失礼する。見郷だ ー 短いメッセージに、白河は数度瞬きを繰り返した。そして画面を二度見、そして三度見。明らかに覚えのある苗字。こんなのはいくらでもあると思いきや絶対ハンコは特注なやつに違いない厄介だな苗字ってやつはそういえばハルのも学校とかほんと大変だった気がす(ノンブレス)。そんな白河に痺れを切らしたように、ダイレクトで電話が掛かってきた。 「夏己だな」 「…見郷」 もー何してんのおケンケンはあ!長い沈黙を破ったのは電話口で騒ぐ伊達の声だ。 「ご

smashing! おいてきぼりをだきしめて・2

週末の仕事帰り、俺のマンションにやってくるスーツ姿の見目麗しいこの男。今日は珍しく言葉少なにしているなと思った。親友が家族旅行中の事故で亡くなったのだ、彼はそう呟いた。いつものようにこいつの好物の出前を取り、いつものようにこのまま朝を迎える。その流れを遮るような何かが起こっている、そんな予感がした。 「あいつの一人息子の後見人…そう、俺が引き取る事にした。親戚もいない。ただまだ事故の後のリハビリもあって、何をしてやったらいいか考えあぐねていてな」 「…大丈夫なのかお前のほう

smashing! おいてきぼりをだきしめて・1

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。 あれは確か、今日みたいにいきなり寒くなった頃だった。十数年前の記憶。所々あやふやだが、仕立てのいい紬の袖口に絡まってた小さな糸屑だとか、どうでもいい事ばかりが思い出される。貴重な休日、早朝に目が覚めてしまった白河は、無意識に手探りで携帯に触れ、半目ブサイク顔のまま指先を滑らせる。すると急に目が見開かれ、いつもの涼やかな目元のステ

smashing! かりのすがたであじわって

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士だ。 伊達さんのあとすぐにオレの誕生日が続くから、その間もお祭りイベント大好きオレら伊達軍団ではずっと何かしらの祝いが続いている。夏が過ぎ秋も深まった10月末、ハロウィン当日ギリギリに生まれた俺は、なんやかんやで数秒後の翌日が誕生日になっている。伊達軍団には全員、誕生日がふたつあったりするのだ。 お前の

smashing! どとうのごとくおいわいを・4(了)

日付を跨ぐ前には宴は無事お開きとなった。モーニングブッフェも払ってあるから好きなだけ食べなさい、って成長期ですか。こんなに食を重視する奢りたがりだったとは。ちゃんと誕プレ送るからな!そう言い残して見郷はハイヤーに乗り込み去っていった。 「楽しみですね誕プレ♡」 「…ケンケン昔さ、金の鎧兜くれたことあってさ」 「斬新ですね」 「そんでさ明らかにコッチ側なんだろうけど、全然わかんないでしょ?」 「それは気づきませんでした!」 ただただ面倒見よくていい奴、以外の顔見たことないん

smashing! どとうのごとくおいわいを・3

「…なあ伊達くんさ、向こうにいる子達なんだけど、覚えある?」 「向こうって?どこ?」 「ほらあのボックスぽいとこ。気のせいかな、なんか視線感じるんだ」 開始早々身バレ。なんと目敏い。雲母は少々焦りながら姿勢を低くし設楽に目配せする。緊急事態です気配を消すんです気配を。気配てあれですか息しないとかですか御意、ちぐはぐなやり取りの最中、ご注文はお決まりですか?オーダーを取りに来た店員の声と共に、聞き慣れたのんびりした声が二人の上から降ってきた。 「二人とも~来るならゆってよお

smashing! どとうのごとくおいわいを・2

大体昔からこういう堅苦しいの俺苦手だったんよ、でもなんでだか練習はめたくそでも、不思議と本番はうまくいったっていうね。それにしても長い、話長いんよしょうがないんだけどさ。あ話じゃないか発表かごめん、スピーチ?まあなんでもいいけどとにかく。腹減ったねえ腹減っ 「相変わらずこの手の集中力は乏しいな」 「…そっちこそその手元のは何なん」 「見てわからないか?ジャパニーズトラディショナル折り鶴だ」 「うっそカモノハシかと思ったん」 「その発想な」 研究発表も終盤に差し掛かり、当事