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ポートレート06 「だまって」

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設楽泰司。オレの兄弟は全員すごく似ている。父ちゃんがわざわざプロデュースして数年前兄弟で撮った「似たポーズ」のポラロイド写真。シャッフルクイズとやらで使っていたんだけど、写真の束が伊達さんに見つかって、そんであの人はその中でのオレを一発で見分けた。他の兄ちゃん達のもそれぞれ特徴を言ってのけ、末弟の泰良に至っては「タイラくんこないだ一緒にご飯食べた」だと。何それ聞いてないんだが。

「えー…俺ポラロイドなんてなかったと思うけどなあ」
「きっとあります。大抵は家に数枚あるはずなんですチェキが(?)一緒に探しますから」
「お前って拘りが細かいんよね」
「若いんで」
「そこは“御意”じゃないんね…」

伊達さんの所有する郊外の平家。その離れにある伊達さんの部屋兼物置。本人もたいして入らないその場所は、オレにとって未知の領域だった。許可なく踏み込むわけにはいかない。そう思っていたけど、実家の部屋を伊達さんと雲母さんに存分に荒らされたオレにとっては、もはやズカズカいっとけ、そう取った。けっこうきれいだったわよかった。伊達さんが窓を開けながらそう言った。たくさんの重厚な背表紙の並ぶ本棚、アンティーク調のデスク。母屋じゃ見たことのない「出会う以前の伊達さん」がここに居た。

「伊達さん、これは」
「ほんとだあ!一家に一枚はあるねえポラ?チェキ?」
「何誤魔化してんですか」
「誤魔化してないよお」

設楽の手には古いポラロイド写真。裏面にはクセの強い英語の走り書き。「Dearest」とある。最愛て。どう見てもあれだろ、家族に宛てたもんじゃないだろおい。

「伊達さんはこんな可愛い頃からもう彼氏がいたんですか」
「可愛い嬉しいん♡」
「そうじゃなくて」
「…あんま覚えてないけど、こん頃は誰とも付き合ってない、な」

えー誰の字だろな。透かしてみたりひっくり返したり。伊達さんは覚えてないと言いながらも、だいたいこれ何処この格好はなんなん。自分でウケて爆笑している。

「あー面白かったあ。設楽それもっててよ。こないだのお礼」
「撮った人思い出せました?」
「うん。住み込みで家にいた留学生の…なんとか…」
「そこは思い出せないんですね」
「何もなかったもんやだなあ」

そういや伊達さんてキス上手ですよね。設楽の呟いた唇目掛け、鼻ぶつかる勢いでキスしてきた。無言の「黙って」。オレはそのまま、埃の匂いのする床になぎ倒された。

んなもん全部、心ん中に残ってりゃそれでいいんよ。

耳元で囁いた伊達さんを、ポラの中のDK姿に変換して、ちょっとだけ背徳心も込みで、体ごと反芻した。




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