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佐久間イヌネコ病院 luv.26 エウレカ

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「忘れた体にしといて、あとでびっくりさせたいん」
「御…てか雲母さんに通じますかね?」
「例の日だけカレンダーにも入ってなかったし。忙しそうだからひょっとして、多分ね」

ボジョレーヌーヴォー解禁日。毎年ド平日なので見過ごしがちだが、ワインスキーの雲母さんは毎年楽しみにしているという。交友関係の広い伊達さんはともかく、この二人と付き合うまではワインなんてのはファミレスでちょろっと嗜むくらいだった。

夜遅く帰宅したらしい雲母さんは、朝になってもリビングに姿を見せない。伊達さんの好きなフレンチトースト、あと目玉焼きと簡単なサラダ。雲母さんの分は起きてきたら作らせてもらうとして。ほんであれなのよあれ。口いっぱいトースト頬張ってるから何言ってるのかわかんないけど、言わんとしてることもわかるようになった。御意。そう言いながら「熱々でない」コーヒーをなみなみマグカップに注いで伊達さんの前に置くと、これこれ。嬉しそうにコーヒーを啜る。

「オレ今日午後からですんで、雲母さんの様子見て連絡します」
「ん。俺は帰りに衣装調達するからさ、お前と同じくらいになりそ」
「御意(衣装…???)」

お出かけのキスも見送りのキスも、ウチの暗黙のルール。めっちゃしてから伊達さんをエレベーターに押し込む。直通エレベーターの利点最大活用してるなって思う。廊下戻って玄関開けて、軽く家の掃除を済まそうとしたら、雲母さんが丁度起き出してきてた。

「おはようございます。今朝はゆっくり?」
「おはよう設楽くん。ええ、今日は午後からなんですよ」

そういや「解禁日」のことは内緒だったな。思わず口から出そうになる文言を堪え、シャワーに向かった雲母さんの朝ごはんを用意する。しばらくしてバスローブ姿で戻ってきた雲母さんが、嬉しそうにテーブルにつく。すごくいい匂いですね。この人も伊達さんも俺が今まで会った中で一番の食い道楽で、味覚の繊細なバランスまで信じられないくらいにぴったり合う。

オレの作る飯は味も量も「大家族仕様」。今朝のフレンチトーストは4枚切りの食パンを2枚は使う。甘さもしっかり甘く。甘さ控えめなどフレンチトーストに非ず。そう思いながら雲母さんにフレンチトーストを差し出す。美しい所作でトーストを切り分け口に運ぶ雲母さん。大きな目をしっかり見開いてオレに言う。

「…設楽くんのフレンチトースト食べると、甘さ控えめのものが卵焼きにしか思えなくなりますね…とても美味しい」

ほら、言いたいことがパーフェクトに伝わるんだ。この人たちには。

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「伊達さんこれ、オレ半裸…」
「いいんよそれで!お前は見せとくべきなんよ」
「まあ、若いんで…なんですかね…」

その日の夜。夕飯から呑みに流れがてら伊達さんが調達してきた「衣装」を合わせ、二人で計画した明後日の「雲母さんサプライズ」の準備をする。その間にボジョレーなんとかも数本空きそうだ。なんて言ってる側からボディタッチが濃厚なってくるなおい主君。

雲母さんに呑んでもらう本命は、ちゃんとセラーの奥にしまってある。オレたちのサプライズと共に。




/設楽泰司
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佐久間イヌネコ病院
解禁日云々は
意識したことはないけど
ああ年末だな、って
風物詩でもあるよね
(魔神先生)





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