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smashing! おにのいぬまにそのみを

佐久間イヌネコ病院。週一でここに勤務している理学療法士・伊達雅宗は佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の先輩。

今日は伊達の週一の勤務日。昨晩から佐久間家入りしていた伊達は、何事もなく土曜午前を終え、片付けを始める佐久間と喜多村を手伝いながら言った。

「ほら俺来ると暇なるんだって」
「…ある意味営業妨害なんかな雅宗先輩て」
「病院なんて暇なほうがいいよねえ伊達さん」
「佐久間はほんといい子よね…」
「…(顔じゅうに不本意て書いてある喜多村魔神)」

いつもなら同居している恋人の設楽や雲母が伊達を迎えにくるのだが、今日は二人がそれぞれの用事で不在なため、伊達は恒例の延長お泊まりに突入。明日日曜だしね。
早々に風呂を済ませ、冬仕様になったスウェット上下に着替えた三人。オプションは真っ赤な腹巻とソックス。デリバリーのピザと月み兎(珍しい人参焼酎)を用意し、ちっちゃいものクラブ・小越と結城おすすめの生配信を観るのだ。

「あの二人がすっごい勧めてきたやつ。もう見るしかないかなって」
「えすごいねえ。なに?野外ライブ?」
「…千弦、ひょっとして卓たち何も言ってない?」
「え?」
「え?」

人気芸人さんの「心霊スポット生配信」である。

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「ウッワー怖えええええwww 待ってえ千弦離れんなって!」
「…やだな雅宗先輩俺別に離れてないし今だっておかわり持ってこようとしてたんだしなんか別に何もだし」

生配信というだけあってなかなかのハイクォリティ。日が落ちてからガチの心霊スポット行くだなんて何なのしぬの?でもそんなに怖いとこじゃない、そう感じたのが救いだ。佐久間はちょっとだけ警戒しながらも番組を楽しんでいた。

ソファーで隣り合わせになって画面を凝視する喜多村と伊達は歪なダンゴ形状になっている。あれ?そういえば伊達さんてこういうの平気だったよな?訝しげな佐久間の視線に伊達の「ウヒ」な表情が返ってくる。うんわかるわ伊達さん。千弦のビューティフルフェイスが恐怖に歪む感じたまんないよな。佐久間と伊達の間で暗黙の何かが交わされた。

「あ、あそこ今あれ…」
「鬼丸何言ってんだよあれって何俺なんも見えなかったしほらテロップにも出てないじゃん」
「佐久間、あれってさ…」
「何言ってんの雅宗先輩もうローガンなの早くね?」

俺だけディスられてるの何でええええ!伊達がちょっとだけ涙目で佐久間に訴えてくる。佐久間は喜多村をそれこそ宇宙規模で愛しているが、それ以上に今の伊達と同じく、喜多村の「怖がる顔」が大好物だったりするのだ。

番組が佳境に差し掛かり、これでもかとラップ音だの超常現象が目白押しに(フィナーレ?)。喜多村はもはや声を発するどころではなく、隣の伊達に抱きついたまま時折目で佐久間に助けを求めている。ようにも見える。うん、そろそろ潮時かな。佐久間は徐に立ち上がり、うっかりしたふりをして手元のリモコンをオフにした。

「ギャーーーーー!!!」

急にブラックアウトした画面に喜多村の悲鳴が響く。空気を読んだ伊達が喜多村を宥めにかかる。ありがと伊達さん。佐久間は心のなかで呟くと、追加の酒を取りにキッチンに向かう。

「な、ちぃたん。怖いの終わったよ?」
「怖いとか思ってないし」
「そうね、千弦は最強なんよね」

まさかこんなことで佐久間と連携するとは思わなかったな。伊達は佐久間がいないのをいいことに、腕の中の喜多村のうなじや目元に軽くキスを落としていく。徐々に落ち着きを取り戻していく喜多村が伊達を正面から見据える。

「キスなんかどんだけしてもいいって、鬼丸言ってた」
「うん。じゃあ…」

この隙にいっぱいしよか。雅宗先輩なんか今日ヒゲ当たるな。喜多村の小さな声。佐久間の携帯が少し離れたところから光を放っているのを気づけずに、伊達は「お気に入り」の喜多村を、こっそりと存分に味わっていた。


もうすこしだけ。




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