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これでダメならコピーライターは諦めようと思ってたけど。

大学生のとき、コピーライターという職業があることを知った。10年以上も前のお話。キャッチコピーだけで人の感情を揺さぶり、誰かの胸の中にあたたかな火を与えて、次の行動を促す。表現のプロ。


なんて素晴らしいんだ。

よし、


◾️札幌のポンコツ学生、飛び込む

何かを表現したいと思っていたモラトリアムな20代前半、大学生の私は、これこそが自分の生きる道、と信じて、宣伝会議主催のコピーライター養成講座を受講することにした。

アルバイト代の約16万円をはたいて。

2011年、今から12年前のことである。


コピーライター養成講座札幌校には
同期が約30人いて、それぞれが

・現役のコピーライター

・これからコピーライターを目指す人

・企業広報担当の人

がいて、みんな社会人だった。

大学生は私だけ。



コピーライター養成講座は、あの糸井重里氏も輩出した歴史ある講座である。


毎週末、半年間にわたって、各回約2時間の講座が開かれる。場所は札幌市内の雑居ビルで、講師は東京から高名なコピーライターが代わる代わるやってくるのだ。

そして「広告とはなんぞや」を教えてくれる。



唯一の大学生として受講した私だが、
刺激が強すぎた。


刺激。


意志が弱かったのである。圧倒された。

こんな世界があるのか。

みんな一生懸命に学んでいた。

そのころのいわゆる同期の中には、現在では北海道を代表する有名なコピーライターになっている方もいる。

バイタリティがすごい。



私は。

無理だと思った。

毎回。

白目をむいて話を聞いていた。




◾️才能と努力の確認

「宣伝会議賞」という
キャッチコピーの賞レースがある。

それはそれは有名なものである。

それこそ、若き日の糸井重里氏も大賞に輝いた賞であり、その後も著名なコピーライターを輩出している歴史の長い賞レース、それが宣伝会議賞。

私もたくさん応募した。

当然、佳作にすら選ばれることはなかった。


ムリムリ。私には何かを徹底的にやり遂げるというバイタリティがない。

そんな私が、寝る間も惜しんで勉強するコピーライターに割って入ろうなんて。

なんか、坂本龍一みたいな人たちがしのぎを削ってるんでしょ、ムリやん。ちゃうやん。


コピーライターという職業は諦めよう、
そう思った。


だが、なんだか諦めがつかなかった。

宣伝会議賞に似たキャッチコピーの賞レースを探す。わざわざ紙を印刷して郵送応募するほどのバイタリティはない。応募しやすいものを探した。


そして見つけた。



「書き出し小説大賞」である。




◾️謎の賞レースに活路を見いだす

この賞レースは、小説の書き出しっぽい文章を募集するものである。ただそれだけ。


小説の書き出し…、


それは例えば、夏目漱石

「吾輩は猫である。名前はまだ無い」
『吾輩は猫である』


川端康成であれば、

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
『雪国』


伊坂幸太郎であれば、

「春が二階から落ちてきた」
『重力ピエロ』


というように、その小説の最初の文章、
読者をむむむと言わせ、続きを読ませる書き出し。


書き出し小説大賞は、それを適当なテーマに沿って、架空の小説の書き出しを募集しますよ、というものである。

応募作品の中から、秀作が複数選定され、HPに掲載されるという形式であり、この記事を書いている現在時点でも開催されている。


調べてみると、この記事の執筆時点では
第241回となっている。


私が応募したのは2013年。第21回である。


テーマは「スマホ・ケータイ電話」であった。


スマホ・ケータイ電話かぁ。
これならなんかいけそう。

浅はかな私は、そう思った。


コピーライターを諦めたい私は、これで選ばれなかったら、きっぱりその道は諦めようと思った。で、夜、頭を両手で絞って考えた。


そして応募した。


秀作の発表は数週間後。
受賞はHPの掲載で知ることになるが、どうか。


その日を待った。発表は夜中だった。


別に受賞してもお金がもらえる、とか、アカデミー賞みたいな栄誉あるものでもない。ただ、私の名誉欲を掻き立ててくれるだけのもの。

夜中、実家2階の自室で掲載を待った。

そして、たしかに見た。








私の作品が掲載されている。









イェーーーーーイ!!!


夜中、2階の自室を飛び出し、
階段をズダダダダーっと降りて、

1階のリビングのドアをドカンと開けて、

ソファでクッタクタになって
寝ていた父を見つける。

夜中だ。

叩き起こした。

そして言った。




「ねぇ! 見てよ! 俺の作品が載ってる!
 いぇーーーーーーい!」





父は、むにゃむにゃして
「おぉ、そうか」とだけ言ってる。


私だけがテンション高めで、というかそんな誰かに称えられるという経験もなかったものだから、大いに喜んだ。


ただの自己満足である。


が、大喜びした。


たぶん、部屋でハクナマタタとか
踊ったんじゃないかなぁ。




◾️名乗りさえすれば、肩書きは作れる

今になって思えば、この書き出し小説大賞、誰でも受賞できるんじゃね? という疑問もある。だが、当時の私はとにかく嬉しかった。やっぱり広告の仕事を目指すんだ。


そして、


一瞬だけ、コピーライターにもなった。



というか、


コピーライター、そのほか何でも、国家資格でもない限り、名乗っちゃった方が早い。


私はコピーライターといえばコピーライターだし、コピーライターではないといえばコピーライターではない。実力の有無は置いて、名乗った方が早い。




今現在の私は、なぜか生命保険外交員になって、毎日noteを書いて、駄文を晒している。


(たぶん、たぶんなんだけど、俺って、他の人よりも文章書くこと好きなんじゃね?)


当時、誰にも言えなかった。

誰にも言えないんだから、本当にそうなのか確認もできない。が、確認できた。

「書き出し小説大賞」で。



書き出し小説大賞さん、
その節は、ありがとうございました。



最後に、この書き出し小説大賞にて、私が秀作に選ばれた作品がどんなものだったのかを紹介して、この自己満足記事を終わろう。




◾️どんな書き出しを書いたのか?

書き出し小説大賞、第21回のテーマは、
先述の通り「スマホ・ケータイ電話」である。


架空の小説の書き出しだ。


「スマホ・ケータイ電話」にまつわる架空の小説があったとして、その小説の1ページ目の最初の文章には何と書いてあるか?



私が受賞した作品は、こう。











『使わなくなった携帯電話は、小さなタイムマシンとなる』
第21回書き出し小説大賞HPより



…まあまあかな☆


〈あとがき〉
みなさんの中にも、似たような経験がおありの方々がきっといらっしゃるはずです。本当の一流コピーライターは、毎日血ヘドを吐くほどの努力をされていて、とにかく尊敬のまなざしです。どうにも中途半端な私ですが、勘違いしないようにひっそりとやっていこうと思います。最後までありがとうございました。

◾️キャッチコピーについての考察記事はコチラ



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