夏らしいことを始めた瞬間、人生が変わり始めた【Ep.3/全4回】
全4回にわたってお送りする
私が体験したある夏の1日のエピソード。
本日はEp.3を書こうと思う。
▶︎Ep.2がまだの方はこちら
2013年の夏。
公共交通機関のみを使って、美瑛町の青い池を目指す旅。「とにかく夏らしく」というコンセプトで集まった男女4人。「青い池は本当に青いのか」を確かめるため、一団はまず、札幌駅から滝川駅行きの電車に乗ることにした。時間はすでに午前10時を超えていただろうか。
距離にして約90kmである。
電車に乗って早速、それぞれの自己紹介を始める。タマちんと名乗ったその子は北海道の私立大学に通う4年生らしい。しかも、私たちと同じ高校だという。直系の後輩ではないか!
「となるとサッカー部の〇〇とか分かる?」
後輩の名前を出してみる。
「はい、仲良いですよ!」
タマちんは終始ニコニコしている。黄色いシャツにブルーのショートパンツで。それまでにも旅行に行くことは私でもあった。しかし複数人で電車旅、ましてや同年代の女性までいる。そんな経験、大学時代に新規の友達が0だった私にはなかった。なんだかキラキラしたグループにいるな俺、と思った。
電車はどんどん滝川に向かっていく。
ユウヘイはキャノンの一眼レフを持ってきていて、私たちを撮影する。ドラゴンボール3巻の出番だ。私はおもむろにカバンから出す。多分、電車旅なのにドラゴンボールを読むというギャップに面白さを感じて持っていったんだと思う。
「ドラゴンボールじゃん、いいねぇ」
タマちん以外がそう言う。
電車はどんどん進む。
途中、全員がお腹が空いたことに気づいてきた。なんせドトールで待ち合わせをしてコーヒーしか飲んでいない。
「なんか、お腹空かね?」
私は言った。
「空いたな」
「空いたね」
「空きましたね」
「そしたら、途中で美唄駅あるからさ、そこで降りて美唄焼き鳥でも食べない?」
「いいじゃん、いいじゃん!」
滝川駅の手前には美唄市という街がある。人口は少ないが「美唄焼き鳥」で有名な街だ。私たちは美唄駅で下車することにした。ちなみに美唄駅から、第一目的地の滝川駅までは直線距離で約30kmある。電車を降りてからの行動は考えず、私たちは電車を降りた。
ところが美唄駅に着いたものの、美唄焼き鳥の店はなぜか閉まっていた。普通なら周辺でやっているお店を調べてから降りるところだが、みんな面倒で調べなかった。
「ないね、お店」
「ないな」
「ないねぇ」
「ないですね。お腹ぺこぺこです」
マジでお店がない。
駅前なのにどうなってるんだ、と思いつつ、コンビニでお弁当を買うことにした。申し訳程度に焼き鳥に近い食べ物をみんなで食べる。駅に戻って次の電車の発着時間を調べると、あと1時間近く電車はないことが分かった。美唄駅には特急列車が止まらないのだ。
「困ったなぁ、1時間以上先だとよ」
「1時間かぁ」
「なるほど」
「長いですねぇ」
すると、コウスケが言った。
「バスで滝川まで行けばいんじゃね?」
「天才じゃん」
美唄駅から滝川駅に向けて発車するバスは、まもなくだった。よし、これに乗ろうと決める。真夏の北海道。青い空が広がっていて、天気も良く、湿度は低い。みんな半袖だ。
バスに乗った。美唄から滝川を目指す。客はなぜか私たちしかいない。バスの後ろの席に陣取る。滝川まで私たちは10分くらいで着くかな?と思っていた。しかし待てど暮らせど着かない。結果、約40分かかった。バスに乗っている間に、ユウヘイがLINEグループを作っていて、そのグループ名が「滝川遠くね?」となっているのを見て4人で笑ったことを覚えている。
そうこうして滝川駅に着いた。
時刻はとっくに14時前くらいだったと思う。
「えっと、ここから美瑛に行くためには…」
「美瑛、美瑛…っと」
「えーと」
「なんか遠そうですね」
滝川から美瑛に行くためには、まずは電車で富良野駅に行く必要があると分かった。富良野だ。直線距離で約60kmあるが、いかんせん山の中を通る必要がある。当時の私たちは滝川から富良野までの所要時間を調べなかったが、いま見てみると約1時間強かかる。
滝川駅には富良野行きの電車がポツンと一両だけあって、私たちはこれに乗ればいいんだと乗り込んだ。
時刻は何時だっただろうか。
15時、16時くらいだったのかなぁ、と思う。
一両だけのワンマン電車が山の中を走る。電車の窓が空いていて、森の中を抜けるので、景色がよくマイナスイオン的なやつを感じる。マイナスイオン的なやつ。電車内でどんな話をしたか覚えてはいないが、とにかく楽しかったことだけは覚えている。約1時間、電車は山の中を抜けて私たちは富良野駅に着いた。
札幌→美唄→(バス)→滝川→富良野
と、ここまで来た。ここまで来たら美瑛はもう目と鼻の先だ、と思ったら、さらにここから約40分電車に乗らなければいけないらしい。私たちは、富良野駅から電車を乗り換えて、美瑛駅を目指す。
そうして、とうとう美瑛駅に着いた。
たしかなんだけど、時刻は19時前くらいになっていた気がする。なぜかというと、夕暮れが始まっていたからだ。「青い池は本当に青いのか?」を確認するために集まったにも関わらず、すでに夕暮れが始まっている。これでは青い池に着いた時には真っ暗で何も見えない可能性すらある。
さらに。
美瑛駅に着いてからの行動を私たちは考えていなかった。そんなこと調べてから行けよ、とも思うんだけど、私たちは調べなかった。ノリと勢いでなんとかなる、そういう若さがある。そこに危うさはない。なんとかなる、と思っていたのだ。仮にバスや車で行くとすると、約20分。徒歩で行くとすればそこから3時間ほど歩かなくては行けない。
今でこそ青い池は周辺も整備され、道路も快適だが、2013年当時はそうではなかった。Googleマップで「青い池」と入力しても、表示されないような時代だ。
「さーて、どうしましょうか」
「もう暗くなってきたな」
「公共機関の縛りがあるからなぁ」
「青い池、見えるんですかね?」
心配は特にしていない。
なんなら青い池まで歩くつもりでもいた。青い池が本当に青いのかを確認するためなら、夜を徹して歩いてもいいと思っている。3時間かけて。
と思っているのは私だけだった。
「よし!ここまで来たから、公共交通機関の縛りは解除する!!!タクシーだ!!!」
ユウヘイがそう言った。
一同「おおおおお!!!!」である。
ところが、美瑛駅にはタクシーが停まっていなかった。夜になっているし、青い池はそこまで有名ではなかったこともある。はてどうしたものか、と思案を巡らせていると、タマちんが言った。
「あれ、タクシー会社じゃないですか?」
美瑛駅の目の前に「美瑛ハイヤー」の文字。建物の前にはタクシーが置いてある。タクシーだ!!ナイス!タマちん!
しかし、タクシー会社が営業している様子はない。だって、もう夜になっているから。そこでみんなで美瑛ハイヤーに突撃した。「青い池まで行きたいんですが」だ。突撃してみると、50代くらいの女性が出てきてこう言った。
「こんな時間に?もう見えないよ?」
「それでもいいんです」
「今日は札幌から電車だけを乗り継いでここまで来ました」
「見えなくても、青い池まで行きたいんです」
「本当に青いのか見たいんです!」
「それなら」ということで、その女性ドライバーは乗せてくれた。
さて、何の特別なものでもないこの旅行記。明日はいよいよ青い池に辿り着くことになる。果たして、青い池は本当に青かったのか?もはやオチが確定しているが、明日また書こうと思う。
▶︎Ep.4はこちらへ
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