思っててもいいけど、言わないで。
高校時代、数学の先生の口グセは、
「グッとこらえて」だった。
目をギョロッとさせていつもそう言っていた。
たとえば、
「この複雑な2次方程式、普通に解こうと思うとxとyをそれぞれ展開したくなるよね。でも、そこをグッとこらえて!ほーら、すると見えてきた。平方完成してみよう。さてどうなりますか、みなさん?」
グッとこらえて式を見つめると、自分達の知っている領域内に方程式がスッと入ってきて、なんだか解法の糸口が見える気がしてくる。高校の時の私は「ほぇ〜」と思っていたが、周りの友だちは「グッとこらえて」が面白いみたいでクスクス笑っていた。
さて、今記事では、グッとこらえる会話術について書いてみようと思う。
▶︎人と会話する時
私たちは、誰かが息巻いて話をしている時、ついその論理の粗探しをしてツッコんだり「待って、それってどういうこと?」と質問して会話を中断させてしまいがちだ。
方程式をグッとこらえて見つめれば、ほのかに解法が見えてくるように、人と会話をする時には、何かツッコみたくなる気持ちをグッとこらえると良い。するとその人の「言いたいこと」がじんわりと見えてくる。数式の解法が見えてくるように。
会話内容が真面目であればあるほどツッコミをグッとこらえることは重要だ。
話し手が気持ち良く喋り続けるためには、その邪魔をしてはならない。聞き手は話し手が「何を言いたいのか」を感情の変化と共に探る必要があり、それに適した質問をすべきだ、と主張したい。
要するに、ツッコミや疑問・嫌味を頭の中で思っててもいいけど、それを言わないでほしいのだ。
▶︎たとえば
友人と喋っている時。
ある女性が恋愛の話をしていたとする。
恋人と付き合うまでの馴れ初めである。
そんな会話例を書いてみたい。
【GOOD】グッとこらえた会話の例
「あのさ、今の彼氏と付き合う直前に、海に行って2人で歩いてたのね」
「ほうほう」
「江ノ島だったんだけど、結構歩いてさ、それから映画にも行って、なんかこれ付き合うのかな?って思ってたんだよね」
「いいぞいいぞ」
「でもなかなか告白してくれなくって」
「あら、それで?」
「で、いまか今かと待ってたのね。そうしたら帰り道に告白してくれてさ…」
「おお!なんて言われたの?」
「そこはまぁ、付き合おうよ的な感じだったよね」
「付き合おうよ、と言われたわけだ。それで?返事はなんて?」
「おなしゃすって言ったよ笑(テレッ)」
「おなしゃす、いいねぇ〜!」
「おなしゃす一択だったよね」
「そりゃ一択だわ」
うん、スムーズだ。
この会話の話し手の「事実」を抽出すると、
さらに、この会話の話し手の感情と、ツッコんでほしそうなところを抽出すると、
たぶん、こうだ。
話し手は喋りながら頭を整理していく。感情を言語化できていない。が、聞き手はそれでもグッとこらえて話を聞く必要がある。要らぬことを言って、数式を難しくする必要はない。
【BAD】こらえられなかった会話例
「あのさ、付き合う直前に、海に行って2人で歩いてたのね」
「え、海?俺は山派だけどなぁ」
「(そこは別にいいよ)江ノ島だったんだけど、結構歩いてさ、それから映画にも行って、なんかこれ付き合うのかな?って思ってたんだよね」
「え、告られた?なんて言われた?」
「(待てって、今言うって)でもなかなか告白してくれなくって。で、今かいまかと待ってたのね。そうしたら帰り道に告白してくれてさ…」
「帰り道かい!ムードねぇな!」
「(あ、あぁ)うん、それで付き合ったんだよね」
「え!?付き合ったの!?なんで!?」
「(も、もうええわコイツ)」
上記は極端すぎるが、こういう会話をしている人は多いのではないか。私たちにも確実にこれと似たような経験がある。話し手はイライラして話す気力をなくす。聞き手が感情に寄り添っていないし、話し手が何を言いたいのかの推測も全くしていない。
思うにトーク主体のバラエティ番組にこの功罪がある。ゲストのエピソードトークにMCがツッコむ。そのツッコミが面白くって、一同爆笑。「で、何の話だっけ?」とMCが話を戻してオチに向かうが、私は個人的にこのスタイルがあまり好きではない。もっと聞けよと思ってしまう。
私たちの会話はバラエティ番組ではない。
お互いを理解するためのものである。
だから、
グッとこらえるんだ。
思っててもいいけど、言わないで。
そうしたら見えてくるから。
話を被せないで。
嫌味を言わないで。
安心して喋れないから。
これを読んで「そんな極端な奴いるかよ笑」と思った方、そんな方こそ要注意である。
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