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蝿が死んでいる。

ベンチに座った時だった。
札幌の大通公園のベンチでよく休憩をする。
仕事の合間に。

詰めれば4人は座れるベンチに
1人で座って、視線を落とす。

蝿が死んでいた。1匹。
裏返って。ポツネンと。


「蝿が死んでいる」



頭の中でそう唱えた。するとなんだか面白くて、これは「自由律俳句」っぽいなと。種田山頭火的であり尾崎放哉的だなと。


「蝿が死んでいる」



なんか情景が浮かぶ。
蝿が死んでるんだろうな。死んでるな。
やっぱ自由律俳句っぽい。



「自由律俳句」をほんの少しだけ解説すると、一般的な五・七・五などの型にハマることをきらい、技巧を排して眼前にある風景や感慨をそのまま詠おうとするもの、らしい。代表的なものとして、



『咳をしても一人』
(尾崎放哉)

『分け入っても 分け入っても 青い山』
(種田山頭火)

この人たちが自由律俳句の大家だろうか。現在でももっぱら自由律で俳句を詠む人も多いとか多くないとか。


というわけで今回は、この2人のうち「尾崎放哉」の自由律俳句を独断で13句抽出して紹介しつつ、各句にツッコミを入れていこうと思う。


※尾崎放哉について知りたい方は「プチ文壇バー 月に吠える」さんのこの記事がオススメ

この方が尾崎放哉さん。


「蝿が死んでいる」に近い自由律俳句の魅力を知っていただき、奥深き日本語と想像力の世界へ行ってみよう。早速レッツゴー。


▶︎尾崎放哉の自由律俳句13連発

1.『すばらしい乳房だ 蚊が居る』

うん、一発目から状況が分からない。すばらしい乳房だったんだろうが状況が分からない。「いやぁ、すばらしいなぁ」とほれぼれしているところに、蚊がプーンといたので「あ、蚊がいる」と冷静になった感じ。「あ、蚊だ」という滑稽さがある。
2.『入れものが無い 両手で受ける』

何を両手で受けたのだろう。味噌汁とかの汁物はムリだ。何か固形の物だろう。本来は入れ物に入れる物で、かつ両手で受けなければならないもの。砂かな。両手で受けて家まで帰れるのだろうか。
3.『障子の穴から覗いて見ても留守である』

「明日行くから!」って前もって言っておけばいいのに。戸を叩いても、家に声をかけても出てこないもんで、障子の穴をそーっと覗いてみる。たぶん猫背で。「留守か、まぁいいか」という哀愁が漂う。
4.『爪切つたゆびが十本ある』

指だから10本あるよ。爪を切って指を広げて、両手をまじまじと見ている様子が思い浮かぶ。けっこう深爪だろうな。「今日も指は10本あるなぁ」と無表情で思ってそう。絶対無表情だ。
5.『よい処へ乞食が来た』

「おー、ナイスタイミング!」と乞食に言うことって人生であるだろうか。ないよ。なにかイライラして誰かをボコボコにしたかったのかな。いや、そんなはずはない。食べ物が余ってたのかな。「お、いいところへ!こちらをどうぞ」ってやってて欲しい。
6.『犬をかかへたわが肌には毛が無い』

腕に毛が生えてないんだろうね。なにこれ。毛むくじゃらの犬を抱っこして、自分の肌を見ると「あ、毛がないな」とでも思ったんだろうか。逆にそれまで自分の肌の毛については気にも留めたことなかったんだな。絶対これも無表情だろうな。
7.『なんと丸い月が出たよ窓』

「なんと丸い月が出たよ秋」ならまだ分かる。しかし尾崎は上をいく。「窓」で結ぶ。リビングに座ってるんだろうなこれ。「秋」で結んでるなら、ややにこやかなんだけど、これが「窓」だからやっぱ表情はなさそう。
多分この顔。


8.『雀のあたたかさを握る はなしてやる』

リリースしちゃうんだ。スズメって捕まえるの難しくないか?昔は普通に飼育していたのか。どこか物悲しさを感じる。友だちと一緒にいないよこれは。チュンチュンという鳴き声も聞こえてこない。放しちゃってる。
9.『とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた』

もう絶対に赤トンボ。窓際にある机。机上には物はなくて、ガラリとしてそう。そこで尾崎が何か書いている。ひとり淋しく。窓が開いている。トンボがくる。とまりに”来てくれた”と書くあたり、より淋しさを感じる。
10.『蟻を殺す殺す つぎから出てくる』

殺生するなよ尾崎。次から出てくるじゃないよ尾崎。殺す殺すって反復しないでよ。何があったんだよ尾崎。どんどん潰して殺してる感じ、ダークサイドに堕ちてしまってる。アナキン・スカイウォーカーだ。暗黒面だ。
11.『こんなよい月を一人で見て寝る』

いや、暗黒面に堕ちてなかった。まだギリギリ堕ちていない。「こんなよい月」と表現するあたり、まだ風流な心が残っている。本当は2人で見たいけど、見れずにふて寝してる。誰か助けてあげてほしい。
12.『淋しいからだから爪がのび出す』

む、怪しい。「からだから爪がのび出す」でもいいのに「淋しい」をつけている。さみしいのか尾崎、そんなにか。尾崎は淋しくて全ての活動をストップしてるのに、それでも爪が伸びるのは止められない。
13.『花火があがる空の方が町だよ』

誰かに話しかけられてるのかこれは。「あの、町はどこですかね?」と質問されての回答としてこれだったらヤバい。めっちゃイジワルだ。それとも子どもに言ってるんだろうか。ウンチク的に。お父さんってこういうことめっちゃ言いそう。「京都は盆地だから暑いんだよ」的な。



奥が深いなぁ、自由律俳句。



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