佐藤健太郎

サイエンスライター、「有機化学美術館」の中の人。ここでは本業以外の趣味や雑文を綴る予定。

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  • 囲碁

    囲碁関連の記事をまとめたものです。

最近の記事

囲碁の新棋戦を考えてみる

 前回の続き。このシリーズは、本因坊戦の格下げをきっかけに書き始めたものだ。これは囲碁自体の人気低下とともに、現在のタイトル戦に話題性がなくなり、人目を惹きつけなくなったためだと思う。  実際、かなり碁を打つ人でもプロのタイトル戦には全く興味がなく、誰がタイトル保持者なのかさえ知らない人も少なくないようだ。逆に、将棋の指し方などはあまり知らなくても、将棋のタイトル戦の行方には注目している人は多い(筆者もその一人だ)。であれば、囲碁のタイトル戦にもまだ人目を集める余地はあるだ

    • 囲碁普及のために思いつくこと

       というわけで、前回まで本因坊戦の縮小について思うところを書いてみた。残念ながら、囲碁という分野は衰退に向かっていると言わざるを得ない。だが、やはりこの文化は日本からなくなってほしくないと思う。  筆者自身、囲碁をやることによっていろいろなものが身についた。特に、粘り強く考え抜く能力がついたことは大きい。これは人生でも最重要の能力の一つだと思う。決断の前に抜け・漏れがないよう慎重に考えること、欲を張らず、49を与えて51を取ろうとする考え方なども、囲碁を通して身についたもの

      • 囲碁・本因坊戦縮小の衝撃(2)

         前回の続き。囲碁の最も歴史あるタイトル・本因坊戦が縮小するということをで、この業界には激震が走っている。なぜ囲碁界がここまで衰退したのか、筆者なりに考えてみたい。  歴史的に見ると、少なくとも昭和の前半まで囲碁は国民的な娯楽であったといっていい。1926(大正15)年に行われた日本棋院と棋正社の対抗戦は天下の注目を集め、これを速報した読売新聞は一挙に売上を3倍に伸ばしたという。世界最大の発行部数を誇る読売新聞の基礎は、囲碁によって築かれたのだ。  また1960(昭和35

        • 囲碁・本因坊戦縮小の衝撃(1)

           囲碁界がざわついている。三大タイトル戦のひとつである本因坊戦の縮小が発表されたからだ。といっても何がどう衝撃なのか、囲碁に興味のない人には伝わらないと思うので、ちょっとそのへんについて書いてみる。長文である。  ちなみにこれを書いている人物(佐藤健太郎)は、本業がサイエンスライターで、囲碁は小学1年のときに覚えて棋歴45年。アマ4段くらいの棋力だけど、人間相手にはここ20年くらい打っていない。プロなどにも知り合いはなく、囲碁界の内情などを詳しく知っているわけではない人間で

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          7本

        記事

          人それぞれの恐怖

           また水害が起きた。気候変動の影響もあってか、ここのところは毎年のように大きな天災が起きており、危険度は年を追って増していると思える。だが地理学科卒の友人に言わせれば、「ひと目見てそこはダメだという場所に、次々に家が建てられている」という。水害危険地域には、不動産会社から告知するよう去年から義務づけられたらしいが、どこまで機能するか怪しいものである。  第三者の防災アドバイザーみたいな人がいればいいのかもしれないが、それでも被害はなくなりはしないだろうなと思う。以前、水害で

          人それぞれの恐怖

          最長・最短の背番号

           拙著「番号は謎」は、電話番号や郵便番号、原子番号からマイナンバーまで身の回りの番号の起源や謎に迫った本であるが、中でも一番ページ数を割いたのが、野球の背番号であった。  何しろ背番号は、選手・ファン双方に強い思い入れを持たれているし、エピソードも豊富にある。背番号だけでも何冊も本を書けるだろうし、実際にも多くの関連書籍が出版されている。筆者ももっと書きたいことはあったが、だいぶ削らざるを得なかった。ということで、ちょっとこちらで番外編を書いてみるとしよう。  今シーズン

          最長・最短の背番号

          置碁の新しいルールを考えてみた

           さて今回はまた囲碁の話。囲碁には、「置碁(おきご)」というハンデ戦がある。両対局者の実力の差に応じて、いくつかの黒石を盤面に置いた上でスタートする方式だ。アマチュアの場合は、だいたい一段差につき一つの石を置く。五段と初段が打つ場合は、4つの黒石を置いて打ち始めるわけだ。専門用語では四子局という。置き石の配置については、ウィキペディアを参照されたい。  この置き石は、一つあたり約10目くらいのハンデになるという。互先(ハンデなし)の対局で30目差がつくくらいの腕の差であれば

          置碁の新しいルールを考えてみた

          はじめてのお説教

           あれは筆者がまだ会社の寮にいたときのことであるから、もう20年以上前だろうか。なぜかは知らないが、不動産投資の会社からマンションを買えという電話がしつこくかかってきたことがある。投資といっても、いかにも怪しげな聞いたことのない会社で、営業マンの声も聞くからにうさんくさい。どこの世間知らずでも、こいつに数千万の財産を託すバカはいねえだろと思うような代物であった。  最初は丁寧に対応していたが、あまりにしつこいので「いい加減にしろ」と叩き切ると、すぐさままたかけてきて「佐藤さ

          はじめてのお説教

          題名について考える

           本を書く仕事をしていると、避けて通れないのが「本の題名を考える」ことである。何しろ長い時間とエネルギーをかけて執筆した本であり、その売れ行き次第では家族一同がおまんまの食い上げになるわけであるから、そりゃあもう必死で考えざるを得ない。  しかしこれを言うとたいてい驚かれるのだけれど、著者には本の題名をつける権利はないのである。もちろん意見は聞かれるが、最終決定を下すのは出版社の編集会議であり、書き手はそこに参加できない(少なくとも筆者が今まで書いてきた社では)。もちろん本

          題名について考える

          結界としての業界用語

           書店で雑誌を眺めるのが、筆者の趣味の一つである。雑誌と言っても決まったものではなく、全く知らないジャンルのものをランダムに手にとってみるのだ。へー、こういう用語があるのか、こういうのがこの業界では価値があるんだなあ、といろいろ勉強になる。たまに、今まで想像もしなかった濃厚な世界観を持った雑誌に出会うと、小躍りしたくなるほど嬉しい。  で、この間衝撃を受けたのが、とある若い女性向けファッション誌の表紙にあった「ねおんつぇる卒業!」の文字であった。ね…ねおんつぇる?モデルの名

          結界としての業界用語

          自由置碁のこと

          囲碁AIが人類の世界王者を打ち破って、世界を驚かせたのは2016年のこと。それから4年、AIはさらに進歩して、人類の手が届かないくらいに強くなってしまった。たとえば最近、「野狐」という対局サイトで九段で打っている人が、8子置いてAIに負けたという話があった。野狐九段といえば、最低でも院生か県代表クラス、要するにほとんどプロに近い実力が必要だと聞く。それが8子置いて負けるとは、にわかには信じがたいが事実のようだ。 これが本当なら、筆者など県代表には5子くらいだろうから、AIに

          自由置碁のこと

          n路盤全滅問題

          筆者の趣味のひとつに囲碁があるのだが、今まであまり文章で書いたことがなかった。せっかくnoteがあるので、こちらを活用してたまには何か書いてみよう。 囲碁に関して、そのパズル的側面はあまり語られてこなかったように思う。筆者がちょっと考えているのは、以下のような問題だ。 ”n路盤に、黒石をいくつか配置する。ここに入ってきた白石を全滅させるためには、黒石を最初に最低いくつ置けばよいか” たとえば5路盤の場合、最初に盤の中央(天元)に黒石を置いておけば、白はどこに打っても生き

          n路盤全滅問題

          ドット絵折り紙

           新型コロナウイルス流行で学校も休校となり、時間を持て余しているお子さんも多いことと思います。ということで、簡単で個人でもご家族でも作れる折り紙作品をご紹介したいと思います。  要するに、正方形を平面的にたくさんつなげただけの単純な代物ですが、いろいろなものが作れます。題材となるドット絵は、「(キャラクター名) ドット絵」で検索すればいろいろヒットしますし、アイロンビーズや刺繍などの題材も流用できます。  筆者はこんな感じで、ゲームのキャラクタやら国旗やらモンドリアン風の

          ドット絵折り紙

          老いてゆく国で

           20代のスーパースターを見なくなったなあ、と思う。大谷翔平とか羽生結弦とか錦織圭とか大坂なおみとか井上尚弥とか、いっぱいいるじゃねえかって?確かにスポーツや頭脳競技の世界には凄い若手が続々と出てきており、歴代最強プレーヤーが現役に揃っているといっても過言ではないと思う。  そのへんの、勝ち負けがはっきりスコアで出てしまう世界では、もちろん若者が強い。だが、芸能界やら音楽の世界やらに、若いスーパースターが出てきていないんじゃないかという話である。  平成の頭ごろには、SM

          老いてゆく国で

          覚えられない男

           うちの父親は昔から洋画が好きで、放送されると毎週かじりついて眺めている。中にはしょーもない映画も多く、外国人さえ出てりゃ何でもいいのかと思ってしまうほどだが、当人は面白いらしい。  しかしその血を受け継ぐ筆者は、どうも洋画に興味がない。日本映画よりも、どうもストーリーが頭に入ってこない気がして、最後までのめり込んで観たことがほとんどない。  その理由に、最近になって思い当たった。どうも筆者は、人の顔(特に外国人の顔)を覚えられないのだ。登場人物が多い錯綜したストーリーだ

          覚えられない男

          小学校で習う漢字

           娘がそろそろ漢字に興味を示し始めたので、風呂場の壁に貼る漢字の表なんぞを買ってきた。眺めていると昔を思い出すし、いろいろと発見もある。たとえば、習う漢字の順序もやはり我々の頃とは多少変わっているようだ。そんなわけで、ちょっと学習漢字(小学校で習う漢字)について調べてみることにした。  こちらのサイトによれば、学習漢字は1948年に制定され、当時は881字だった。1977年に、「域」「宇」「羽」「映」など115字が追加されて996字となったそうで、筆者はこの世代だ。さらに1

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